婚約破棄？ 五年かかりますけど。

シンシア 結婚

あれから、三年が経過した。

私は、やっぱり結婚はちょっと、考えられなくて……。

だけど、その代わりというか、なんというか。

「おめでとう。シンシア」
「ありがとうございます……」

シンシアが、照れくさそうに、お辞儀をした。

その後ろで……。
シンシアの夫になる人が、優しく微笑んでいる。

シンシアと彼が出会ったのは、去年の春ごろらしい。

別荘の門を拭いている最中、たまたまそこを通りがかった、王国の騎士。
見た目はもちろん、非常に性格が良く、誰に対しても優しくて、気さくな彼の人柄に、シンシアはすぐ惹かれてしまったんだとか。

「これからは、彼をたくさん、愛するのよ？」
「お嬢様……」
「ちょっと……」

シンシアが、泣き始めてしまった。

「どうしたの？　今日は結婚式……。笑顔溢れる日にしなきゃ、ダメだわ？」
「申し訳ございません。お嬢様を、一人にすることに……」
「一人なんて大げさな。あなたの育てたお弟子さんが、明日から来てくれるのでしょう？　楽しみだわ」
「ですが……」
「……泣かないで？」

私はシンシアを抱きしめた。

ずっとそばにいて、私の世話をしてくれた、愛すべきメイドであり……。
もはや、親友と言って良い存在だった。

手放すのは、惜しいけど……。
こんなに素敵な夫が見つかってしまったら、仕方ない。

「シンシアは、ちょっぴり頑固で、意外とドジっ娘なところがあります。あなたが支えてあげてください」
「もちろんです」

夫となる人は、力強く頷いてくれた。
彼は、何度もうちに、挨拶しにきたことがある。

とても気配りができて……。
シンシアの、細かい感情の変化にも、しっかりと気が付いてあげられる、素敵な男性だ。

彼であれば……。シンシアを任せられる。
心から、そう思えた。

「……シンシア。幸せになりなさい。これからは、メイドとしてではなく、一人の女性として、自由に生きるの。わがままを言ってもいい。動きたくなければ、ベッドで一日寝ていても良い。もう充分働いたわ。本当に……。今まで、ありがとう」
「うぅ……。お嬢様ぁ……」

なんだか、私まで泣きそうだった。
だけど、シンシアに涙を見せるわけにはいかない。

二人を見送ってから、一人で泣こう。