安瀬乃片敷六丁目六番地六号より

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第四十六話 中古車

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「うぉっ、やっす!」
 Y山は、たまたま覗いた中古車屋で驚きの声をあげた。

 美品と言って差し支えないプリウスが、たったの60万。
 相場だと倍以上するのだが…見間違いかと思い店員にも問い合わせるが相違ないという。
 俄然乗り気になって、中の確認などを念入りに行ったが、走行距離などにも問題はない。
 そうなると不思議なのがこの値段設定だ。

 もしかしたら事故車両かもしれない。Y山はそう思い、店員に確認してみた。
 が、店員はそういう理由ではないときっぱり言い切った。

「でも、さすがにこの値段はおかしくないですか?」
「…まあ、気になりますよね。正直、私もそう思って店長に言ったんですが…」
 店員は、しぶしぶという感じで説明する。

 この車は実際ほとんど新品で、事故を起こしたというような事実はない。
 無いのだが…

「買った人は、しばらくすると真っ青な顔で買い取ってくれって言ってくるんです。でも、本当に皆さん丁寧に乗ってくださってる方ばかりでしてね。最初は何が問題だったのかと尋ねたんですが…どなたもはっきりとは答えてくださらないんです」
「はぁ」
「あ、でも一人、妙なことを言ってましたね。支払い済ませてるときに『次は取り返しがつかなくなりそうだから』とかなんとかぽつりとこぼして、そのまま帰っちゃいました」
「…何がです?」
「さあ? その後一切来てませんから、その人」

 なんとも腑に落ちない話である。あまり聞いてて気分の良いものではなかったが、それでも格安さにはかなわず、Y山は購入を決意した。

 最初の異変に気付いたのは、一か月ほど経ったころだろうか。

「あれ?」

 座席に、小指の先ほどもある大きなハエの死骸が転がっている。
 窓は締め切っているし、ハエが生まれるような環境も無い。
 どこから入り込んだのか分からず、その死骸を捨てて走り出すとすぐに今あったことを忘れてしまった。

 しかし、虫の死骸が現れたのはその日だけではない。
 一週間ほどすると、今度は大きなスズメバチの死体が三個、やはり座席の上に転がっていた。

「…どっかに穴空いてるのかな?」
 気になり、購入した店でみてもらったが…

「いや、どこにも無いですよそんな穴」
「ホントか? でも、実際にあったんだぞ」
「と言われましてもね…荷物に引っ付いて、紛れ込んだとかじゃないですか?」
 荷物に紛れたとして、スズメバチが死ぬまでおとなしくしてるものだろうか。疑問はあったが、他に答えも出せずその日はおとなしく帰った。

「うわっ!」

 それからしばらく、虫の死骸のことも忘れかけていた矢先だった。
 今度はワイパーに、雀が首を挟まれて死んでいる。

「誰だよくそっ、こんな嫌がらせしやがったのは!」

 ここ数日は晴天で、ワイパーを動かしたりなどしていない。
 雀がたまたま首を挟まれるなんてことは考えにくいと考えたY山は管理人に悪戯した奴がいると文句を言った。

「そういわれましてもね…うちは子供が入り込めるような駐車場じゃないんですが。まあ、警備はしっかりしておきますけどね。あなたの悪戯じゃあないんですか?」

 だが、管理人の冷たい視線にいら立ちを募らせる。
 むしゃくしゃした雰囲気を抱えたまま、車を走らせていると。

「うわっ」
 何か、小さなものに乗り上げたような感触があった。
 慌てて飛び出すと、地面には血痕が残されている。
 信号待ちしている間に鳩が横断歩道に降り立ったのは目の端に捉えて居たY山だったが、信号が変わり走り出したときも身動きせずそのまま鳩を轢いたのではなかろうか。

「…あれ?」
 ようやく、Y山はおかしいことに気づいた。

 血痕の主の死骸が、どこにも見当たらない。

 車を脇に止め、再び事故現場まで戻ってみる…やはりない。
 ようやく、Y山はこの車こそがどこかおかしいと思った。

 その後、気持ち悪く感じたY山は車に乗る機会を減らした。

 しかし、少し前にやむを得ない用事で乗ったときには走ってからしばらくして、エンジンルームで猫が死んでいるのが見つかった——直前に確認していたにも関わらず。

 そして先日、近所のレトリーバーが自分から飛び出し、轢死した。

「気づいてますか?」

 Y山はそこまで話してから、ぐいと手にした酒を煽る。

「死体が、どんどん大きくなってるってことに」

 Y山は、車を手放す交渉をはじめているという。

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 ツギハ13ニチ19ジ
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