安瀬乃片敷六丁目六番地六号より

takaue.K

文字の大きさ
53 / 106

第二十八話 器_2

しおりを挟む
 …………。
 ……………………。
 ………………………………。

 お百度参りの実験から数日。

 俺は困っていた。

 あれからバイトを首になり、金が無い。
 家族にはもうこれ以上は頼れないし、金を貸してくれる心優しき友人もいない。さて、どうしたものか…

 しばらく考えた後、先日購入したHGUC 1/144 グ〇カスタムを使ってあることを試そうと思いついた。
 他に用意するものは米、赤いマスキングテープ、ゼー○ガンダム(前回使ったもの)、ミネシマ製ベビーニッパー D-1、塩水、それから爪きり。
 勘のいい人ならお気づきであろう、ひとりかくれんぼだ。
 これで呪いの実存を確かめられるし、想定どおりいけば金にもなる。

 まずグ〇カスタムの各パーツに貴重な食料として残り僅かな米を詰める…のだが、意外に難しい。
 当たり前だが各パーツの形状が凸凹してるので、本家のぬいぐるみと違いどうしてもぴったりとは収まらない。
 ぐぬぬ、もったいないが炊いてしまおう。こうすればかさが増すし、安定して詰められる。内部に爪を埋め込むから後で食べられないのが惜しいが必要経費として割り切るしかない。

 こうして多大な犠牲を払いながらも素組を終えたら、今度はマスキングテープを体中にぐるぐると貼り付けていく。
 本家では赤い糸らしいが、自分で裁縫などしない俺は針も糸も持っていない。まあ血管を意味さえすればいいらしいし、むしろガ○プラならこちらの方がお似合いだろう。

 さあ、重要な準備はこれで終えた。
 空腹を耐えるため午前三時までひたすら眠った後、早速開始だ。
「最初の鬼は〇〇〇(←自分の名前)だから」と三回グ○カスタムに教え聞かせてやる。

「…なんてこった」

 しかし続けてどうすればいいかを改めて手順を読み直したところ、頭を抱えることとなった。
 風呂が必要じゃないかこれ。
 うち、風呂なしなんだが。よもやブルジョワ階級でないと怪談ひとつ試すこともできないなんて、とんだ罠もあったもんである。

 しばらく考え、いつも汗を流すのに使う金盥に水を張り、そこにグ○カスタムを沈めた。要は風呂桶という名前の桶に沈めれば良いんであって、盥も桶も用途で見れば大して差異はあるまい。
 マスキングテープ剥がれないよな?

 初っ端から船の横っ腹に大穴開く勢いで難航しているが、ここで立ち止まってもいられない。ここで足を止めたら、グ○カスタムと一膳分の白米が無駄死にだ。彼らの犠牲を無駄にするわけにはいかない。

 つづけては家中の灯りを消し、テレビだけ点けておく…テレビ? テレビだと?!
 お前ふざけんなよ、そんなもん買う余裕あるなら飯を買うわ。

 くそっ、先ほどから様々な問題が俺の崇高な実験を邪魔してくれる。真理の探究を阻まんと今や世界が敵に回っているのだ。
 しかし、突発的に発生する困難をブレイクスルーしてきたからこそ、科学は今日の発展と栄光を手にしてきたのだ。打つ手が無いと認めるのは、思考の放棄、科学者としての敗北を意味する。
 例えこの身は科学者ではないとしても、俺は心だけは科学者でいたい。

 …よし、スマホを動画撮影状態で立てかけておこう。録画と放映、働きは違うがどちらも受像装置であることは共通だから構うまい。社会において重要なのは誰がやったかではなく、何を為したかだ。
 本当は俺の視点で迫力ある動画にしたかったが、むしろここは構図で頭を悩ませる必要がなくなったと割り切ろう。

 準備を済まし、真っ暗な中、目を閉じて十数える。
 一、二、三…
 数え終わったらおもむろにゼータガ○ダムを手に取り、金盥に沈んだグ○カスタムを取り出す。あのジ・○が没収されてなきゃ…いや、サイズ的に米の消費が跳ね上がるからやっぱなしだな。

「グ○カスタム、見ぃつけた」

 取り出したグ○の腹を、ゼータの先端で殴りつける。やはり、穴を空けられない。
 どうやら俺の身体を通して出てくれる力はまだ無いようだ。俺は科学者であってもニュータイプではないからこの結果は致し方あるまい。

