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第十一話 ミツキ様_10
しおりを挟む「よし、それじゃあすみませんが腕は縛らせてください。暴れられても困るんで」
三城のネクタイで後ろ手に縛られた桂木は、促されるまま二人の前を立って歩き始めた。
「…一階はすでに俺が調べたが、そこにはいなかったぞ」
「それなら、一先ずは上に向かって調べていきましょう。先に二階を探してからになりますけど」
後をついてくる三城の言葉に、大島は何も返さない。
「僕たちもここまでしっかり調べてきたわけじゃないんで」
「声を聞いて直行したって訳か」
「ええ。ちょっと、剣持さんのことがよぎっちゃって…」
それきり、互いに口をつぐむ。
幾つかの部屋を無言で調べていく三人。
最後の部屋に桂木が入ったところでどさり、背後で音がした。
「?」
振り向く、がついてきているはずの三城はいない。
もしかして躓いたのか、きびすを返し廊下側に顔を出したときふっと影が差した。
「うっ!?」
反射で一瞬硬直した桂木の鼻先を、ぶぅんと何かが掠める。
「大島!?」
それは、大島が手にしたコンクリの塊だった。
「ちっ」
「三城くんっ…」
その背後に、頭部からだくだくと血を流している三城が倒れているのが見える。
「大人しく死ねっ」
大島が再びコンクリを振りかぶる、が鍛えていない彼ではわずかばかり動きが緩慢になり、その間に桂木は我に返ることができた。
「うぐっ」
大島の懐に潜り込むようにして体当たりを行い、攻撃を回避する。互いによろめくが、先に立ち直ったのは体格に勝る桂木のほうだった。
「逃げるなっ」
三城のことが気にならないでもなかったが、他人を心配するどころではない。コンクリ塊を拾いなおした大島が追いかけてくるのを肌で感じながら、桂木は四階まで駆け上がる。
だが、限られた空間を逃げ続けるのにも限界がある。後ろ手に縛られたままなので戦うこともできず、桂木はほのぼのローンの部屋に逃げ込むのがせいぜいだった。
「桂木さーん。どこですかぁ?」
小声で自分を探している声に、桂木は身を硬くする。どういうつもりかは分からないが、絵里香たちを殺したのもまず大島に違いあるまい。
何とかネクタイを解こうとするものの、かなりきつく縛られていて自力では無理だということが分かっただけだった。
「くそ…どこにいるんだ、田崎さん」
今思うにあの出血量では三城は助からないだろう。
三城がダメになった今、後は田崎と合流することが唯一残された逆転の目だ…が、なぜ彼はどこにもいないのか。
すでに殺されている? 或いは捕らえられている? しかし、三城の反論が無かったことからして大島が言っていた、ずっと一緒に行動していたという言葉は事実だろう。であればやはり田崎はまだどこかにいると考えるのが自然に思える。
とすると…まだ探していないのは屋上だけだ。
しかし、後ろ手に縛られた現状では、屋上への扉を開けられそうに思えなかった。
「…田崎さんが戻ってくるまで逃げ延びられるか…いや」
時刻はすでに夜中。普通ならとっくに眠っていておかしくない。環境が変わって寝付けないとか、理由があって起きていてくれることを祈るしかない…が、それ以前に大島が確実に屋上への入り口に来るだろう。
桂木は田崎を待つことは諦め、適当な部屋へ飛び込んだ。
ほとんど間を置かずして階下から響く、ゆっくりとした足音。そして、がりがりがり…と壁を削るコンクリの音が聞こえてきた。
大島だ。
「桂木ぃ、いるんだろォ? 大人しくでてこいよォ……」
楽しんでいる。
油断が無い今、体格で劣る相手であろうが適う術がない――せめて両腕が使えたらあんな奴に負けやしないのに…今の桂木は歯噛みするしかできない。
今はただ、息を潜めて通り過ぎるのを待つ。
かつ、かつ、かつ…
廊下を徘徊していた足音が、桂木が隠れているほのぼのローン跡地の前で止まった。
「ここかな~?」
桂木は大きな身を縮め、目を硬く閉じる。
事務机が幾つか置かれていてその陰に身を隠しているが、扉が無いためちょっと見て回れば見つかってしまうだろう。見つかれば最後、逃げ場は無い。
「さぁて、そろそろ覚悟を…あ?」
しかし、その瞬間は訪れなかった。
「な、なんでお前……い、いや違う…?」
耳をそばだてるしかできなかった桂木には何が起こったのか良く分からなかったが、大島の声を聞くに困惑しているように思えた。
「ひっ!」
かと思うと、悲鳴をあげ、駆け去っていく。
数分後、一際大きな悲鳴がビル内に響き渡った。
「な、何だ?」
確かめに行きたい、がもしかしたらこれは大島が自分をおびき出す罠かも知れない。
桂木に出来るのは、葛藤しながらも部屋の隅でただただ震えることだけだった。
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ツギハ5ニチ19ジ
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