安瀬乃片敷六丁目六番地六号より

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第七話 五番目_2

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「マジでどこ行ってたんだゲンさん」

 あれからゲンさんの定宿を中心として、外周に向かって円を描くよう顔見知りの十人ほどを尋ねて回ったが…結果は芳しいとは言えなかった。

 確かに、いくつかは餌場にこなくなったという情報は得られた。が、そこから先が問題で、ゲンさんの人柄から「どうせ新しい餌場か、儲け話にありついたんだろう」と決め付けてしまう者が多かったのだ。
 そうでない者も、自分の日ごろの食い扶持を稼ぐのが精一杯でそこまでゲンさんの動向に注意を払ったりしてはいない。これがいなくなる前なら、タバコなど渡すことで注意を促すこともできたろうが…こんなことになるとは思っていなかったし、今更後の祭りだ。

「…しかし、ここまでまったく足取りが知られてないってのも妙な話だな…」

 当然ながら、彼ら浮浪者が毎日食事にありつける保証は無い。

 大抵ゴミ出しには燃えるゴミ、燃えないゴミなどの区分があるからだ。大抵の店では燃える、いわゆる残飯はカラスや犬猫対策で燃えないゴミの日には鍵付きの屋内に置いたままということも多い。だからこそ、今日は東で明日は西、と複数の餌場を渡り歩く必要がある。

 だが…塒の東西南北、いずれでも見かけないということが果たしてありえるのだろうか?

 余程遠くまで出歩いている…いや、ゲンさんもいい歳だ。それに前あったときは冷えから来る関節の痛みを訴えていたからそうそう遠出するとは思えない。

 であれば、遠くに引っ越したという可能性もあるが…ゲンさんからしてみれば情報料をくれる俺は貴重な収入源。間違いなく俺宛にメッセージを残すはず。
 とすると、残る可能性としては…

「塒の近く、か」

 発想の逆転って奴だ。
 塒と目の鼻の先、であれば餌場の移動で外周にいる人たちの目に留まらないのも納得できる。

 ただ、ゲンさんの塒って住宅街の奥にある公園なんだよな。餌場にはもっとも縁遠いといっていい場所だが…?
 ま、他にあてもないし、行ってみるだけ行ってみることにするか。

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 片敷六丁目公園は、繁華街である駅前から徒歩十数分ほど歩いたところにある。
 ひっそり寝静まった住宅が並ぶなかにぽつんと孤立している旗竿地で、唯一の入り口から見える正面突き当りには「公園内で玉遊びはしないでください」と書かれた真新しい看板が芝生との境界にぶっ立てられている。

 その裏に茂る小さな森の中に、あちこち穴の開いたブルーシートで簡単に作られた即席テント。それがゲンさんのここ数十年の主な塒だ。

「俺っちみたいな浮浪者にとっちゃありがたいけどねぇ。いまどきの子供は遊ぶ場所がなくて大変だぁ」と看板が立てられた当時のゲンさんは苦笑してたっけ。

「ゲンさん、いるかい」

 前に生える木の枝に下げられた、襤褸タオルの暖簾をかき上げ中を覗き込む。風呂と縁遠い生活から醸成されていた饐えた匂いは消えたままであり、主の長期不在を裏付けている。

「やっぱりいないまま、か」

 テントの中には僅かながらの洗ってある衣服、非常時用のレトルトの弁当やカップめんが数個残されているのみ。他の浮浪者も似たようなものではあるが、ゲンさんは特に物に拘りが無いようで取材協力として渡した過去の週刊誌なんかもとっくに資源回収に出されて残っちゃいない。携帯が無いどころか完全に情報から隔絶された社会で、俺なら二日と生きていける気がしないな。

「おや?」

 そんなブルーシート以外くすんだ色合いの中で、やけに鮮やかな赤が視界の隅に映った。

 脱ぎ捨てていたテレコの靴下に埋もれるように収まっていたのでどかしてみる…中には赤を貴重としたカラフルなチラシだった。物持ちの悪いゲンさんにしては珍しい。

「鶏腿肉料理専門店、とり阿世。新装開店オープン記念」

 日付はちょうど一月前。

 わざわざチラシを残してるくらいだ、何か関係あるのかもしれない。
 他に手もないことだしと、俺はチラシを手に記載された店舗へ向かうことにした。

「店があるのは…商店街の外れか」

 公園から出て、東に少し行った所に商店街はある。該当の店は地図を見る分にはここから十分も掛からずいけるようだ。

 商店街自体は昨今の例に漏れず、日中でも駅前にある数軒以外は高齢化による閉店で赤茶けたさびの浮いているシャッターが下りている店ばかりだ。昼でも活気がないが、夜半にもなった今となれば廃墟の中に放り込まれたような心細さが沸き立ってくる。廃墟マニアからすれば垂涎の場なんだろうが…

「あれか」

 そんな中で、ひときわ目立つ赤いオーニングの店が見えてきた。チラシの色はここからとっているのだろう。

 商店街の終わり間近にある、レンガ風の壁をあしらわれた店。
 十字になった商店街の角に立ち、側面にロッカーを挟む形で勝手口と別階への入り口だろう扉が見える。
 ぱっと見店舗自体は決して大きくなく、二階含めて店内で数席あるかどうか。こちら側に面した部分にガラス張りのショーケースがあり、その上部にあるだろう受け取り口と入り口とはシャッターが閉じている。

 その入り口部分に、でかでかと「とり阿世」という文字と、マスコットらしきキャラ――目がイってる包丁持ったコック服のおじさんが、これまた目がイってる鶏の首を掴んでこちらに向けて誇らしげに構えている――が描かれている。

「できたばかり、か」

 確かに、店は新装開店したばかりとあって清潔感にあふれている。
 しかし…一歩引いてみると、子汚い周りとのコントラストの落差が激しい。
 こんなところまで来る客、いるんだろうか?
 昨今は流行病の影響で飲食業界は軒並み大打撃を受けている。そんな中、立地的に厳しい場所に新店舗とか博打が過ぎるだろう。

「ああ、そういうことか」

 しばらく考えて、やっと理解した。顧客や店側の視点で考えるからおかしいことになるのだ。

 開店間際でどれくらい売れるか算出が難しいから、大量の廃棄食材が出てるに違いない。それは浮浪者からすれば泣いて喜ぶ事態だろう。

 それに、チラシは大抵家のポストを経由して伝わるから大抵の浮浪者たちは新装開店した店があるということすら知らないはずだ。ましてやこんな寂れた商店街の一番奥に飲食店が出るとは想像もしないに違いない。ゲンさんの新しい行き着けは、まず間違いなくここと見た。

 つい嬉しくなり、タバコを吸おうとして反射的に腕時計を見る。

「む…とりあえず、今日はここまでだな」

 もう日も遅い。今から向かったとて、さすがにゲンさんもうろついていないだろう。
 彼を探すのは後日にすることにした。

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ツギハ1ニチ19ジ
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