 それでも諦めきれず十分ほどがちゃがちゃやってたがいい加減疲れたので、「次はグ○カスタムが鬼だから」と呟いてその場に残し、塩水をあらかじめ置いておいた収納に隠れることとした。

「ああしんど」
 無駄に身体を動かしたせいですきっ腹に堪えるな…塩水を口に含み、飲まないように我慢する。
 しんと静まり返る中、その場でうずくまるようにしてしばらく待っていたが。

(…む?)
 何か、気配がある。

 最初は気のせいかと思った。

 しかし、次第にその気配は色濃く、はっきりとしたものになっていく。
 グポォン…
 ふと、かのテレビで聞きなれたSEが聞こえたような気がした。
 いや、まさかな…

 それでもまだしばらく様子を伺っていると、気配はどうやら室内を巡回しているようだ。
 時間を経るにしたがって、人の声らしきものも聞こえるようになっている。
「…ビエロ…スクメ……イカセヌ…ママ…シンデイケ…」
 興奮に心臓が早鐘を打つ…いや、まだまだ。たまたま機動戦士ガンダム第08MS小隊を視聴している隣人のモノマネかもしれない。

 俺の疑心暗鬼をよそに、終いにはズチュ・・・ベチャ…と、ねっとりと、湿ったものがつまった、重いものが動くような音までが収納のすぐ傍ではっきり聞こえるまでになった。
 もはや間違いない、これは水を吸って重くなった白米の詰まったガンプラの足音だ!

 これが一人かくれんぼ、これが呪い!

 呪いは本当にあったんだ!!

 歓喜に身を打ち振るわせた俺は迸る喜びのままに収納を飛び出し、室内を徘徊していたグフカスタムを見つけると手に取ったコップの中身をぶちまける。そのまま相手が何か反応するよりも先に抱きしめると、全力で口内の塩水を吐きかけながら笑い叫んでいた。

「やっっ、おべぇのかびばちだぁっ!!」

 すべてが終わった後、俺は『驚愕の真実! ひとりかくれんぼの呪いは実存した』というタイトルで今回の動画をノーカット未編集でようつーぶにアップした。
 スマホで撮影していたから画質が悪かったが、それでも居室を徘徊するグ○カスタムの威容はすばらしく、特に闇の中で唐突にこちらを振り向くモノアイの軌跡はただただカッコイイの一言であった。

 そのかいもあって、
『投稿主キメェ。汚物ぶちまけられたグフカスタムちゃんがかわいそう。最後首振って嫌がってんじゃん』
『グフカスタムカッコイイ、どうやって動かしてんの? マジ動作再現すごくね?』
『操作に拘りすぎて背景手抜きなの草。でもそのせいで逆にグフカスタムの迫力すげーな。期待の新人』
『せめて塗装ぐらいしてやれよ。ボロボロのマスキングテープで激戦を想像できるのは面白い演出だけどさ』
『投稿主ぶっさ、ファン辞めるけど黄昏てるグフカスタムの顔に免じてこれで上手いもん食え つ100円』
 と熱烈なファンメを頂くことができた。

 想定以上にいただけた広告料のおかげでしばらくは食いっぱぐれもなさそうだし、今回の実験は大成功といえるだろう。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ10ニチ19ジ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し怖いホラー短編集(文字数500以下)

仙 岳美
ホラー
文字数500以下のショート集です、難しく無いので気楽にどうぞ。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

静かに壊れていく日常

井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖── いつも通りの朝。 いつも通りの夜。 けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。 鳴るはずのないインターホン。 いつもと違う帰り道。 知らない誰かの声。 そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。 現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。 一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。 ※表紙は生成AIで作成しております。

怪談夜話

四条 京太郎
ホラー
週に2.3話19時に短編ホラー小説を投稿します。

本当にあった不思議なストーリー

AA.A
ホラー
筆者の実体験をまとめた、本当にあった不思議な話しです。筆者は幼い頃から様々な科学では説明のつかない経験をしてきました。当時はこのような事をお話ししても気持ちが悪い、変な子、と信じてもらえなかった事が多かったので、全て自分の中に封印してきた事柄です。この場をおかりして皆様にシェア出来る事を嬉しく思います。

夜にも奇妙な怖い話2

野花マリオ
ホラー
作品のホラーの中で好評である続編であります。 作者が体験した奇妙な怖い体験や日常的に潜む怪異や不条理を語ります。 あなたはその話を読んでどう感じるかはお任せいたします。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

処理中です...