わがまま姫に領地を奪われた伯爵家の令嬢です。姫様ごめんなさい。その領地は元々捨てる予定だったんです。責任持って処理してくださいね。

冬吹せいら

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第9話 粉々になったプライド

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「くぅうう! ううう!」

 ラリッサたちが訪れてから、たった一日で、屋根のすぐ手間まで毒が迫り始めていた。 
 必死で浄化魔法を唱えるが、ほとんど効果は無い。
 なおかつ、眠ることすら許されない状況。
 一時間でも意識を手放せば、その間に毒に飲み込まれるかもしれないのだ。

 魔法を使うため、いつもより多くの食事を取る必要がある。
 ただでさえ限られた食料は、すぐに底をついてしまった。

「負けてたまるかぁ!!!」

「私は世界最強の姫なのよ!」

「毒なんかに屈しない!」

「世界は私の物なんだから!」

 必死で自分を鼓舞しながら、浄化魔法を打ち続ける。
 その間にコツを掴んだのか、徐々にではあるが、身の回りの毒が減り始めた。

「見なさいよ! 私はやっぱり才能があったんだわ! ちょっと本気出せばこのく――」

 足元がフラついた。
 屋根から落ちそうになる。

 なんとか寸前のところで踏ん張り、耐え切った。
 死を覚悟した瞬間である。

「……ケーキを食べたいの! 可愛いお洋服もたくさん着たい! 綺麗な景色も……。まだまだやりたいことがたくさんあるのよ! こんなところで死ねるかぁ!!!」

 魔法の能力は確かに向上したメーシャだが。
 エネルギーを補給するための食料は、もう残されていない。
 やがて魔法を唱えることもできなくなり、座り込んでしまった。

「使えるとしたら……。あと一回ね」

 さすがにここまで追い込まれると、早く草原に逃げなければ……。という考えに変わってくる。
 全力で魔法を打ち放てば、きっと帰り道くらいは確保できるはずだ。

「はあああああああ!!!!」

 ありったけのパワーを詰め込んで、浄化魔法を唱えた。

 ――しかし、変化はなかった。

「え……?」

 目の前の状況が信じられなかったのだろう。
 メーシャは涙を流し、屋根を小さな拳で叩いた。

「なんでよ! なんでなの!? どうして効果が無いの!?」

 毒は厚く、より強く力を増している。
 ……成長したのは、メーシャだけではなかった。

 むしろ毒を消すためには、最小限の力で、時間をかけて徐々に溶かしていく方法が適切なのだ。
 メーシャのように、力任せに消そうとすると、毒は反発し、むしろ勢いを増す。

 これは、浄化魔法を習う時、一番最初に学ぶ項目でもあった。
 
『メーシャ。そんなことも知らないの?』

 ラリッサが、自分をバカにしているような気がした。

「だまれぇえええ!!!」

 その叫びに応えるかのように、毒の浸食がまた始まった。
 屋根を覆い始める。メーシャは徐々に追い詰められ、とうとう四方を囲まれた。

「嫌だよぉ……!」

 涙と鼻水でべちょべちょの顔。
 姫にあるまじき姿だった。

「ごめんなさぁいいい!! 許してぇ! 誰か助けてください!!!!」

 ついに――。メーシャのプライドは、ポキリと折れてしまった。
 そうなれば、残っているのは絶望感のみ。

「お願いします! 良い子にしますからぁ! もう人の物取ったり、嫌がらせしたりしません! だから助けてくださぁああいい!!!!」

 メーシャの大きな声が、毒で覆われた街に響く。
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