安瀬乃片敷六丁目六番地六号より

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第四十二話 地蜘蛛

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 うぅん…怖い話、なぁ。
 あいにくだがわしはそんな話知らんなぁ。ごめんなぁ、ゆうちゃん。

 ……あ、待てよ?
 不思議な話ならあるなぁ。
 それでもいいのかい?

 じゃあ、話そうか。

 あれはわしが子供のころの話。
 そう、今のゆうちゃんくらいかな。

 あの頃はねぇ、今と違ってネットもゲームも無い。まあその代わり塾とかも無いから、学校が終わると友達で遊ぶか、友達がいなければと野原で虫取りとかして遊んどった。
 で、わしがゆうちゃんくらいの頃は、戦争があってな。疎開って知ってるかい?
 東京みたいなところは爆弾落とされるからってんで、田舎に一時的に引っ越してた。
 だからわしはそのころ、友達がいなくてなぁ。

 そのとき、今風に言うとハマった遊びがあったんだ。
 裏の塀、あるだろう?
 うん、オンボロの木の塀。
 当時はみんな、壁があんなんだったんだよ。
 地面もコンクリなんか全然なくて。土が丸出しでねぇ。

 そんなところで、日が差さないところなんかをよく見るとね、面白いものが見えるんだ。
 今だと公園辺りの木の根元にならいるかな?
 かがんでよーく見てみるとね、指先程の、紐が地面から伸びてるときがある。
 これを摘まんで、そっと持ち上げるだろ? するとね、中に蜘蛛がいるんだよ。
 地蜘蛛って言うんだけどね、その蜘蛛を、どれだけでかいのを吊り上げるかが楽しみだったんだ。

 …何が面白いかって言われても、分からんよねぇ。今はわしもそう思うよ。
 ただ、意外とこの紐…はっきり言ってしまえば蜘蛛の巣なんだけどね。これを、逃げられないように引っ張り上げるのが難しくてねぇ。いかに奇麗な形で巣を引っ張り出せるか、そして中の蜘蛛がどれだけ大きいかってのがやりがいを感じさせたんだろうかねぇ。
 え、ゆうちゃんも分かるのかい?
 どれだけ無駄なく壺で宇宙に上がれるか? う、うぅん?
 …今の子にも良く分からない楽しみ方があるんだねぇ。

 それはともかく、当時のわしは疎開前から片っ端から蜘蛛を引っ張り上げてた。
 ここに来てからも変わらなくて、むしろ肥えた蜘蛛がいる分興奮したよ。

 そのせいで巣を作る地蜘蛛が近所にいなくなっちゃってねぇ。
 六丁目のお地蔵さんとこ、あるだろう?
 あそこだけが残ったんだ。

 何でって、わしのおばあさんがあそこで遊ぶなって口を酸っぱくして言っててねぇ。
 でも、他にいなくなっちゃったんだからしょうがない。
 むしろ誰も近づかないなら、どれだけ大きい地蜘蛛がいるんだろうってわくわくしたもんだ。
 そして行ってみたら、わしの指ほどもある太さの巣が五本、祠の裏に張り付いててな。喜んでひっぱりあげまくった。

 …まあ、地蜘蛛は地蜘蛛だから、拳ほどにでかいのはおらんかったなぁ。
 うんうん。
 わしも残念じゃったからの、引っこ抜いた翌日も物足りなさから顔を出したんだよ。

 そしたらな、なんと巣が復活してた。
 昨日のよりも太く、長くなっていてな。

 これはわしへの挑戦だと思い、早速引っこ抜こうとしたんだ。
 しかし…やけに、重い。
 それでも蜘蛛釣り名人を自称するわしだ。無駄に余ってた時間をたっぷり掛け、左端の一番短い奴を千切れないようにあの手この手しながら引き上げる。多分わしの人生であれほど充実した無駄な時間は他に無かったろう。
 30分くらい掛けてたと思うが、出てきたものを見てわしは思わず顔をしかめたよ。

 袋の中には、黒っぽい見慣れた地蜘蛛じゃなくてな。
 肌色…人の親指が入っていたんだ。しかも赤い、爪紅《マニキュア》もついていた。

 何のいたずらだと思ったが、周りには様子をうかがってる人の姿も無い。
 最初はびっくりしたわしだったが、どういうことか気になってな。残った四本も片っ端から引っこ抜いたった。

 …出てきたのは、全部指だった。ただ、全部違う。浅黒い大人の男性のや、枯れ枝みたいに細い老人のもの。年端のゆかない小さなものもあったが、全部親指だった。

 わしはもう考えるのをあきらめたよ。それで代わりにこれを、そのまま大人に見てもらおうと思ったんだな。
 その考えが伝わったんだろうかね。
 指を手に持った途端、それまでおとなしかった指たちが暴れたよ。
 慌てたけど、わしが捕まえるより先に指は零れ落ちて、全て元の穴に飛び込んでしまったんだ。

 この後?
 特になんも無いよ。
 あれからしばらく祠にこっそり通ったが、地蜘蛛の巣は二度とできなかった。
 そうこうするうち通わなくなったが、気づいたら祠があった部分はコンクリに埋め変えられ、地蜘蛛が穴を掘れる場所は完全に無くなった。
 よくある、誰かが指を怪我するとかも特には無かったねぇ。

 あの指は、なんだったんだろうねぇ。

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 ツギハ1ニチ19ジ
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