美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!

エトカ

文字の大きさ
1 / 3

第一話

しおりを挟む


 床に描かれた円陣の中心で、私、こと倉見くらみまいはポカーンと口を開けて突っ立っていた。
 暗色のローブを着た者達が、右往左往しながら何かを叫んでいる。

 「うわぁ!本当に現れたぞ!おい、どうするんだこれ!?」
 「と、とにかく魔導師長を呼ぶんだ!」

 ……これはなに!?舞台セット!?いや、私、帰宅途中だったし。

 何が何だか分からない。

 「だからやめておけと言ったんだ!」
 「そんなこと言ったって今更だろ!間違って呼び出してしまったものは仕方がない」

 んん?
 いま何か不穏なセリフが聞こえたような気が……。


 「あ、あの、ここはど……」
 「この馬鹿者どもがっ!!」

 地鳴りのような怒鳴り声に、誰もが石のように固まった。そして、一人の老人が怒りの形相で私たちの前に現れた。年の頃は六十代、黒のローブをまとっている。おそらくこの人が、魔導士様で間違いないだろう。

 「無断で禁書を持ち出して、あまつさえ神聖なる秘儀を行うとは……っ!」
 「ひぃっ!も、申し訳ありません!!」




 後に聞いた話によると、彼らは新米魔術師で、こっそり持ち出した禁書を使って召喚の儀を行なったらしい。もちろん無断で。つまり正式なものではなく、遊び半分で私を呼んだわけだ。
 本人たちもまさか成功するとは思わなかったようで、この騒ぎとなったのだった。

 そもそも、異世界人の召喚法は古代の遺物と言われており、魔物たちが蔓延していた太古の昔に使われていたとの文献はあるが、勇者として召喚された者が魔物を殲滅したので、その後は不要の産物として廃れていき、やがて人々の記憶から消えていったのだという。

 それなのに!駆け出しの魔術師たちによって、私が呼び出されてしまった。

 事態を重くみた上層部の者たちは、当時の文献を読みあさった。そこで明らかになったのは、私はあっちの世界で死の間際に召喚されたこと。
 元の世界に戻っても、その直後に死んでしまうだろうとのことだった。

 つまり元の世界に戻った次の瞬間に、私は死ぬわけだ。うげげ……。

 退路を完全に絶たれた私は、突然別れることになってしまった友人や家族を思って落ち込んだ。だけど、ウジウジたところで事態は変わらない。こうなってしまったら、頭を切り替えて前に進む他ない。

 「私はこの国の王太子で、リチャード・レイ・グレータンドと申す。そなたには、多大な迷惑をかけてしまい心から申し訳ないと思っている。詫びとして、そなたの身の安全は我が国が保証し、グレータンド王国の民として暮らせるよう尽力すると約束しよう」

 王太子と名乗る金髪碧眼の青年が、謝罪の言葉を述べた。歳は私より少し若いか同じくらい。いろいろイケメンワードがそろっているけれど、残念なことにとんでもないブサメンだ。

 失礼を承知で言わせてもらうが、目は糸目でせっかくの碧眼はほとんど見えないし、鼻は横に大きく広がっている。そして唇は、ヒアルロン酸を大量投与したかのようなタラコ唇。

 とどめが彼の体形。まるで波に打ち上げられたトド。あるいは、トロールではないかと疑いたくなるような容姿をしている。こんなブサメンが王太子を名乗るとは、なんと罪深い。

 彼の隣には、くだんの事件を起こした者たちの上司である魔術師長が頭を下げている。国のトップたちに頭を下げられると、こっちまで落ち着かなくなるので止めて頂きたい。

 「わ、わかりました。そちらの謝罪を受け入れたいと思います。とりあえずは、住むところと仕事を探したいと思っているのですが」
 「そなたには、憂いなく過ごせるよう経済援助も含まれている。自ら働きに出る必要はない」
 「いやいや、自分の食い扶持くらい自分で何とかしますから。とは言っても、もと居たところではしがないOLだったので、こっちで何ができるか分かりませんけど……」

 電話の受け答えやパソコンのデータ入力のスキルなんて、ここでは何の役にも立たない。今の私にあるものと言えば、この健康な身体ぐらいだ。こんな事になるんだったら、もっと何か活かせるスキルを身につけておくんだった!

