転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた

よーこ

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 王立魔道アカデミーの入学を三ヵ月後に控え、既に成人である十五才の誕生日を迎えているイルミナートは、急激に増えた公務や執務に追われ、忙しい毎日を送っていた。

 成人の義に合わせて立太子の義も行ったため、今やイルミナートはただの第一王子ではなく、王太子となっている。おかげでやるべき仕事は増え、覚えることも多く、近頃はベルティーアと会う時間をなかなか取れないでいた。
 優秀なベルティーアが通常スケジュールよりも早く妃教育を終えたせいで、以前ほど頻繁に王宮に来なくなったため、そのせいで会える機会が減ったという理由もある。

 机上に積み上げられた書類から一枚手に取り、その内容を確認した上でゴリゴリ羽ペンを使って書き込みをしながら、イルミナートはイライラした様子で呟いた。

「あー、ティアに会いたい。ティアが足りない!」
「はいはい、しゃべっている暇があったら、一枚でも多くの書類に目を通して下さいね」

 王太子専属侍従であるキロン侯爵家令息アーロンが、自分も急がしそうに書類を分類しながらイルミナートに声をかけた。それを聞いたイルミナートの不機嫌さが更に増す。

「心配せずとも手は抜いていない。それよりもティアだ。ティアに会えれば元気もやる気も出るんだ」
「ったく、本当に殿下はベルティーア嬢のことがお好きですねぇ」
「婚約者なのだから当然だろう」
「んー、でも確か、令嬢には殿下の本気が伝わっていないんですよね」
「伝わってはいる。ただ、ティアは怖がっているだけだ。いずれわたしから婚約破棄されると思って。それでずっと一歩引かれている」

 書類の訂正をしながらアーロンは首を傾げ、しばらくしてから「ああ!」と目を見開いた。

「なんて言いましたっけ? 乙女ゲームでしたか」
「そうそれ。それのせいで、ティアはわたしが近い内に別の令嬢に心を移すと考えているようなんだ。しかも、相手は男爵家の庶子だ。その令嬢のために、わたしがティアを捨てると本気で思っているらしい」

 口をへの字に曲げるイルミナートに対し、アーロンは腹を抱えて笑った。

「殿下が? 男爵家の庶子に? あれほど溺愛しているベルティーア嬢を捨てて? ぷっくくくっ、ありえない!!」
「笑いごとではない。ティアが言うには、おまえも攻略対象らしいぞ」
「それこそありえませんよ! 俺は婚約者を心の底から愛してますからね」
「わたしだってティアを愛しているさ。それでも心変わりして、おまえやわたし、他にも数人の高位貴族の令息たちが、その光属性持ちの令嬢に恋をし、あまり裕福ではない彼女にドレスやアクセサリーなどの高価なプレゼントをしまくるのだそうだ」
「いや、ほんと、絶対にありえませんから。これでも一応、幼い頃から貴族教育はしっかりと受けていますしね」
「…………」
「殿下?」

 返事をせず、急に一枚の用紙を食い入るように見つめだしたイルミナートに、アーロンは訝る。

「どうしました?」
「乙女ゲームについて、わたしが初めてティアに話を聞かされたのは十三才の時だ。その時から既に聞いていた。わたしが好きになる相手はシヴォリ男爵令嬢フローラだと」
「その令嬢は存在したんですか?」
「いや、いなかった。シヴォリ男爵家は存在した。子も一人だけいた。しかし、それは男児だった」

 途端にアーロンがホッとした顔をした。

「なんだ、それじゃあやっぱり、すべてはベルティーア嬢の勘違いだったわけですね?」
「そう思ってた。けれど、これを見ろ」

 イルミナートが差し出した書類を受け取ると、アーロンはそれに目を走らせた。内容を理解した途端、ばっとイルミナートを驚愕の表情で見つめて青褪める。

「こ、これ……シヴォリ男爵家からの庶子に対する認知届書と、その子を正式に養女として引き取ったという報告書じゃないですか。しかも、年齢が俺たちと同じで名がフローラって……まさか、そんな」
「二日前、この世に初めてシヴォリ男爵令嬢フローラという娘が誕生した。これで明らかになった。ティアの言っていたことは、やはりすべて本当のことだったということだ」

 目に見えないなにかに自分の人生を操られているかのような恐怖。イルミナートはその恐ろしさに打ち勝つよう強く拳を握ると、その美しい碧眼に強い決意を浮かべて立ち上がった。

「これから魔塔に行って魔術師長に会う」
「え、ど、どうしてですか?!」
「おかしいだろう。ティアの話によると、王族を含む何人もの高位貴族の子弟がこぞってこの娘に恋をするのだぞ? そんなことは普通では考えられない。きっとなにか理由があるはずだ」
「その令嬢がなにかの魔法を使うのかもしれないと?」
「可能性の問題だ。ともかく、話を聞いてくる」
「待って下さい。お、俺も行きます! 俺も無関係じゃないんでーっ」


 脇目もふらず執務室を出て行ったイルミナートを、アーロンが慌てて追いかけていった。

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