最後の男

深冬 芽以

文字の大きさ
77 / 212
10 女の闘い

しおりを挟む
「お前とここでカツカレー食った時に、こういうのいいな、って思ったんだよな」

 私が具をのせ、ピザソースをかけると、智也がオーブントースターに並べて入れた。タイマーを回す。

「なら……、早くちゃんとした結婚相手を探さなきゃ」

 私は残った具を食パンにのせた。

「ちゃんとした、って?」

「智也の子供を産んでくれる女性ひと

「お前にだけは……言われたくないな」

「私以外に言ってくれる人がいるの?」

「……いないけど」

 私は、はははっ、と笑って、食パンにチーズをたっぷりとのせた。

 智也と一緒にいるのが、楽しくなっていた。

 こんな風に、楽な気持ちで飾らずに接することが出来るのは、家族以外にはいない。元夫とですら、こんなに会話が弾んだことはない。

 錯覚しそうになる。

 私と智也が本物の恋人であるかのような、錯覚。

 智也はそれでもいいと言ってくれたけれど、そういうわけにはいかない。



 私智也の家族にはなれない。

 彼の子供を……産んであげられない――。



「そういえばさ――」

 ピザトーストを頬張りながら、智也が言った。

「姉さんが彩に会いたいって」

 ゴフッ、と危うくコーヒーを吹き出しそうになった。

「大丈夫か!?」

「変なこと……言うから……」

 私は咳込んで、呼吸を整え、深呼吸をした。

「真心からお前のことを聞いて、会ってみたいって」

「なんで……。私のこと、どう説明したの?」

「普通に。部下で、付き合ってる、って」

「いや、おかしいでしょ!」

「『恋人ごっこ』してます、って言う方がおかしいだろ。お前を見習って『大人の関係』とでも言うか?」

 私が千堂課長に告白されたことをすぐに言わなかったこと、返事を保留にしていることで、智也が不機嫌なのはわかっている。

 智也との関係を『大人の関係』だなんて、セフレを連想させる言い方をしたことも。

 嫉妬が、くすぐったい。

「普通に、偶然居合わせた部下に真心ちゃんの世話を頼んだ、ってことで良かったんじゃないの? 実際、真心ちゃんと会った時は上司と部下でしかなかったんだし」

「そーだっけ?」

 白々しく、智也が言った。

「会わないよ」

「なんで?」

「いい年をして恋人を家族に紹介するって、意味わかってる?」

「さあ……?」

「智也」

「姉さんに恋人を会わせたこと、ないからな」



 え……?



 自分が特別だと言われているようで、ちょっと喜んでしまった。

「ちょっと嬉しいだろ」

 智也がニヤリと口角を上げて言った。

「とにかく! 会わないからね」

「ま、そのうちな」

「そのうちでも会わないから!」

「はいはい」

 智也には翻弄されっ放しだ。

 それが嫌じゃない自分に、驚きだ。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

恋愛短編まとめ(現)

よしゆき
恋愛
恋愛小説短編まとめ。 色んな傾向の話がごちゃ混ぜです。 冒頭にあらすじがあります。

体育館倉庫での秘密の恋

狭山雪菜
恋愛
真城香苗は、23歳の新入の国語教諭。 赴任した高校で、生活指導もやっている体育教師の坂下夏樹先生と、恋仲になって… こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

サディスティックなプリテンダー

櫻井音衣
恋愛
容姿端麗、頭脳明晰。 6か国語を巧みに操る帰国子女で 所作の美しさから育ちの良さが窺える、 若くして出世した超エリート。 仕事に関しては細かく厳しい、デキる上司。 それなのに 社内でその人はこう呼ばれている。 『この上なく残念な上司』と。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...