 こうして私は、仕事が見つかるまでお城でお世話になることになった。そして、まずは魔力テスト。そう、ここは剣と魔法の世界だったのだ!それを聞いて、年甲斐もなくワクワクしてしまった。

 「それではマイ様。こちらの水晶に手をかざしてください。魔力の属性と、潜在する魔力量を測ります」

 黒のローブを着た小太りな魔術師長さんと一緒に別室へ移った私たちは、大きな水晶が置かれている部屋に入った。この水晶を使って測定するようだ。

 「異世界から召喚された歴代の方々は、皆様大変強い魔力をお持ちでしたので、マイ様にも魔力をお持ちだと思われます」

 そんな風に期待さたらプレッシャーを感じてしまうではないか。でも、どんな魔法が使えるのかすごい楽しみだ。
 私はドキドキしながら水晶玉にそっと触れた。すると、ボンヤリと白く輝く。

 「うわぁ!光った!!」

 興奮冷め止ますに、叫んでしまった。

 「……光りましたな。マイ様には癒しの力が備わっているようです。しかし、光り具合からして力は微弱で、せいぜい擦り傷を治す程度でしょう」

 その言葉を聞いてガックリ。歴代の人たちの中でも、どうやら私は例外だったようだ。どうせ私は間違って召喚された人間だもんね。ふんだ。

 でも話を聞くと、魔力保持者は一割にも満たされない貴重な存在らしく、光魔法は聖女のみが使える魔法であるらしい。
 そこで私は魔力を活かした仕事を探すことにした。


 *


 こちらの世界に来て一週間が経った。まだ不慣れなこともあるけれど、みんな親切な人たちばかりなので、何とかやっていけそうだ。

 白亜の城からは、王都を一望することが出来る。石造りの建物が並ぶ城下町には、荷を積んだ馬車や行商人、そして多くの買い物客で賑わっている。

 そして日が暮れると映し出される夜の景色は、ちょっぴり日本の風景を思い出させた。その向こうには、一体どんな世界が存在するんだろう。いつか、見られたらいいな。そのためにも、まずは生活の基盤を整えないとね。

 グレータンド王国が平和な国で本当に良かった。安全な国で育った身としては、戦争とか魔物討伐とか血生臭いのは絶対に無理だもん。

 それにしても、こっちの人たちは独特な価値観を持ち合わせていると思う。特に、彼らの美醜の感性は私のそれと大きく違っていた。

 この国の王子様と会った時もその容姿に驚いたけれど、この世界では彼は絶世の美丈夫らしい。密かに『華麗なる金の王子』と呼ばれているって……冗談だよね?理解の範疇を超えている。

 だからと言うべきか、城内で働く人たちも個人差はあれど皆コロコロと太った人ばかり。

 実は城での仕事は一つのステータスなようで、容姿に優れた貴族の子女などが積極的に採用さた結果らしい。

 奥二重の目と日本人特有の低い鼻の私は、可も無く不可も無く。これでもうちょっとぽっちゃりしていれば可愛い部類に入るらしいけど冗談じゃない。安定の『どこにでもいる、アラサー女子』で充分です。魔力が微弱な時点で、あまり期待していなかったし。

 彼らにとって細い目と存在感のある鼻、そして大きな口が美しいとされ、ふくよかなボディが理想的らしい。太り過ぎは健康に良くないと思うんだけどね。

 「マイ様の黒髪はツヤツヤで綺麗ですね。夜色の瞳も初めて見ました」

 黒髪黒目の人はほとんどいないようで、会う人からよく珍しがられた。確かにこっちの人たちは、目や髪の色が様々だ。

 打ち上げられたトド……もとい、王太子殿下のご両親ーー国王陛下と王妃様も、陛下は金髪碧眼。王妃様は、銀髪に紫色の瞳をしていた。そして、やっぱりトロールな見た目のお二人。

 いや待てよ?彼らが美の象徴ならば、こっちの世界の不細工は、私からすると美女・美男なのでは!?そう思い至った私は、鼻息を荒くして探してみたけれど、どこを見てもメタボな人たちばっかりでいなかった。そう簡単に見つかるわけないか。

 そんな事よりも、今は仕事だ!働かなる者、食うべからず。いつまでもプー太郎でいるわけにはいかない。でも、この世界で私は何ができるんだろう……。

 そんなある日、リチャード殿下から私にお声がかかった。案内された部屋には殿下が一人掛けのソファに座っていて、その後ろには国王の側近である宰相が私を出迎えた。

 二人とはテーブルを挟んだ向かいのソファに座った私に、殿下は細い目をさらに細めて話しかけた。

 「やあ、マイ殿。こちらでの生活に少しは慣れただろうか。何か不自由があれば、遠慮なく言ってくれ」
 「お気遣いありがとうございます、殿下。皆さんとても良くして下さるので、大きな問題もなく過ごせています」

 殿下は「そうか」と言うと、上体を前屈みにして私を見つめた。

 「……実はマイ殿に折り入って相談したいことがあってな。ここにいる宰相の息子で、私の幼馴染でもあるのだが……」

 宰相の息子さんは殿下と同じ二十歳で、かれこれ十年以上前から屋敷に引きこもっているらしい。宰相さんが沈鬱な表情で話してくれた。

 「息子は容姿に恵まれなかったせいで、今までたくさん辛い思いをしてきました。一人息子なので、いずれは私の後を継いでもらいたいのですが、しかしそれ以前の問題でして。私も妻もいろいろと手を尽くして来ましたが、いかんせん息子の容姿に耐えられる者がおらず手を焼いているのです。そこで、藁にもすがる思いでマイ様にお話をした次第でして」

 なるほど、宰相の息子さんはブサメンなのね……。つまり、私の推測が間違っていなければ、彼はイケメンってことになる……のかな?

