最後の男

深冬 芽以

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6 二人の距離

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 翌朝。

 智也より先に目が覚めて良かった。

 こっそりとベッドを出て、身支度をし、フライパンを火にかけたところで智也が起きてきた。

「おはよう」

「おはようござ――」

「敬語、ヤメロ」

「はーい」

 なんだか、気持ちが弾んでいた。

 朝食を済ませて洗い物をしているうちに、『智也』は『課長』に姿を変えていた。

 見慣れた眼鏡姿に違和感を覚える。

「で? あんたが出社する理由は?」と、マンションを出てすぐに、智也が聞いた。

 今日は車で出勤。

「ちょっと……確かめたいことがあって」

「確かめたいこと?」

「もしかしたら、昨日の平野さんの件を解決できるかもしれません」

「どういうことだ?」

 本当は、社で進行中の契約と納品書を確認してから言うつもりだった。けれど、十中八九、私の記憶は正しいはず。

「平野さんが発注ミスしたポーチ、三課でも受注がありましたよね?」

「え?」

「確認したわけではないんですけど……」

 智也が横目で私を見た。

「どうして三課が?」

「ノベルティ用に」

「ノベルティ?」

「はい。春に三店舗同時オープンする美容室で配るノベルティが、あのポーチにヘアケア商品のサンプルを入れたものだったはずです」

 私が勤める『Free Style Productionフリー スタイル プロダクション』では、その名の通り自由な発想に基づいて、多岐に渡る商品開発をしている。

 それを大きく三つに分類すると、食品部門、雑貨部門、美容部門となる。

 千堂課長率いる一課は食品部門の営業、溝口課長率いる二課は雑貨部門、倉田課長率いる三課が美容部門となっている。

 今回、平野さんが発注ミスしたのは、ファンシーショップが来月のオープン一周年記念用に企画したショップのロゴ入りファスナーポーチ千個。

 それを、工場に百個発注してしまった。

 幸い、納品までまだ一週間あるから、工場でも追加生産されるけれど、一週間で九百個というのはかなり厳しい。

 事情も事情だから、追加生産分は当然、追加料金が発生する。

 納品が間に合っても、利益が上がらなくなってしまう。

 間に合わなければ契約違反で違約金ものだ。

「春にオープンなら、ノベルティの準備には早くないか?」

「オープンがずれ込んだんです。ショップ名とロゴの登録が遅れて。なので、先に発注してあったポーチは、ロゴが入っていない状態で倉庫に保管されているはずです」

「なるほど。それが確かなら、ロゴを入れるだけで納品できる」

「はい。ただ、三課の在庫の数がわからないんです。九百もあるかまでは……」

 恐らくは、五百がいいところだろう。

 これは本当に自信がないから言わないけれど、美容室から受注したポーチは三色だったはず。三店舗のそれぞれのカラーで。

「彩」

「はい」

「記憶に間違いがなかったら、今夜は好きな物を奢ってやるよ。何がいいか、考えておけ」

「……はい」
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