102 / 106
第六十七話 煤けた額縁_4
しおりを挟む
…………
……………………
………………………………
「お帰り兄ちゃん」
「ただいま。今日の昼めしってなんだろ」
「へっへーん、ちゃんと聞いておいたぜ」
料理については看護師に聞けば教えてくれる。時間を持て余している夕真はよくアリバイ作りと称しては話を聞きに行っているようだ。
「お昼はクリームシチューとクロワッサン、それからフルーツだって。多分キウィとかオレンジじゃないかな」
「ふーん」
クロワッサンは出て二個が良いところ。
日本人である俺としては飯はパンじゃなく米派だ。パンだとすぐ腹が減るんだよな…多分夕真は満足できるだろうけど、俺には足りないだろうな。後で食い物買いに行かないと。
そんな会話をしてほどなくして、料理が配膳される。夕真の一言一句違わず、フルーツはキウィを半分に立ち割ったものが出ている。
俺は普段の倍以上時間を掛けてゆっくりパンを噛み、クリームシチューのルーも噛みしめる。それでもやはりというか、まったく腹に溜まらない。
飯を食い終わった俺は購買へ向かうためエレベーターに乗る。一階のボタンを押して何を食おうか考えながら深く呼吸したとき、再び鼻が違和感を訴えた。
「…あっ」
これは…抹香の匂いだ。
数年前に母方の叔父が無くなった際、精進落としでキウィが出たのだ。親が種が苦手なせいでそれまであまり家では食べない料理だっただけに、印象に残っていたのであろう。
しかし…
匂いと言えば、額縁に触れたときにも焦げ臭い匂いを感じた。
仁藤さんの話では昔大火事があったらしい。が、あのとき嗅いだ匂いは…まるで、昨日今日についたくらいにしっかり匂った。
あの階で何かを燃やした? 誰が何のために?
葬式をあげるにしても見える範囲に部屋が見当たらなかったし、一般エレベーターを使うのもおかしいと思う。小さい個人病院ならいざ知らず、それなりにでかい病院なら絶対に職員用や運搬用のエレベーターがあるはずじゃないのか。
そもそも構造的な点で言えば、部屋があちこち散発して残ってる程度の屋敷跡をわざわざ病院へと作り直す意味も分からない。
普通そこまでガタガタになったなら、一度潰して立て直した方がよほど安上がりだし手っ取り早いだろう。絵を飾りたいなら、最上階に専用ホールでも設ければ済む話だ。
なんだろう、なんかどうにもすっきりしない。
俺はネットでこの病院についてもう少し調べてみることにした。最新設備を取り入れてるこの病院、全病室に無線LANを完備しているので病室ででもネットが使えるのは便利だ。
まず、安瀬乃八重樫記念病院について調べてみる。
病院としての発足は八十年ほど前らしい。で、そこから数年に一度のペースで改築を繰り返しているんだと。
医者の評価や、設備の取り揃え、入院時の評判なども極めて良いようだ。いずれも、親切丁寧で安定した治療が見込める、といった旨が書かれている。
「…おや?」
ふと、誰も五階について触れてる人がいないことに気づいた。
確かに階段に関しては看板が置かれている、がエレベーターのボタンに関しては特段封鎖されているといったことはない。
押そうと思えば押せるのだ。だから、間違えて足を踏み入れた者がいないとは考えにくい。
仁藤の話しぶりだと、かなり初期から封鎖されていたはず。一人も行ったことが無い、というのは考えにくいだろう。
とするなら…情報操作されている?
できるかは分からないが、よくわからない建て替えを未だに繰り返すことができるだけの遺産が今もなお残っているなら、金を払って情報を書き込ませない、或いは消させるということもあり得るかも知れない。
何だろう、調べれば調べるほどこの病院のきな臭さが強まっていくように感じる。
表向きは真っ当だが、何かを隠してるような気がどうにもぬぐえない。
「ん? 兄ちゃん、どうしたんだ? クソでも我慢してんの?」
「何でだよ。考え事してるだけだ」
「考え事?」
ゲームに飽きた夕真が絡んできた。一旦は無視してやろうかとも思ったのだが、考えてみれば発端はコイツが持ち込んできた一枚の地図だ。なら、ちょっとはコイツにも教えてやってもいいかもしれない――そう思い直した俺はかいつまんで得た情報を共有することにした。
「ふぅん…」
伝え終えた時点で、俺は猛烈に後悔していた。
夕真の奴、めっちゃ目をきらきらさせて話を聞いている。そして、話を終えたところで間髪入れずに行ってきた。
「よっしゃ、調査続行だな!!」
「えぇ……」
あれだけ怒られたのに…
「だって気になるじゃん。兄ちゃんだって、このまま退院するのは嫌だろ?」
「む…それは、そうだが…」
確かに、考えてみれば俺はもうしばらくすれば退院できるだろう。そう考えれば調査できるのはここにいる間だけだし、退院した後も気になるのも間違いない。
しばらく考え、好奇心に負けた俺は
「…分かったよ。付き合うさ。だが、やばいことは手を貸さないからな」
「や~りぃ~!」
結局、夕真の提案を受け入れることにした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ27ニチ19ジ
……………………
………………………………
「お帰り兄ちゃん」
「ただいま。今日の昼めしってなんだろ」
「へっへーん、ちゃんと聞いておいたぜ」
料理については看護師に聞けば教えてくれる。時間を持て余している夕真はよくアリバイ作りと称しては話を聞きに行っているようだ。
「お昼はクリームシチューとクロワッサン、それからフルーツだって。多分キウィとかオレンジじゃないかな」
「ふーん」
クロワッサンは出て二個が良いところ。
日本人である俺としては飯はパンじゃなく米派だ。パンだとすぐ腹が減るんだよな…多分夕真は満足できるだろうけど、俺には足りないだろうな。後で食い物買いに行かないと。
そんな会話をしてほどなくして、料理が配膳される。夕真の一言一句違わず、フルーツはキウィを半分に立ち割ったものが出ている。
俺は普段の倍以上時間を掛けてゆっくりパンを噛み、クリームシチューのルーも噛みしめる。それでもやはりというか、まったく腹に溜まらない。
飯を食い終わった俺は購買へ向かうためエレベーターに乗る。一階のボタンを押して何を食おうか考えながら深く呼吸したとき、再び鼻が違和感を訴えた。
「…あっ」
これは…抹香の匂いだ。
数年前に母方の叔父が無くなった際、精進落としでキウィが出たのだ。親が種が苦手なせいでそれまであまり家では食べない料理だっただけに、印象に残っていたのであろう。
しかし…
匂いと言えば、額縁に触れたときにも焦げ臭い匂いを感じた。
仁藤さんの話では昔大火事があったらしい。が、あのとき嗅いだ匂いは…まるで、昨日今日についたくらいにしっかり匂った。
あの階で何かを燃やした? 誰が何のために?
