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第十六章:破滅の妖精たち
16-29相談
しおりを挟む翌朝、私たちはアインさんと一緒にエルハミさんが滞在するとされる神殿に向かった。
「そう言えば、エルハイミさんって神殿で何してるんですか?」
「何と言われてもなぁ…… まあ、行けば分かるだろう」
アインさんはそう言って軽くため息を吐く。
私たちは村の広場を通ってその奥にある石造りの神殿に向かう。
ここは小さいながらもその石に刻まれた装飾が凄く、ユーベルトで見た総本山にも引けを取らない程凄い神殿だった。
いや、もしかしたら今まで見てきた神殿で一番すごいかも?
そんな事を思いながら神殿に向かうと、入り口に一人のドワーフがいた。
「おはよう、ケベル。女神様はいらっしゃるか?」
「おお、先生。おはよう。女神様なら相変わらずあの部屋にいらっしゃるが?」
「そうか…… まあ、あれで少しは大人しくなっているのなら良いか。それと、シェル様やコク様もいらっしゃるか?」
「ああ、女神様のお目付け役として一緒におられるはずだが?」
アインさんはそのドワーフに挨拶をしながらエルハイミさんたちについて聞く。
どうやらちゃんと神殿にいるようだ。
と、そのドワーフが私たちに気付く。
「ふむ、そちらの嬢ちゃんたちが客人か。シェル様からも話は聞いておる。この村にシェル様以外のエルフは珍しいからな」
「あ、おはようございます。私はリル。こっちは双子の妹のルラです」
「ルラだよ、おはよー!」
私たちは一応挨拶をすると、そのドワーフも挨拶を返して来る。
「この神殿の警備をしているケルベだ。して先生、エルフの嬢ちゃんたちを連れて来るとは見学かの?」
「いや、ちょっとシェル様とコク様に話があってな。ナディアの事でだ」
「……そうか。分かった。俺が呼んでこよう」
そう言ってケルベさんは神殿の中に入って行く。
そしてしばらくするとシェルさんとコクさんがやって来た。
「おはようございます、シェル様、コク様」
「おはようアイン。どうしたのこんな朝早くから?」
「おはようアイン。ふむ、あなたがここまで来ると言う事は赤お母様についてですか?」
アインさんは出て来たシェルさんとコクさんに挨拶をすると、ややも疲れ気味の二人はアインさんに応える。
そして私たち二人にも気づく。
「あら、リルにルラも? おはよう」
「リルにルラですか。おはよう」
「おはようございます、シェルさんコクさん」
「おはよ~」
挨拶してくれるので挨拶を返しているとケルベさんは言う。
「こんな所で立ち話も何じゃから神殿の客間に行くが良い。司祭にはさっき先生が来た事を伝えてあるからの」
「すまんなケルベ。シェル様、コク様、ナディアについて大切な話がある」
ぴくっ
ぴぴくっ!
アインさんがそう言うとシェルさんもコクさんも眉毛をぴくっと動かす。
まあ、いきなり本題だもんね。
そして二人は軽くため息を吐いてからくるりと踵を返してついて来るように言うのだった。
* * *
「それで、ナディアは無事お産できたの?」
「ああ、すでに生まれていて元気にしている。男の子だったな」
「ふむ、男の子か、きっと赤お母様の子であるから勇敢な戦士になるでしょう」
シェルさんは応接間について私たちにソファーを進めて自分たちも座ると、まずはナディアさんの子供について聞いて来た。
アインさんも簡潔にそれに応えると、それを聞いたコクさんも頷きそう言う。
ナディアさんの子供が勇敢な戦士になるかどうかは置いといて、一応出産が無事だった事には喜んでいる様だ。
「それで、アインがわざわざここへ来るって事はナディアの出産報告だけじゃないんでしょ?」
シェルさんはそう言って出してくれたお茶を一口飲む。
いつの間にか給仕にクロエさんとクロさんがいたのは驚いたけど、そう言えばこの二人も竜の姿になってここへ飛んで来たのだっけ。
「勿論だ。女神様はナディアの出産が終わればまた『説得』を始めるだろう? この村全部を巻き込んで」
「う”っ」
アインさんがそう言うとシェルさんはうめく。
一応自覚はあるのか……
「ふう、お母様にも困ったものです。赤お母様は既に伴侶を見つけ、子を成してつがいがいると言うのに」
コクさんもそう言ってため息をつく。
「それでだな、単刀直入に言う、ナディアがティアナ姫として覚醒した事を無かったことにすれば女神様はあきらめてくれるのだろう?」
アインさんがそう言うとシェルさんもコクさんもぴくんと眉を吊り上げる。
「アイン、まさかあんたナディアをどうこうするつもりじゃないでしょうね?」
「手としてはありかもしれませんが、流石にそれはお母様の意に反します」
ぶわっ!
