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第十一章:南の大陸
11-13初の試み
しおりを挟む『我は血が飲みたい! それが無理なら体液でも構わんぞ?』
ヤツメウナギ女さんはそう言って私を見る。
「ひっ! い、いま何か作りますから私を見てよだれ垂らさないでください!!」
ヤツメウナギ女さんの顔の下、首から顎の辺にかけて粘度の高い透明な液体がにじみ出ている。
さっきから私たちと会話している顔に着いている口は意思疎通する為に女神様に作ってもらった物らしい。
ここから何かを食べたりは出来ず、話しをする為だけに着いているらしい。
いや、顔自体が口の上に着いている目元を引き伸ばして作ったものらしく、本来はあの口が開いたままの状態らしい。
流石に女神様、ヤツメウナギ女さんの身体をいじくって見た目を何とかしてしまうとは……
でもあの口は衝撃的すぎた。
場合によっては他の生物吸い付いてその体液やら血液やらを吸い取っているとか。
「あ、あんなのに吸い付かれたら跡が残りそう……」
私はヤツメウナギ女さんのあの口を思い出す。
丸い輪っかのような口に円周状にびっちりと並ぶ三角の歯。
それが何重かになっているから見ていて気持ち悪いし恐ろしい。
実際にはかじりついてそこからにじみ出るものを吸うだけらしいけど、噛まれたら痛そうだ。
「しかし、血液を使った料理なんて……」
そう言いながら前にとっておいたイノシシを引っ張り出す。
捕まえた時にそのままポーチにしまっておいたから新鮮、と言うか仕留めた時のままになっている。
あの時は血抜きをする暇も何も無いのでそのままポーチに入れちゃったけど、おかげでこれから血液が取れそうだ。
「とは言え、どうしたものかな? そう言えばヨーロッパとかには血液を腸詰めにしたソーセージとか有るって聞いたけど、流石にそれを作るのは大変よね?」
とりあえずイノシシを血抜きする為に石の上に置いてその首元をナイフで掻っ切る。
下に置いておいたお鍋にその血を溜めてみる。
『おおっ! なかなか新鮮そうな血ではないか!!』
「お姉ちゃん、あたし血を飲むのは嫌だよ?」
ヤツメウナギ女さんとルラは私の下処理を見ながらそんな事を言う。
私はヤツメウナギ女さんに聞く。
「あの、この血ってそのまま渡せば良いのですか?」
『我のこの口では吸いつかねばならんのでそのまま渡されても困るのじゃが?』
バコン!
そう言ってまたあの口を開く。
「ひぅっ! わ、分かりましたからそれ止めてください!! 今にも吸い付かれそうで怖いです!!」
目の前によだれ垂らしたあの円形の口で歯がぎっちにあるのを見せられたら夢に出るわよ!!
「じゃあ、お姉ちゃんどうするの?」
『血液の料理などあるのか? 嬢ちゃんたちエルフはそのような食事をするのか?』
「いえ、私たちだって血液を食事にするなんてしませんよ。でも昔聞いたあれならば……」
その昔テレビで見た世界の変わった料理に確か中国では鶏とか豚、アヒルの新鮮な血液に塩を混ぜ、熱することで「血豆腐」とか言うものを作ると言うのを見た。
出来あがったそれはレバーのような、豆腐のようなモノでお豆腐と一緒に細切りにしてあんでとろみをつけた様なスープにしていた。
私はイノシシから取った血液に塩をまぶし鍋を火にかける。
血液を煮るのって初めてだけど、物は試しだった。
やがてそれは粘度を増して固まり始めた。
そして水分と赤茶色のゼリーの塊のようになって別れ、プルプルと震える。
「えっと、これをこう切り分けて……」
取り出したそのレーバーのような物をまな板の上に置いて包丁で輪切りにする。
すると中は赤みが強い豆腐のような状態だった。
私はそれを更に細切りにしてお豆腐も取り出し同じく細切りにする。
鍋にお湯を沸かし、そこにこれらを入れて塩、エシャレット、胡椒を少々入れて煮込む。
火が通ったら今度は片栗粉を軽む水で溶きゆっくりと鍋の中を回しながら入れて行く。
「と、確かこんな感じだったわよね……」
大体出来上がったそのスープを恐る恐る味見する。
「んっ! これって、意外とあっさりしていて血の味がしない? 思っていた以上に優しい味だ!!」
見よう見まねで作ってみた「血のスープ」。
思った以上に飲みやすい。
「姉ちゃん、それ本当に飲めるの?」
『ふむ、エルフとは変わった料理をするんだな?』
『なんじゃ、なんじゃ? せっかくの生き血を料理してしまうのか? まあいい、腹が減ったから早く食わせてもらえんかの?』
私はそれらをお椀によそってみんなの前に出す。
「えっと、『血のスープ』です。熱を通す事により殺菌効果が上がり安心して食べられます。確か血液自体は栄養素が高いので食べること自体は悪くはないはずです」
私がそう言うとルラはお椀を持ち上げて鼻をスンスンと動かす。
「血の匂いがしないね……」
『ふむ、温かいものは助かるな、リザードマンは寒さには弱いからな、どれ』
『我はどうやってこれを食べればいいのじゃ? 吸い付けんぞ??』
ヤツメウナギ女さんはそう言ってお椀を持ち上げる。
私はスプーンを手渡し言う。
「熱いので程よく冷めたらこれですくって口に流し込めばいいと思いますよ? 血液自体は凝固しているので飲むよりは効率よく栄養摂取できると思うんですけど」
『ふむ、では試してみるかの……』
そう言ってヤツメウナギ女さんはバコンと顔を上げてその下にある口を露出させる。
器用にスプーンで血のスープをすくい上げそれを放り込むかのようにあの丸い口に入れる。
もにゅもにゅと動く歯が怖いんですけど……
『ほうっ! これは!! 吸い付くより一度に血液の塊が腹に入って来たわい! 味も塩味が効いてってうまいぞ!!』
そう言いながら何度もスプーンでそれを放り込んで行く。
「ううぅ~、ぱくっ! ん? あ、あれ?? 味がほとんどしない? いや、なんか優しい感じだ!!」
『ふむ、これはとろみが有って癖がなく飲みやすいではないか!!』
ルラは恐る恐る血のスープを飲んでみて驚きにぱちくりしてまたそれを口に運ぶ。
「なんか噛むときゅっきゅっする時があるぅ~ 面白ぉ~い!」
最初の警戒心は無くなってそのスープをどんどん口に運んで行く。
『うむ、血を料理するのも悪く無いではないか! エルフよ、もっとこれをくれ!!』
「わ、分かりましたから口開いたままこっち見ないでください! そのまま吸い付かれそうで怖いですってば!」
ヤツメウナギ女さんもなんだかんだ言ってこの血のスープを気に入ってくれたようだ。
流石にあの液体のままごくごく飲まれたら気味が悪い。
それに初めて血のスープなるものを飲んでみたけどこれってレーバーより食べやすかもしれない。
『ぷはぁーっ! 喰った、喰ったぞ。我は満足じゃ!!』
「あれ? もういいんですか?」
見た目より粗食なのかな?
お椀に二杯でヤツメウナギ女さんは満腹になったようだ。
『我らは見た目ほど量をとらずに済む種族故、血や体液など効率よく吸収できるのじゃ。これでまたしばらくは食事をせんでも大丈夫じゃぞ?』
そう言ってあの口を開いたままこちらを見る。
「だから怖いのでそれやめてくださぁーぃぃっ!!」
思わず叫ぶ私だったのだ。
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