葬式をあげるにしても見える範囲に部屋が見当たらなかったし、一般エレベーターを使うのもおかしいと思う。小さい個人病院ならいざ知らず、それなりにでかい病院なら絶対に職員用や運搬用のエレベーターがあるはずじゃないのか。
そもそも構造的な点で言えば、部屋があちこち散発して残ってる程度の屋敷跡をわざわざ病院へと作り直す意味も分からない。
普通そこまでガタガタになったなら、一度潰して立て直した方がよほど安上がりだし手っ取り早いだろう。絵を飾りたいなら、最上階に専用ホールでも設ければ済む話だ。
なんだろう、なんかどうにもすっきりしない。
俺はネットでこの病院についてもう少し調べてみることにした。最新設備を取り入れてるこの病院、全病室に無線LANを完備しているので病室ででもネットが使えるのは便利だ。
まず、安瀬乃八重樫記念病院について調べてみる。
病院としての発足は八十年ほど前らしい。で、そこから数年に一度のペースで改築を繰り返しているんだと。
医者の評価や、設備の取り揃え、入院時の評判なども極めて良いようだ。いずれも、親切丁寧で安定した治療が見込める、といった旨が書かれている。
「…おや?」
ふと、誰も五階について触れてる人がいないことに気づいた。
確かに階段に関しては看板が置かれている、がエレベーターのボタンに関しては特段封鎖されているといったことはない。
押そうと思えば押せるのだ。だから、間違えて足を踏み入れた者がいないとは考えにくい。
仁藤の話しぶりだと、かなり初期から封鎖されていたはず。一人も行ったことが無い、というのは考えにくいだろう。
とするなら…情報操作されている?
できるかは分からないが、よくわからない建て替えを未だに繰り返すことができるだけの遺産が今もなお残っているなら、金を払って情報を書き込ませない、或いは消させるということもあり得るかも知れない。
何だろう、調べれば調べるほどこの病院のきな臭さが強まっていくように感じる。
表向きは真っ当だが、何かを隠してるような気がどうにもぬぐえない。
「ん? 兄ちゃん、どうしたんだ? クソでも我慢してんの?」
「何でだよ。考え事してるだけだ」
「考え事?」
ゲームに飽きた夕真が絡んできた。一旦は無視してやろうかとも思ったのだが、考えてみれば発端はコイツが持ち込んできた一枚の地図だ。なら、ちょっとはコイツにも教えてやってもいいかもしれない――そう思い直した俺はかいつまんで得た情報を共有することにした。
「ふぅん…」
伝え終えた時点で、俺は猛烈に後悔していた。
夕真の奴、めっちゃ目をきらきらさせて話を聞いている。そして、話を終えたところで間髪入れずに行ってきた。
「よっしゃ、調査続行だな!!」
「えぇ……」
あれだけ怒られたのに…
「だって気になるじゃん。兄ちゃんだって、このまま退院するのは嫌だろ?」
「む…それは、そうだが…」
確かに、考えてみれば俺はもうしばらくすれば退院できるだろう。そう考えれば調査できるのはここにいる間だけだし、退院した後も気になるのも間違いない。
しばらく考え、好奇心に負けた俺は
「…分かったよ。付き合うさ。だが、やばいことは手を貸さないからな」
「や~りぃ~!」
結局、夕真の提案を受け入れることにした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ27ニチ19ジ
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
本当にあった不思議なストーリー
AA.A
ホラー
筆者の実体験をまとめた、本当にあった不思議な話しです。筆者は幼い頃から様々な科学では説明のつかない経験をしてきました。当時はこのような事をお話ししても気持ちが悪い、変な子、と信じてもらえなかった事が多かったので、全て自分の中に封印してきた事柄です。この場をおかりして皆様にシェア出来る事を嬉しく思います。
静かに壊れていく日常
井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖──
いつも通りの朝。
いつも通りの夜。
けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。
鳴るはずのないインターホン。
いつもと違う帰り道。
知らない誰かの声。
そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。
現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。
一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。
※表紙は生成AIで作成しております。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
夜にも奇妙な怖い話2
野花マリオ
ホラー
作品のホラーの中で好評である続編であります。
作者が体験した奇妙な怖い体験や日常的に潜む怪異や不条理を語ります。
あなたはその話を読んでどう感じるかはお任せいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる