お隣さんはセックスフレンド

えつこ

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2-4.共演

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 温泉旅行を終えた二人に日常が戻ってきた。
 好きと言う感情はなかったことにして、セフレ関係は続く。割り切れば案外問題なくて、何をあれほど悩んでいたのだろうと二人とも疑問に思ったくらいだった。忙しい日々の合間に、時間を合わせてセックスする。それ以上でも以下でもない。
 十月末、ついに王輝とBloomDreamのドラマ撮影の日がおとずれた。配信ドラマは二十五分尺で、撮影は三日間。読み合わせはすでに終わっており、二人が現場で顔を合わせるのは二回目だった。
「違和感しかない」
 王輝が遼の姿を見て発した第一声だった。
 メイクセットと着替えを終えた王輝は、BloomDreamの楽屋に挨拶に訪れた。遼も着替え終わっており、見慣れない学生服に王輝は思わず先ほどの言葉を発したのだった。
「悪かったな、俺だってわかってる」
 詰襟タイプの制服を着ている遼は、拗ねたようは表情を見せた。いつもアップでセットされている前髪が下されており、幼く見える。
「ごめんごめん、見慣れないだけで、全然似合ってるって、ほんと」
 王輝は慌てて訂正すると、遼はふっと笑って「怒ってないよ」と優しい表情を見せた。温泉旅行以降、遼がふいに見せるこういう顔に、王輝はどきっとする。遼から向けられる「好き」の片鱗に、王輝は嬉しさ半分と恥ずかしさ半分だった。
 楽屋には遼とタスクの二人だけで、タスクは先程挨拶と世間話を終えると、撮影に集中するために部屋の隅で台本を読みこんでいた。タスクも遼と同じ詰襟タイプの制服を着ている。二人に対して王輝の制服はブレザータイプだ。遼たちと王輝は違う高校に通っている設定のためだった。
 カズはどこへ行ったのだろうと王輝が思っていると、ちょうど楽屋のドアが開いた。
「あ、王輝くん、久しぶり!」
 入ってくるなりカズが言い、明るい声が楽屋に響いた。カズも詰襟タイプの制服を着ていた。雰囲気も相まって到底二十歳には見えない。
 そして、カズの後ろから、矢内漠(やうち ばく)が顔をのぞかせた。
「王輝さん、先行くのひどくないですか?一緒に行こうって言ってたじゃないですか」
 漠はあからさまに眉根寄せ、不満を示した。王輝は記憶を遡るが、約束した記憶は曖昧だったので「あ、ごめん」ととりあえず謝っておいた。
 漠は役柄的には王輝の後輩役のため、王輝と同じブレザータイプの制服を着ていた。現実でも王輝と同じ事務所で、王輝の後輩にあたる。二十歳の漠は、身長百六十五センチと小柄だが、整った顔つきで、少し吊り目がちな瞳がクールさを感じさせる。役作りで髪色はアッシュグレーで、ゆるくパーマをかけた髪型だ。同じ事務所の先輩・後輩のため、仕事で一緒になることもあり、世間では王輝と漠のペアを喜ぶファンがいた。
 タスクは漠の存在に気づき、遼たちの輪へと近づく。カズの隣にいる漠に視線を移動させて、微笑んだ。
「矢内漠です。王輝さんの後輩です。よろしくお願いします!うわぁ、やっぱりみなさんかっこいいですね!」
 漠は満面の笑みで、目を輝かせて、BloomDreamの三人を見つめた。
 王輝はそれを見て、相変わらず外面がいいと思っていた。誰しもが仕事とプライベートでは違う顔を見せるが、漠の場合その落差が激しい。普段の漠は自分にしか興味がなく、「めんどくさい」が口癖だ。反対に、仕事の場ではかなり猫を被り、お世辞はもちろん、媚を売ったり、平気で嘘をついたりする。良く言えば世渡り上手で、王輝は見習うべきところはあるが、漠の普段の顔を見ていると辟易してしまう。それに王輝に対しては態度が横柄で、事あるごとに突っかかってくるので、王輝は漠のことが苦手だった。
 しかし、俳優としてのスキルはあり、連続ドラマで主演を演じたこともある。勢いがあり、メディアへの露出や人気においては、王輝より上だ。以前番宣のバラエティ番組に出演した際に、王輝に激辛ラーメンを食べさせたのは漠だった。
「それで、皆さんにお願いがあって」
 漠が前置きして、差し出したのはCDケースだった。古びれたそれはBloomDreamのファーストシングルだった。
「昔からファンなんです。サインもらってもいいですか?」
「懐かしい~!ファーストシングルだよ!しかも初回限定盤!」
 カズが嬉しそうに声を上げて、CDを受け取る。そして遼とタスクに見せた。遼もタスクも頬は綻ばせ、嬉しそうな表情を見せる。王輝もCDジャケットを覗き込んだ。三人とも今よりも若く、まだ写真撮影にも慣れていないせいか、どこか表情がぎごちない。
「ケースに書く?歌詞カードに書く?」
 カズは机に置いてあった油性ペンを持ち、サインを書く準備は万端だ。
「それじゃあ歌詞カードで。見過ぎてボロボロなのが恥ずかしいですけど…」
「ほんとだ、端っことか破れそう」
 取り出した歌詞カードはカズの言う通り、端は丸まり、紙はくたくたになっていた。
 カズはスペースを考えながら、慣れた手つきでサインを書く。書き終わるとタスクに歌詞カードとペンを手渡した。タスクはさらさらとペンを走らせ、最後に遼に渡した。
「配信が多いのに、こうやってCDを大事に聞いてくれてるのって嬉しいよね」
 カズがしみじみと言うと、タスクと遼は頷いて同意を表す。
「名前書いた方がいい?」
 サインを書き終わった遼は顔をあげ、漠に尋ねる。
「ぜひ!お願いします!弓矢の矢に…」
 漠が漢字の説明を始める。
 王輝はすっかり会話から外れてしまい、手持ち無沙汰になる。遼と漠が話している様子を眺めるくらいしかできなかった。サインを終えた遼は、漠に歌詞カードを手渡す。
「ありがとうございます!大事にします!」
 漠は嬉しそうに笑いながら、歌詞カードを見つめた。
「あともう一つお願いがあって、一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」
 おずおずと尋ねた漠に、カズは「もちろん!」と元気よく了承した。
 漠はスマホを取り出し、王輝に「お願いします」と有無を言わさずに渡した。どう考えても、この場でカメラマンになるのは王輝なので、仕方なく受け取る。「俺もお願いしていい?」とカズも声をあげたので、カズのスマホも受け取った。
 王輝はBloomDreamの三人と歌詞カードを持った漠が画面に入るように調整する。何枚か写真を撮り、カズのスマホでも同じように写真を撮った。
「ありがとうございます!一生の思い出ができました!」
 大げさに喜ぶ漠を横目に、王輝は遼に近づく。



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