婚約破棄? 五年かかりますけど。

冬吹せいら

文字の大きさ
1 / 13

婚約破棄

しおりを挟む
「リエス・プレーメン! 君との婚約を破棄する!」

えっ……。
挨拶も無しに、この人は一体、何を言っているのだろう。

メイドのシンシアに、「フォーラン様がお見えです。急いで着替えてください」と言われたのが、つい五分前。

「フォーラン様。まだ私、着替えの最中で……」
「構わないさ。そのままで」

勝手に部屋に入って来て……。なんてデリカシーの無い……。
私は思わず、ため息をついてしまった。

「リエス。君との婚約を、破棄しにきたんだ」
「はぁ……。どうしてですか?」
「それはね……」

リエスの隣に……。
桃色の髪の女性が、やってきた。

「彼女は、ケスラ・シモレーヌだ」
「こんにちは」
「あぁ……。えぇ。どうも」
「見てくれ。この美しい髪を。瞳も綺麗で……」
「まぁフォーラン様。恥ずかしいですわ」

頬を赤く染めるケスラを見て、吐き気を催した。

「つまり……。他に、愛する人ができたと?」
「そういうことだよ。ごめんね……リエス」

呆れるけど……。
正直私も、この婚約は失敗だったと思っていたので、好都合。

フォーラン様は、隣国、カルニデシアの伯爵家の令息。
特に、誰と結婚したいとか、そういう願望がなかった私は、たまたま婚約を申し込んできた彼を、受け入れることにした。
婚約が決まってから、何度も会話する機会があったけど、全然話が合わず。
適当に頷いたことを、後悔する毎日だった。

しかし、彼の方は、相当私に惚れこんだみたいで、近々私の国に移住し、一緒に暮らす家を建てたいとまで言っている。
というか、もうその家の建設は、始まってしまっていた。

それらが落ち着いてから、正式に結婚しようと……。

「ところで、あの建設中の家は、どうされるのですか?」
「痛い出費だが……。工事は中止だ」
「……失礼ながら、フォーラン様。我が国の、諸々の規則は、知っておられますか?」
「……諸々の規則?」

ダメだ。
何にも知らないわね。この人。

こちらに移住すると決めた時、フォーラン様は、婚約の手続き等も、全てこちらの役所で済ませた。

――つまり、破棄する場合の違約金、罰などは、全てこの国の規則に従う必要があるのだ。

「ねぇねぇフォーラン様。かつての婚約者の話なんて、どうでもいいでしょう? 早く国に戻って、イチャイチャしましょうよ」
「そうだな。ケスラ……。と、いうわけだから、すまないリエス。君と会うのは、これで最後だろう。今までそこそこ幸せな時間をありがとう」

しょうもないセリフを残して、フォーラン様は、雌と共に去って行った。

私は、笑いをこらえるので、必死だった。

大丈夫ですか? フォーラン様。

――婚約破棄は、五年かかりますけど。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

【完結】こんな所で言う事!?まぁいいですけどね。私はあなたに気持ちはありませんもの。

まりぃべる
恋愛
私はアイリーン=トゥブァルクと申します。お父様は辺境伯爵を賜っておりますわ。 私には、14歳の時に決められた、婚約者がおりますの。 お相手は、ガブリエル=ドミニク伯爵令息。彼も同じ歳ですわ。 けれど、彼に言われましたの。 「泥臭いお前とはこれ以上一緒に居たくない。婚約破棄だ!俺は、伯爵令息だぞ!ソニア男爵令嬢と結婚する!」 そうですか。男に二言はありませんね? 読んでいただけたら嬉しいです。

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

断罪するならご一緒に

宇水涼麻
恋愛
卒業パーティーの席で、バーバラは王子から婚約破棄を言い渡された。 その理由と、それに伴う罰をじっくりと聞いてみたら、どうやらその罰に見合うものが他にいるようだ。 王家の下した罰なのだから、その方々に受けてもらわねばならない。 バーバラは、責任感を持って説明を始めた。

そのご令嬢、婚約破棄されました。

玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。 婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。 その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。 よくある婚約破棄の、一幕。 ※小説家になろう にも掲載しています。

【完結】「かわいそう」な公女のプライド

干野ワニ
恋愛
馬車事故で片脚の自由を奪われたフロレットは、それを理由に婚約者までをも失い、過保護な姉から「かわいそう」と口癖のように言われながら日々を過ごしていた。 だが自分は、本当に「かわいそう」なのだろうか? 前を向き続けた令嬢が、真の理解者を得て幸せになる話。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚

里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」  なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。  アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。

それについては冤罪ですが、私は確かに悪女です

基本二度寝
恋愛
貴族学園を卒業のその日。 卒業のパーティで主役の卒業生と在校生も参加し、楽しい宴となっていた。 そんな場を壊すように、王太子殿下が壇上で叫んだ。 「私は婚約を破棄する」と。 つらつらと論う、婚約者の悪事。 王太子の側でさめざめと泣くのは、どこぞの令嬢。 令嬢の言う悪事に覚えはない。 「お前は悪女だ!」 それは正解です。 ※勢いだけ。

処理中です...