 「そこでマイ殿。専属のメイドになって、友人でもある奴の橋渡し役になってもらえないだろうか」

 「もちろんマイ様には、それに見合った賃金をお支払いします。住む部屋や食事なども、全て我が家で提供いたしますのでご心配いには及びません」

 おお、かなりの高待遇!ゼロから出発する私にとっては、願ったりな話だ。でもだからと言って即決するのも不安である。ここは一度本人と会ってから決めた方が良いだろう。

 「……そちらの事情はわかりました。まずはご子息様とお会いしてみて、それから決めてもよろしいでしょうか」
 「もちろんそれで構いません。早速ですが、明日お迎えに上がりますので、どうぞよろしくお願いします」
 「私からも礼を言う。マイ殿、どうか私の友人を救ってやってくれ」

 なんだ、このプレッシャーは。でもまぁ、世界を救ってくれと言われるよりかはマシか。……それにしても、引き子かぁ……。さて、どうするかな。日本でもこの手の問題はあったけど、個人的に直接関わったことないしなぁ。

 「まぁ、手探りでやっていきますか」

 ということで、ちょっと変わった仕事の依頼が私のところに舞い込んで来たのだった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私だけ価値観の違う世界~婚約破棄され、罰として醜男だと有名な辺境伯と結婚させられたけれど何も問題ないです~

キョウキョウ
恋愛
どうやら私は、周りの令嬢たちと容姿の好みが違っているみたい。 友人とのお茶会で発覚したけれど、あまり気にしなかった。 人と好みが違っていても、私には既に婚約相手が居るから。 その人と、どうやって一緒に生きて行くのかを考えるべきだと思っていた。 そんな私は、卒業パーティーで婚約者である王子から婚約破棄を言い渡された。 婚約を破棄する理由は、とある令嬢を私がイジメたという告発があったから。 もちろん、イジメなんてしていない。だけど、婚約相手は私の話など聞かなかった。 婚約を破棄された私は、醜男として有名な辺境伯と強制的に結婚させられることになった。 すぐに辺境へ送られてしまう。友人と離ればなれになるのは寂しいけれど、王子の命令には逆らえない。 新たにパートナーとなる人と会ってみたら、その男性は胸が高鳴るほど素敵でいい人だった。 人とは違う好みの私に、バッチリ合う相手だった。 これから私は、辺境伯と幸せな結婚生活を送ろうと思います。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

異世界推し生活のすすめ

八尋
恋愛
 現代で生粋のイケメン筋肉オタクだった壬生子がトラ転から目を覚ますと、そこは顔面の美の価値観が逆転した異世界だった…。  この世界では壬生子が理想とする逞しく凛々しい騎士たちが"不細工"と蔑まれて不遇に虐げられていたのだ。  身分違いや顔面への美意識格差と戦いながら推しへの愛を(心の中で)叫ぶ壬生子。  異世界で誰も想像しなかった愛の形を世界に示していく。​​​​​​​​​​​​​​​​ 完結済み、定期的にアップしていく予定です。 完全に作者の架空世界観なのでご都合主義や趣味が偏ります、ご注意ください。 作者の作品の中ではだいぶコメディ色が強いです。 誤字脱字誤用ありましたらご指摘ください、修正いたします。 なろうにもアップ予定です。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

【完結】男の美醜が逆転した世界で私は貴方に恋をした

梅干しおにぎり
恋愛
私の感覚は間違っていなかった。貴方の格好良さは私にしか分からない。 過去の作品の加筆修正版です。

天使は女神を恋願う

紅子
恋愛
美醜が逆転した世界に召喚された私は、この不憫な傾国級の美青年を幸せにしてみせる!この世界でどれだけ醜いと言われていても、私にとっては麗しき天使様。手放してなるものか! 女神様の導きにより、心に深い傷を持つ男女が出会い、イチャイチャしながらお互いに心を暖めていく、という、どう頑張っても砂糖が量産されるお話し。 R15は、念のため。設定ゆるゆる、ご都合主義の自己満足な世界のため、合わない方は、読むのをお止めくださいm(__)m 20話完結済み 毎日00:00に更新予定

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

処理中です...