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第十章:港町へ
10-9女子はちゃんぽんが好きなのです!
しおりを挟む私の差し出したちゃんぽんを見てみんな歓声を上げる。
「なんだこれ。昨日のやつより旨そうな香りがする!?」
「何かコクが増されたようなこの香り、たまらん!!」
「わ~い、ちゃんぽんだぁ~」
みんなの反応を見ながら私はフォークとスプーンを手渡す。
あ、ルラはお箸ね。
「さあ、本当のちゃんぽんを試してみてください!」
私がそう言うとみんな一斉にちゃんぽんを食べ始める。
リンガーさんとハッドさんはまずそろってスープを口に運ぶ。
ずずずぅ……
「「!?」」
カッ!
ガラガラびかーんッ!!
途端に二人の背景が真っ暗になって稲妻が走る。
なんかハッドさんなんか目線にキュピーンと一瞬光りさえ走っていた。
「こ、これは…… 何と言う美味さだ! このスープ、野菜の旨味だけではなく動物のコクと旨味が凝縮されているだと!?」
「凄いな、こんなスープ初めてだ」
そしておもむろにその上にある具材を食べ始める。
ぱくっ、もしゃ
「もごもご、ごっくん。こいつは! 昨日の野菜を煮込んだものと全く違う! なんだこの香ばしい香りに奥深い旨味は!?」
「すげぇ、野菜なのに肉のような旨味が感じられる?」
どうやらラードの旨味に気付いたようだ。
最初に肉と野菜を炒めた時にラードを少量混ぜる事により全体に動物系の旨味と香りが付く。
それは煮込んだ後もしっかりと残るので野菜以外の旨味も加算されとても美味しくいただける。
そしてリンガーさんとハッドさんはさつま揚げも口に運ぶ。
「うほっ、これちゃんぽんに入れてもウメえなっ! 塩気がだいぶ抜けるけどスープとの相性も抜群じゃねーか!!」
「確かに、動物系以外にも魚の旨味も増して塩味ベースのスープなのにとても奥の深い味になっている。強火で煮込む事によりスープも乳化していてとても濃厚に見えるし、こいつは凄いぞ!!」
言いながら次々と口に運ぶ。
そして麺を食べながらフォークを一瞬止める。
「しかし、何だろう少し油っこさが気になって来るな……」
「ああ、さっぱり味だが何度も口に運んでいるとだんだんとな……」
「そうかなぁ? あたしはまだ大丈夫だけど~」
三人ともそろそろ気付いたかな?
いくら野菜たっぷりでも連続で口に運んでいると脂っこさが気になって来る。
特にラードなんて使っているから、女性には途中からきつくなってくるのだけど、ちゃんと対策はある。
「そろそろ油っこさが気になり始めましたか? じゃあこれを少し入れてみてください。ルラはこっちでも良いわよ?」
そう言って私は用意していた小皿を二つ差し出す。
「これは?」
ハッドさんはその小皿を受け取って香りをかぐ。
「一つはビネガーです。これを入れると油っこさが和らぐんですよ。 もう一つは塩だれと言って、しょっぱさが増すのですけど味がぐっと変わっておいしいですよ」
それを聞いたハッドさんは怪訝そうな顔をしてビネガーを少量ちゃんぽんに入れてみる。
「ビネガーをスープに入れるなんて聞いた事無いなぁ、どれ……」
そう言いながらスープを一口。
「!!」
ぴきーんッ!
その瞬間ハッドさんは背景を真っ暗にして横一線目線に白いラインが走る。
「こ、これは……」
「どうしたんだハッド?」
ふるふる震え始めるハッドさん。
それを覗き込んでいるリンガーさんも同じくビネガーを垂らしてから一口……
「がっ!? こ、これはっ!! 油っこさが無くなっただと!? いや、それ以上にスープにまろ味が増していて更に旨くなっているだと!?」
ふっふっふっふっ、女性が何故ちゃんぽん好きかと言うと、これなのよね。
野菜たっぷりでラーメン類の中ではヘルシーなうえ食べやすいのだけどそれでも油っこさがきつくなってくる。
でも途中で味変でお酢とか入れるとこれがさっぱりと最後まで食べられるようになる。
油を落としてくれる効果があるから、気兼ねなく脂っこいものを食べられるという安心感もあり、ウエストにも優しいらしい。
まさに女子御用達の品!
