王妃は番の王の愛執から逃げられません

清里優月

文字の大きさ
39 / 42

39話 過去と未来3

しおりを挟む
「リチャードさん?」
 ヒカルはリチャードの言葉に目を瞬かせる。自分にあんなに執着していたリチャードがさよならと口にしたのだ。ヒカルは、呆然として、はっと我に返る。

「何をしているんだ! 早く逃げろ!」
 王眼の力で結界を張り、ヒカルごと守る。ヒカルは、リチャードに苛立ちを隠せない。手に光の杖を持ち、自分の中の相棒に声をかける。
「行くわよ! 光の杖!」
 ふわりと光の杖の精霊がヒカルの身体の中から現れて、具現化する。
『久シブリネ! ヒカル!』
「ええ……」
 ふわりと金色にヒカルの身体が染まり、光の杖を構える。

『駄目だよ! ヒカルと光の杖!』
 リチャードと一体化している四宝の剣が思念を飛ばしてくる。ヒカルは、四宝の剣まで自分を戦わせないようにしたいのかとむっとする。
『前王妃と西の魔王は、もう完全に一体化している! 殺すしかないんだ! だからリチャードは、君たちに知られたくなくて逃げろと言ったんだ!』
 ヒカルは、四宝の剣の台詞に衝撃を受ける。
 
(アリッサおばさまを助けるには殺すしかないの?)
 いや、一つだけ方法がある。だが、それには 現世の記憶を失う覚悟がいる。ヒカルは、リチャードやライアンの記憶を失いたくなかった。
「でも……。アリッサおばさまを助けたい……。光の杖……。光の錫杖へと姿を変えなさい!」
 ヒカルが両手を組み、天に願う。
「天におられるウェルリース神、あなたの血を受け継ぎし光の王族の子ヒカルがこいねがう。私の一番大切なもの、現世の記憶を捧げます。どうか、光の杖を光の錫杖に!」
 しゃらんしゃらんと光の杖が涼やかな音をたてて光の錫杖へと姿を変える。

「光の錫杖! いっけー!」
 凄まじい光の奔流と共に西の魔王と完全に一体化したアリッサを攻撃する。アリッサを紫の結界が守った。紫の王眼の力だ。リチャードとヒカルの目の前に前ウィル王のルカが立つ。
「アリッサを殺させはしない……」
 毅然とした声と視線でルカはリチャードとヒカルを見つめる。
「ちがっ……。今の光で西の魔王とアリッサおばさまを分断できたのに!」
 ヒカルの言葉に、ルカが目を瞬かせた。ヒカルの言葉を疑う。
「その為に私の今の記憶をウェルリース神に供物として捧げて、光の杖を光の錫杖に……」
 ヒカルは最後まで言葉を紡げない。眠いのだ、記憶の渦に呑まれていく。ヒカルはふわりと倒れ込み、それをリチャードが受け止めた。
「ヒカル! ヒカル!」
 光の錫杖が輝き、その光の渦の中、リチャードとルカが吞まれていく。

 ヒカルは、暗闇の中に立っていた。光、あれと願う。ウェルリース神の守護下で光の錫杖の力を振るう。
「ヒカルお姉さま!」
 ヒナタの声がする。ヒカルは閉じていた瞼を上げる。そこから青の円らな双眸が現れる。
 太陽の如き金の長い髪に澄んだ青の瞳。そして整った鼻筋にさくらんぼのような唇。それを彩る白い小さな顔。華奢な肢体の可憐な妖精のような美貌。この光の王国を司る初代光の女王ヒカル=ウェルリース。天使やウィル神族および魔族の魂をも癒す光の錫杖を持つ奇跡の力を振るう女王。

 だが、本人はまだあどけない少女のような表情でむーんと唸っていた。
「お姉さま?」
「ヒナタ、闇を払っていたのだけど、まだ魔王たちの力が強くて……」
「それよりお姉さま! 私、未来を占っていたら大変な未来を……」
 月光の如き金色の髪に水色の澄んだ円らな瞳。ヒカルよりも愛くるしく、こちらも妖精のように可憐な美貌のややあどけなさが残る可愛らしい少女、ヒカルと双子の姫。百発百中の予言を出す、予言と神の言葉をその身体に降ろす祭祀を司る予言の姫ヒナタだ。ウェルリース王家と癒しと風を司るシルフィーディア王家と大地と言霊を司るアース王家その三王家から天空界はなっていた。中でもウェルリース王家は、天空界の主ウェルリース神に愛されし双子姫の下、平和で豊かな暮らしを光の天使たちは享受していた。