いきなり二人からもの凄い殺気がにじみ出る。
この私でさえ分かるほどの。
「まてまてまて、何か勘違いしている様だがそう言う事じゃない。その為にリルたちを連れてきたのだからな!」
流石にアインさんも慌ててそう言う。
これだけの殺気、私だって今まで一度も受けた事はない。
アインさんのその言葉に二人は一旦殺気を押さえる。
アインさんは息を吐き、言う。
「この方法はリルから直接話してもらった方がいいな。リル」
「はい。えっと、正直私は今のエルハイミさんに態度には意見があります。いくら好きな人の転生者って言っても、今回はもう他の人と夫婦になっていて子供まで生まれています。せっかく幸せな家族を築いているのに、それを引き離そうと言うのはいくら何でも酷すぎます。だから私のチートスキル『消し去る』でナディアさんがティアナ姫に覚醒した事を無かった事として『消し去る』してしまおうという相談です」
私がシェルさんとコクさんにそう言うと二人は黙って動きを止めた。
一体どう感じているのだろうか?
「確認するわ、リルはこちらに異界から転生した転生者で、『あのお方』から力を授かっているのね?」
「はい」
シェルさんは慎重に確認するかのようにそう聞いてくる。
そしてコクさんを見て頷く。
「では聞くけど、前回エルハイミの女神としての力を消したあの力を使うって事ね?」
「はい、ナディアさんのティアナ姫としての覚醒した事を『消し去る』って言う事は、多分今までの時間そのものを『消し去る』ことになると思います。そしてそれをする事により今世のナディアさんはティアナ姫として覚醒する事は無くなるはずです」
私の説明にシェルさんはしばし考えこむ。
しかしコクさんは私に質問をしてくる。
「リル、それはつまり時間がさかのぼり赤お母様が覚醒する直前まで我々も時間が戻ると言う事ですね?」
「多分、そう言う事だと思います」
コクさんのその質問に私は予想される結果を答える。
今まであった事も無かった事になると言う事は、時間そのものが全部なくなって起点となる時間軸まで戻ると言う事だ。
「出来る……の?」
「分かりません。例えば今私たちがこうして話たことを無かった事として『消し去る』しても、それが出来たかどうかか確認する方法がありません。私たちの時間軸は一緒に戻るのでそれを見れるのは『あのお方』だけになってしまいます」
私がそう言うと、シェルさんはまた黙って考え込んでいる。
しばしそうしてからまた私に聞いてくる。
「もし、それが出来たとしても、それはこの世界全部に影響が出るわ。そして時間を操る事はエルハイミも出来ない、いいえ、今までの女神様たちでも出来ない事よ?」
「はい、でも『あのお方』はそれが出来るんでしょう? 現にアリーリヤはあちらの世界で私と同じ歳でした。二人とも死んでしまってこちらの世界に来ましたが、アリーリヤはこちらの世界に数百年前に転生しています。そして私はたったの十七年前です。これは『あのお方』がこちらの世界に転生させるときにわざと時間をずらしているってエルハイミさんも言ってましたし、その力をもらった私ならできるんじゃないかと思うんです」
私がそう言うとシェルさんはじっと私を見る。
そして息を吐いてから言う。
「それは確かに魅力的な提案ね。しかもナディアがティアナとして覚醒した事が無かったとなれば私もコクも、いいえ、みんなこんなごたごたをしなくていいって事よね? 私は賛成だわ」
シェルさんはそう言ってコクさんを見る。
コクさんはお茶のカップを置いてから言う。
「私はお母様の意思に従うまでです。勿論赤お母様も大切ですが、それ以上に私にはお母様が大切ですから」
そう言て私に向き直って言う。
「お母様に害がないならリル、あなたの申し出は私としても良いと思います」
コクさんはそう言ってにこりと笑う。
この人が笑うのってあまり見た事が無いけど、エルハイミさんの大人バージョンのその笑みはやはりドキリとさせられるほど美しかった。
「そうなると、後は女神様だけだが。シェル様、コク様どうしたら良いと思う?」
「う”っ」
「ぐっ」
アインさんが話をまとめようとして最後に当の本人であるエルハイミさんについて聞くとシェルさんもコクさんも思わずうなってしまう。
まあ、こう言った事は出来ればエルハイミさんの承諾も取りたい。
エルハイミさんには悪いけど、今のナディアさんたちにこれ以上干渉するべきじゃないと思う。
それにエルハイミさんは悠久の時を過ごせる。
私たちエルフと同じく。
だったら、今回だけはあきらめてもらう方が絶対に良いと思う。
「あの娘が素直にこの話を受けるとは思えないけど……」
「お母様に何も言わずにそれをする事も行きませんからね……」
シェルさんとコクさんは大きくため息を吐いてから立ち上がる。
そして私たちに言う。
「ついて来て。エルハイミに会わせるわ」
シェルさんにそう言われ、私たちはエルハイミさんのいる部屋へと向かう事になるのだった。
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