104 / 116
4-1.チョコレートケーキ(番外編)
5
しおりを挟む「もうすぐ時間だぞ、準備いいか?」
岸はBloomDreamのメンバーに声をかけた。都内にあるレッスンスタジオ、その中の会議室に、岸と三人のメンバー、そしてスタッフが数人集まっている。メンバーはツアーTシャツに身を包み、他のスタッフは慌ただしく準備に追われていた。
普段は殺風景な会議室の壁に、『HAPPY BIRTHDAY』のカラフルなバルーン文字やバルーンアートが飾られている。全体的な色合いは、遼のメンバーカラーである黄色だ。華やかな壁を背景に、三人はカメラに向かって座った。三人の前のテーブルには、ジュースやお菓子が並ぶ。
今日は八月九日、遼の誕生日当日であり、これからファンに向けて一時間の生配信番組だ。主役である遼は真ん中に座り、両サイドにカズとタスクが座る。カズはお菓子を横目に、岸から渡されたタブレットでファンからのコメントを読んでいた。時折、カズ自らがコメントを書きこみ、それでコメント欄をさらに賑わう。
岸は三人の対面、カメラの後ろに立ち、三人を見守る。配信準備は万全で、あとは二十一時の開始時間を待つだけだ。
「こんばんは!君と未来(ゆめ)を咲かそう、BloomDreamです」
カズの元気のいい声で、配信がスタートする。『君と未来(ゆめ)を咲かそう』というのは、BloomDreamのデビュー当時からのキャッチコピーだ。三人が拍手をすると、会議室内のスタッフも盛り上げるために拍手をした。もちろん岸も大きく手を叩いた。
カズとタスクが自己紹介をした後、「最後はリョウ、今日の主役!」とカズが前置きし、遼に順番が回ってくる。
「BloomDreamリーダーのリョウです。今日は俺のためにありがとうございます。コメントも、たくさんあって読み切れないくらいで……。本当にありがとうございます」
遼はタブレットのコメントを確認するが、流れが早く目が追い付かない。アーカイブで確認しようと決めた。
「みんな、コメントたくさん待ってまーす!あとで質問コーナーもあるから、どんどん書きこんで、盛り上げよう!」
「ハッシュタグは、#リョウ誕おめでとう、でお願いしますね」
カズとタスクが配信を進行する。二人の手元には、台本代わりの簡易的な進行表があるだけだ。
グループが活動を始めた当初は、台本任せだったが、今ではすっかり慣れたものだ。ある程度はメンバーたちに任せ、岸はどうしてもの時だけ手助けする。今日の配信も問題ないだろうと、岸は肩の力を抜いた。
配信は恙なく進んだ。遼にまつわるエピソードトークや、絶賛開催中の夏ツアーの地方公演の話など、三人の話題は尽きない。ライブのMCコーナーとは違い、幾分かリラックスした姿を見せる。
その後、遼の誕生日ケーキが登場した。遼の年齢である二十四歳に因んで、2と4を形どったろうそくが飾られたチョコレートケーキだった。
「わ!チョコレートケーキだ!美味しそう!」
カズは喜んで、椅子から立ち上がり、ホールケーキを覗きこむ。
「先にろうそくの火を消さないと」
タスクに制されたカズだが、餌を前に尻尾を振る犬のように、「リョウ、早く早く」とカズはその場でぴょんぴょんと跳ねた。
遼は目の前のケーキをじっと見つめた。茶色のチョコレートクリームが綺麗に波打ち、赤色のフランボワーズが鮮やかだ。さらに『HAPPY BIRTHDAY』と書かれたホワイトチョコのプレートが飾りつけられている。
「ありがとうございます。美味しそう、ですね」
何とかそれだけを言った遼は、口を閉ざしてしまう。
一瞬、会議室に沈黙が広がり、スタッフは首を傾げる。岸も同様に不思議に思い、遼の様子を注視する。
両隣のカズとタスクは、遼の異変を感じ、判断を仰ぐために岸を見た。岸は一歩踏み出すが、もう少し待て、と自制する。と同時に、首を横に振ってカズとタスクを制した。
遼は黙ったまま、その鼓動は急速に速くなり、息苦しさを覚えた。昔食べたチョコレートケーキの味が、じわりと口内に広がる気がする。遼の頭の中では、過去の記憶が怒涛に押し寄せていた。当時の感情が一気に溢れ出して、涙となり、こぼれそうになる。それは遼自身も驚くほどの反応だった。しかし、今はカメラの前だと、ぐっと堪え、表情を作る。遼はようやく顔を上げた。
「じゃあ消しますね」
笑顔でロウソクに息を吹きかける。狼狽しているカズとタスクに、岸はクラッカーを鳴らすように促した。二人はテーブルに用意されたクラッカーを鳴らし、「リョウ、誕生日おめでとう!」と改めて祝う。
その後は、遼は何事もなかったように、ケーキを食べ、歓談を続けた。コメント欄には遼を心配するようなコメントが並んだが、すぐに流れ去る。
最後のスクショタイムにファンは盛り上がり、和気藹々とした雰囲気の中、生配信は時間通りに終了した。
10
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる