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第六十三話 蛇
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子供の頃の話、妹と一緒に公園で遊んでいたときの話だ。
元々は親に妹の面倒をみろと押し付けられたからだが、男の子と女の子とでは楽しめる遊びは違う。
程なくして俺と同じ遊びに飽きた妹は、一人でぶらぶらとすることに決めたようだ。
一応おざなりではあるが、あまり遠くに行くなと声を掛けて俺は友達の遊びの輪に戻る。
そうやって三十分ころ経ったろうか。
「にいちゃ! へび!!」
泣きながら妹が駆け戻ってきた。
正直俺は遊びを中断されたことにいら立ちを覚えたが、友人たちはむしろ蛇に興味を覚えたようだった。
「マジ?! どこどこ?」
「こっち!」
俺が止めるより早く、友達はみな妹の方に駆け出してしまった。
こうなっては一人ぼっちでいるより、一緒にいるほかない。意図せずとは言え、妹が注目を奪う形になったことに不服を覚えながらも最後について行った。
「ここ! ここのすきま…」
妹が蛇を見つけたというのは、公園の隅っこ。
小さな物置小屋?の傍にある、茂みを指さして言う。
「ここにね、蛇のしっぽみえたの!」
そう言われ、友達がぐるりと周りをみやる。
「あっ」
と、一人が小さく声をあげては口元に指をあててこいこいと手招きする。
俺たちが集まったところで指さした一点には、確かに爬虫類独特のぬめぬめとのたくるしっぽが見える。黒く、そして結構大きいように思えた。
「おい、捕まえてみようぜ」
誰かが言うと、俺たちの意見は真っ二つに分かれた。
「ええ、怖いよ。噛みつかれたらどうすんの? 毒持ってるんじゃないの?」
妹をはじめ、女の子たちが不安げに言う。
「大丈夫だって」
対して男の子たちは無鉄砲な傾向にある。
その一瞬の迷いの中。
「あっ、にいちゃ!?」
俺が真っ先に飛びついた。
蛇を見つけた妹に注目が集まったなら、捕まえればもっと注目される。そんな他愛もない理由からで、噛まれるかもと言ったことは一切考えていなかった。
とはいえ、噛まれることはなかった。
「……あ、あれ? あれ? え、なんで?」
なぜか、蛇の尻尾を幾ら引っ張っても茂みから出てこないからだ。
最初は怯えて遠巻きに見守る女子たち、やんややんやとはやし立てる男子たちも依然蛇を引きずり出せない俺に業を煮やし始めた。
「おい、何やってんだよ」
「もしかして…目立ちたくてわざとやってる?」
とんでもない濡れ衣だ。
慌てて俺は否定した。
「ち、違うって。なんか、引っ掛かってるのか、全然…抜けないんだ」
「はぁ?」
俺の返答に、男の子たちはしばらく沈黙したものの助力してくれた。
「おいおい、蛇なんだからふんばったりできっこないだろ…あれ」
「えっ、な、何で? マジで、抜けねーぞこれ?」
「どうなってんだ?」
だろ、と言いながらも俺たちはひっぱりつづける…が。
「ねえ、なんか変じゃない?」
「ちょっ、やめてよ、あたしたちびびらそーってしてんじゃないわよ!」
「んな訳ねーだろ、マジで…こいつ、しぶとくひっかかってんだって!」
遠巻きにしている子らがざわめく。それに対し助勢している男子たちが文句を言い、次第に喧嘩腰になっていく。
そんな雰囲気に、妹が動いた。
「こっち!」
茂みの反対側に回り込み、適当な木切れを拾っては茂みを叩き始めたのだ。
これで驚かせることで気を引くという狙いに気づいた数人の他の子も同じことをしはじめ、ようやく蛇の抵抗が緩んだ。
「今だ、みんな、ひけえっ」
俺の言葉に、男子たちがおうっと力を合わせる。こうなれば子供たちとは言え多勢に無勢、あっという間に決着がつく。
途端、がさっとひときわ大きな音を立てて茂みから何か飛び出した――肌色の何かが。
「…は?」
眼前にぽとりと落下したことでそいつをはっきり見たはずなのに、俺は今もあれが何かの見間違いだったんじゃないかと思いたがっている。
蛇の腹から上、茂みに隠れていた先は…多分、人の、手首のようなものが付いていた。ひっくり返って手のひらを上に向けており、その手指は土色に汚れていて、おそらく地面か何かを握りしめていたんじゃないだろうか。爪先の、くすんだ赤色がやけに印象に残っている。
しかし、ジタバタもがいていた手首は一分もかからずにひっくり返ると、目にも止まらない勢いで俺たちの間をすり抜けてはひときわ大きな茂みに飛び込んでしまった。
「ま、まてっ」
はっと我に返った数人が慌てて追いかけるが、もはやそいつの姿は影も形も無い。
遺された俺たちはただただ、お互いの顔をなんとも言えない表情で見渡すだけだった。
程なくして、俺たちはこれ以上言葉を発することもなく、そそくさと公園を後にした。
あんな不気味な奴がうろちょろしている公園だなんていたくもない。以降、町を出るまで俺と妹は近寄りもしなくなった。
さて、数十年前の出来事をふと思い返したのには理由がある。
先日、俺は所用があって久しぶりにこの町に戻ってきたのだ。
大人ともなれば色々なことに理屈をつけるだけの知識もこざかしさも得る。
だから、あれは何かの見間違いだったのだ――そう、割り切れると思ったのだ。
だが案に相違して、先ほど同じ物置の裏にある茂みをかき分けたときに目の当たりにしたもの…ひんやりと湿った地面の無数に細かいえぐれ跡——まるで指のようなもので掻きむしったような――について、説明できる合理的な言葉を俺は今なお思いつけないでいる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ4ニチ19ジ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
或いはあったかもしれない話
H・R・G氏「昨日酒場で後ろの奴がしゃべってたモンスター、あれすげえいいよな!
けど片手だけだとバランス悪いな…せや! 両手にしたろ!!
Fooo! So Coool!!
ついでに爬虫類らしさをもっと極めて、ほいで見つけた奴は逃がしたら後追い掛け回してくるから処すように…それならいっそ卵を産み付けて腹食い破るとか邪悪すぎてサイコーやん?
ン―――Fantastic!!」
元々は親に妹の面倒をみろと押し付けられたからだが、男の子と女の子とでは楽しめる遊びは違う。
程なくして俺と同じ遊びに飽きた妹は、一人でぶらぶらとすることに決めたようだ。
一応おざなりではあるが、あまり遠くに行くなと声を掛けて俺は友達の遊びの輪に戻る。
そうやって三十分ころ経ったろうか。
「にいちゃ! へび!!」
泣きながら妹が駆け戻ってきた。
正直俺は遊びを中断されたことにいら立ちを覚えたが、友人たちはむしろ蛇に興味を覚えたようだった。
「マジ?! どこどこ?」
「こっち!」
俺が止めるより早く、友達はみな妹の方に駆け出してしまった。
こうなっては一人ぼっちでいるより、一緒にいるほかない。意図せずとは言え、妹が注目を奪う形になったことに不服を覚えながらも最後について行った。
「ここ! ここのすきま…」
妹が蛇を見つけたというのは、公園の隅っこ。
小さな物置小屋?の傍にある、茂みを指さして言う。
「ここにね、蛇のしっぽみえたの!」
そう言われ、友達がぐるりと周りをみやる。
「あっ」
と、一人が小さく声をあげては口元に指をあててこいこいと手招きする。
俺たちが集まったところで指さした一点には、確かに爬虫類独特のぬめぬめとのたくるしっぽが見える。黒く、そして結構大きいように思えた。
「おい、捕まえてみようぜ」
誰かが言うと、俺たちの意見は真っ二つに分かれた。
「ええ、怖いよ。噛みつかれたらどうすんの? 毒持ってるんじゃないの?」
妹をはじめ、女の子たちが不安げに言う。
「大丈夫だって」
対して男の子たちは無鉄砲な傾向にある。
その一瞬の迷いの中。
「あっ、にいちゃ!?」
俺が真っ先に飛びついた。
蛇を見つけた妹に注目が集まったなら、捕まえればもっと注目される。そんな他愛もない理由からで、噛まれるかもと言ったことは一切考えていなかった。
とはいえ、噛まれることはなかった。
「……あ、あれ? あれ? え、なんで?」
