安瀬乃片敷六丁目六番地六号より

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第十六話 エレベーター

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 大学生のYさんの話だ。

 去年、サークルのみんなと花見して夜中までしこたま酒を飲んだYさんは、多少足元が危ういながらも住んでるマンションに歩いて帰った。

 マンションまであともう少し、というところで気づけばAさんと並んで歩いていた。

 地元にいた当時は一時期仲が良かったものの、同じ先輩を巡る恋敵になってしまったこともあり、今はあまり親しくしている間柄ではなかった。だが、Aはそんなこと無かったようににこにこと笑顔で接してくる。
 Yさんも、酒が入っていたこともあり、また懐かしさからすぐに警戒心を解いて打ち解けて話は弾んだ。

 ちょうど酒もある。
 これからマンションの屋上で月見酒と行こうではないか。

 マンションに入り、エレベーターに差し掛かるところでそう言われた。

 Yさんの家はマンションの一階にあり、何でわざわざマンションの屋上で…と思わないでもなかったが、夜中まで酒盛りをするくらい酒好きなYさんにはそれはとても風雅で魅力的な申し出に聞こえた。
 二つ返事で受け、二人揃ってエレベーターに乗り込む。Aさんはよどみなく、一番上のボタンを押した。

 ここでようやく、YさんはAさんの両手が空であることに気づいた。
 酒盛りなのに?
 それ以前に、なんでわざわざW県からやってきて、自分の住むマンションの屋上で?

 ようやく違和感が芽生えたYさんだが、それについて問いただすより早くエレベーターが到着の音を鳴らす。
 扉が開いた先は、風雅とは無縁ながらんとした広い打ちっぱなしのコンクリ空間が広がっている。

「さ、行こう」

 そう笑いかけるAの顔が、はじめて不気味なものに見えてYさんは足がすくんだ。

「ねえ、ほら。何やってんの。扉、しまっちゃうよ。ほら、行くよ」

 ずっと笑顔だったAが、それでも動かないYさんに業を煮やしたのか腕を掴んできた。

 腕を掴まれると思った瞬間。
 Yさんはどん、と誰かに横から突き飛ばされた。

「あっ」

 よろけながらも顔を上げると、それまでいなかったはずの縦縞に蝶柄の紬を着ている小柄な人物が背を向けているAに腕を掴まれ、エレベーターの外へと力づくで連れ去られようとしている。
 その着物の柄は生前、可愛がってくれていた祖母がよく着ていた。

「待って!」

 Yさんの制止もむなしく、Aさんたちは振り返ることなく屋上へと飛び出していた。
 体勢を建て直し、後を追おうとした鼻先でエレベーターの扉は閉まったところでYさんは意識を失った。

 Yさんが次に目を覚ましたのは、自室のベッドの上だった。

 衣服はそのままで、あれからどこをどうやって帰ってきたかは一切覚えていない。
 ただ、仏前に置いてあった祖母の遺したお守りが、ずたずたに切り裂かれている。

 気になったYさんは、Aさんに連絡を取ってみた。

 電話の向こうでAさんは、声の相手がYさんだと認識した直後に激しい舌打ちをすると、そのまま通話を切ってしまった。

 以来、Yさんは地元に帰っていない。

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ツギハ27ニチ19ジ
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