私も自分のちゃんぽんにお酢を入れながら二人の様子を見ている。
「こっちの塩だれも美味しいね~」
ルラはまだ油っこいのが大丈夫と言っていたので塩だれを少しかけて食べている。
うまみのある塩味は柔らかい味に塩味のインパクトを加味してこれまた飽きを緩和する。
にこにこしながらルラはちゃんぽんを食べるけど、リンガーさんもハッドさんも今度は塩だれを加えてみると……
「ふおっ!? まろやかになっている所にカツーンと程よい塩気が加わってまた趣が変わっただとぉ!?」
「マジか!? どれ…… ふおぉっ!? こ、これは塩気がここまで味わいの表現を変えるだとッ!?」
男性の、特に肉体労働をこなす方には同じ食べ物でも塩を少量加えただけでとても美味しく感じるという。
それは汗を流した体が塩分を欲している為で、塩気を口にするとそれを美味しさとして補正認識してくれる。
試しに夏場の海の家でのラーメンを思いだしてもらいたい。
海水に浸かってあれだけ塩水を口に含みしょっぱさに慣れても、たくさん遊んだ後のちょっとお高いラーメンの旨さときたら言いようがない。
実はあれって少ししょっぱめにしているのだ。
本当はスーパーで三食入り一袋二百九十八円(税抜き)で売っているようなラーメンの汁の水を少し減らすか醤油を追加しているのだ。
それ程塩分一つとっても味の変化は起こる。
「凄いぞぉ! この食べ物は正しく絶品だぁ!!」
「うーまーいぃーぞぉおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
ハッドさんもリンガーさんも目が光り、口から雄叫びと言うビームを発しながらまるで三本首の金色の竜のような怪物の如く騒ぎ立てちゃんぽんを平らげて行く。
からん
程無くちゃんぽんはスープ一滴残さず空になる。
「リルちゃん! こいつは凄いぞ!! 皿うどんとやらももちろんうまかったがこのちゃんぽんはビネガーや塩だれとか言うのを入れるだけでこうも味が変わるモノなのか!!」
「まったくだ、今まで自分に作っていた料理が恥ずかしいくらいだ!!」
リンガーさんもハッドさんもそう言って私の前に興奮してやって来る。
「はははは、でもこれで作り方は覚えましたよね? お二人はこの町をよくするために頑張るのでしょう? あの孤児院にもこの食べ物がふるまえるくらいになってくださいよ」
「ああ、勿論だとも!」
「兄貴、エルフ族ってすっげーな!!」
いや、別にエルフ族は凄くなよ?
毎日飽きもせずエルフ豆とか、塩味だけのキノコスープとか、さなぎの油揚げとか……
……村に帰るのやめようかな?
「う~ん、美味しかったぁ。ごちそうさま! お姉ちゃん、これお母さんたちにも食べさせてあげたいね~」
「……うん、そう、かもしれないね」
考えてみれば魔法のポーチにはまだまだ余裕はあっていろいろと食材とかも入れられる。
エルフの村に帰ってまたあの食生活って言うのはきついから、いろいろな所で集めた食材とか使ってエルフのお母さんとお父さんに美味しいものをふるまってやるて言うのもいいかもしれない。
いや、村全体の食生活の改善だって見込める。
カリナさんもシェルさんも、シャルさんだって外の世界で美味しいもの食べているんだもん、みんなに食べさせてやっても良いよね?
「そうだね、みんなにも美味しいもの食べさせてあげたいな……」
私はそう言って窓の外、南の空を見るのだった。
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