なぜか、蛇の尻尾を幾ら引っ張っても茂みから出てこないからだ。
最初は怯えて遠巻きに見守る女子たち、やんややんやとはやし立てる男子たちも依然蛇を引きずり出せない俺に業を煮やし始めた。
「おい、何やってんだよ」
「もしかして…目立ちたくてわざとやってる?」
とんでもない濡れ衣だ。
慌てて俺は否定した。
「ち、違うって。なんか、引っ掛かってるのか、全然…抜けないんだ」
「はぁ?」
俺の返答に、男の子たちはしばらく沈黙したものの助力してくれた。
「おいおい、蛇なんだからふんばったりできっこないだろ…あれ」
「えっ、な、何で? マジで、抜けねーぞこれ?」
「どうなってんだ?」
だろ、と言いながらも俺たちはひっぱりつづける…が。
「ねえ、なんか変じゃない?」
「ちょっ、やめてよ、あたしたちびびらそーってしてんじゃないわよ!」
「んな訳ねーだろ、マジで…こいつ、しぶとくひっかかってんだって!」
遠巻きにしている子らがざわめく。それに対し助勢している男子たちが文句を言い、次第に喧嘩腰になっていく。
そんな雰囲気に、妹が動いた。
「こっち!」
茂みの反対側に回り込み、適当な木切れを拾っては茂みを叩き始めたのだ。
これで驚かせることで気を引くという狙いに気づいた数人の他の子も同じことをしはじめ、ようやく蛇の抵抗が緩んだ。
「今だ、みんな、ひけえっ」
俺の言葉に、男子たちがおうっと力を合わせる。こうなれば子供たちとは言え多勢に無勢、あっという間に決着がつく。
途端、がさっとひときわ大きな音を立てて茂みから何か飛び出した――肌色の何かが。
「…は?」
眼前にぽとりと落下したことでそいつをはっきり見たはずなのに、俺は今もあれが何かの見間違いだったんじゃないかと思いたがっている。
蛇の腹から上、茂みに隠れていた先は…多分、人の、手首のようなものが付いていた。ひっくり返って手のひらを上に向けており、その手指は土色に汚れていて、おそらく地面か何かを握りしめていたんじゃないだろうか。爪先の、くすんだ赤色がやけに印象に残っている。
しかし、ジタバタもがいていた手首は一分もかからずにひっくり返ると、目にも止まらない勢いで俺たちの間をすり抜けてはひときわ大きな茂みに飛び込んでしまった。
「ま、まてっ」
はっと我に返った数人が慌てて追いかけるが、もはやそいつの姿は影も形も無い。
遺された俺たちはただただ、お互いの顔をなんとも言えない表情で見渡すだけだった。
程なくして、俺たちはこれ以上言葉を発することもなく、そそくさと公園を後にした。
あんな不気味な奴がうろちょろしている公園だなんていたくもない。以降、町を出るまで俺と妹は近寄りもしなくなった。
さて、数十年前の出来事をふと思い返したのには理由がある。
先日、俺は所用があって久しぶりにこの町に戻ってきたのだ。
大人ともなれば色々なことに理屈をつけるだけの知識もこざかしさも得る。
だから、あれは何かの見間違いだったのだ――そう、割り切れると思ったのだ。
だが案に相違して、先ほど同じ物置の裏にある茂みをかき分けたときに目の当たりにしたもの…ひんやりと湿った地面の無数に細かいえぐれ跡——まるで指のようなもので掻きむしったような――について、説明できる合理的な言葉を俺は今なお思いつけないでいる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ4ニチ19ジ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
或いはあったかもしれない話
H・R・G氏「昨日酒場で後ろの奴がしゃべってたモンスター、あれすげえいいよな!
けど片手だけだとバランス悪いな…せや! 両手にしたろ!!
Fooo! So Coool!!
ついでに爬虫類らしさをもっと極めて、ほいで見つけた奴は逃がしたら後追い掛け回してくるから処すように…それならいっそ卵を産み付けて腹食い破るとか邪悪すぎてサイコーやん?
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