婚約破棄? 五年かかりますけど。

冬吹せいら

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幸せ

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「あらあら……。可愛いわね」

シンシアの子供……。リナージュを抱きかかえながら、私は笑みをこぼした。

「はい……。夫の方に似てくれて、良かったです」
「何を言っているの。この小さくて可愛らしい鼻なんて、あなたにそっくりだわ?」
「それって……。褒めているのでしょうか」

シンシアが、少し不満そうな顔をした。
私は、とても可愛いと思うけど……。
本人はあまり気に入ってないみたい。

「いいわね、赤ちゃん……。私も、欲しいかも」
「まず、結婚相手を探さねば。……例の件からも、とうとう五年が経ちましたし」
「面倒なのよね……。気を使うというか」

メイドたちと一緒に、庭で紅茶を飲む。
これに勝る、幸せな時間は、今のところ見つけられていない。

私はまだ、二十一歳だ。
もう少しくらい、勝手に生きてもいいだろうと思う。
ただ、その反面……。

「お父様もお母様もね、心配してくださるの」
「そうでしょうね……。お嬢様は、一人娘ですから」
「だけど、心配させたくないからって、さっさと決めてしまうのも違うでしょう……? また、あんなのを掴まされたら、たまったもんじゃないわ」
「でしたら、私が夫に尋ねて、良識のある男を紹介してもらいます」
「そうね。シンシアの夫が言うなら……。間違いないでしょうけど」

シンシアの夫は、結婚してすぐに、部隊長まで進級した。
元々の実力は当然のこと、やはり、人の上に立つことができるほどの、性格の良さ……。それが認められたんだと思う。

「じゃあ……。お願いしようかしら。あ、えっとね。髪は金色で」
「お待ちください。メモを……」
「あぅ……」
「って、リナージュが起きたわね。今日はここまでにしましょう」
「……すいません」
「良いのよ。ほら、抱いてあげて?」

シンシアに、リナージュを手渡した。
急に、手元から熱がなくなって、なんとなく寂しい気持ちになってしまった。

「私のことは、落ち着いてからでいいわ。今は、家族のことを……。一番に考えなさい。ね?」
「お嬢様……。はいっ、ありがとうございます」
「さぁさぁ。リナージュが泣き出す前に、早く帰らないと。起きたってことは、何か言いたいはずだから、きっと泣くわ?」
「……あぅうう」
「ほらほら! 目に涙が溜まってきた!」
「し、失礼します!」

シンシアが、泣き始めたリナージュをあやしながら、去って行った。

……いいなぁ。赤ちゃん。

やっぱり、こんなところで、ボーっとしてるわけにもいかないわよね。私も。

頑張らなきゃ。プレーメン家の令嬢として。
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