 ヒカルは、ヒナタの予言よりもヒナタの王女らしからぬ落ち着きのなさが気になった。
「ヒナタ、あなた落ち着きがなさす……」
 妹姫を説教しようとした言葉を失う。
「炎と風と水と大地の四つの力を司るウィル神族の王がやってきますわ!」
 ヒカルは、手に持っていた光の錫杖を落とした。
「は?」
 妹は知っていたのではなくて、予言していたのだ。
「そ、そう……」
「私、祈りの神殿に戻るわ! お姉さまも光の神殿から王城へお戻りになってね!」
 くるりと水色のドレスの裾を翻して、ヒナタが駆け出す。

「もう出てきていいわよ……」
 はあと溜息を吐いたヒカルのもとに、服が乱れたままの青年が現れる。紫の双眸に黒の短髪の涼やかで端正な美貌、細いが鍛えられた肢体。くくっと笑う。
「あなたと睦みあう所を見られなくてよかった……」
 ヒカルは、青年の色気のある紫の王眼を睨みつける。
「もう! あなたは所かまわず……。ん~!」
 青年は少女に口づける。最初は、啄むだけだったが段々と深くなり、少女の唇をこじ開ける。舌が搦められて、吸われる。どんどんと青年の胸を叩いて抵抗していた少女だが、段々と青年がくれる口づけに溺れていく。くちゅくちゅと更に搦められて、唇が離れる。
「ん……」
 青年の胸に顔を埋める少女の顔は、上気していた。
「ヒカル、可愛い……」
 少女の名を青年が呼ぶ。くるくると少女の長い金色の髪を弄ぶ。少女が赤面して、怒り出す。
「もう! リチャードの馬鹿っ!」

 ヒカルは、回想する。
 月の綺麗な晩に光の神殿の湖に浸かり一心にウェルリース神に祈っていた所、ウィル神族の青年と出逢い、互いに一目で恋に落ちたのだ。青年は、光の女王と予言の姫の双子姫に目通りをしようとウィル神界からきたウィル神族の王だった。互いに恋をしてはいけない相手に恋をしたのだ。ウィル王リチャードに請われるまま身体を許したが、彼がこの天空界にいる間だけとヒカルは決めていた。

「そろそろルカが来るな……」
 ヒカルは見知らぬ名前に首を傾げる。
「ルカ?」
「そう、俺の弟で俺の次にウィル神に愛されし次代の王さ……」
 くるくるとヒカルの金の髪を弄びながらリチャードは、再びヒカルに口づけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛があれば、何をしてもいいとでも?

篠月珪霞
恋愛
「おいで」と優しく差し伸べられた手をとってしまったのが、そもそもの間違いだった。 何故、あのときの私は、それに縋ってしまったのか。 生まれ変わった今、再びあの男と対峙し、後悔と共に苦い思い出が蘇った。 「我が番よ、どうかこの手を取ってほしい」 過去とまったく同じ台詞、まったく同じ、焦がれるような表情。 まるであのときまで遡ったようだと錯覚させられるほどに。

皇帝の命令で、側室となった私の運命

佐藤 美奈
恋愛
フリード皇太子との密会の後、去り行くアイラ令嬢をアーノルド皇帝陛下が一目見て見初められた。そして、その日のうちに側室として召し上げられた。フリード皇太子とアイラ公爵令嬢は幼馴染で婚約をしている。 自分の婚約者を取られたフリードは、アーノルドに抗議をした。 「父上には数多くの側室がいるのに、息子の婚約者にまで手を出すつもりですか!」 「美しいアイラが気に入った。息子でも渡したくない。我が皇帝である限り、何もかもは我のものだ!」 その言葉に、フリードは言葉を失った。立ち尽くし、その無慈悲さに心を打ちひしがれた。 魔法、ファンタジー、異世界要素もあるかもしれません。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...