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13 感情のままに
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「溝口課長に嫉妬して突っ走っちゃいましたけど、俺は彩さんと『大人の関係』になりたいわけじゃないんです。だから、結婚とか以前に、彩さんに俺を好きになってもらえるように努力します」
「……課長……」
彩さんがまた、困った顔をした。
けれど、それはきっと、本当に困っているのとは違う気がした。
「なんて……、がっつり順番吹っ飛ばしておいて、説得力ないですよね」と、俺は笑った。
「けど、本気なのはわかってもらえたかなと思うので……」
「……はい」
「身体の相性も含めて、考えてもらえたらと……」
「そう……ですね」
自分で振った話だが、彼女の返事に驚いた。
驚いた俺に、彼女も驚いたようだ。
「あ、すいません。ドン引かれるかと思ったので……」
「え? あ、そうですか? 私は……課長こそドン引くかと思ってました」
「どうしてですか?」
「身体……みっともなくて……」
「え?」
身体!?
「正直、課長がデキたのにびっくりです」
「そう……ですか? 普通に……デキましたけど」
実際は普通どころの興奮状態ではなかった。
いや、それはどうでもいい。
彼女がみっともないと言ったのが身体のどの部分を指しているのか、考えた。というか、思い出してみた。
そうしたら、下半身が疼いた。
当然だ。
目の前に好きな女性がいて、その女性とのセックスを思い出せば、そりゃそうなる。
車内が薄暗くて良かった。
俺が何を考えているのかを察したのか、彼女がパッと顔を背けた。
「すいません、変なこと言って」
「いえ……」
静まり返った車内で、スマホのバイブの音が聞こえた。
俺のじゃない。
彩さんは足元のバッグから、画面を照らして着信を知らせるスマホを取り出した。
「ちょっと……すみません」
俺は彼女の手の、傾いたコーヒーのカップを抜き取った。彼女はお礼を言おうと口を開いたが、同時に指が〈応答〉をタップしていた。
「あ、もしもし?」
俺は彼女のカップを置き、窓の外に目を向けた。
「どうしたの? ……うん? ……もうすぐ帰るよ」
相手は真君か亮君のようだ。お母さんの帰りを待っているのだろう。
俺は、トントンと彼女の肩を叩き、シートベルトをするように身振りで伝えた。
「……うん。……大丈夫。買ってあるから。帰ったら出しておくから」
俺は彼女の柔らかい声を聞きながら、車を発進させた。
「亮? ちゃんと歯磨きした? ……そう。……え?」
ふっと横目で彼女を見ると、目が合った。
「うん。いるよ。……え? 今ね、運転中だから――」
どうやら俺の話らしい。
亮君が俺に何か言いたいことがあるようだ。
あ――!
「……課長……」
彩さんがまた、困った顔をした。
けれど、それはきっと、本当に困っているのとは違う気がした。
「なんて……、がっつり順番吹っ飛ばしておいて、説得力ないですよね」と、俺は笑った。
「けど、本気なのはわかってもらえたかなと思うので……」
「……はい」
「身体の相性も含めて、考えてもらえたらと……」
「そう……ですね」
自分で振った話だが、彼女の返事に驚いた。
驚いた俺に、彼女も驚いたようだ。
「あ、すいません。ドン引かれるかと思ったので……」
「え? あ、そうですか? 私は……課長こそドン引くかと思ってました」
「どうしてですか?」
「身体……みっともなくて……」
「え?」
身体!?
「正直、課長がデキたのにびっくりです」
「そう……ですか? 普通に……デキましたけど」
実際は普通どころの興奮状態ではなかった。
いや、それはどうでもいい。
彼女がみっともないと言ったのが身体のどの部分を指しているのか、考えた。というか、思い出してみた。
そうしたら、下半身が疼いた。
当然だ。
目の前に好きな女性がいて、その女性とのセックスを思い出せば、そりゃそうなる。
車内が薄暗くて良かった。
俺が何を考えているのかを察したのか、彼女がパッと顔を背けた。
「すいません、変なこと言って」
「いえ……」
静まり返った車内で、スマホのバイブの音が聞こえた。
俺のじゃない。
彩さんは足元のバッグから、画面を照らして着信を知らせるスマホを取り出した。
「ちょっと……すみません」
俺は彼女の手の、傾いたコーヒーのカップを抜き取った。彼女はお礼を言おうと口を開いたが、同時に指が〈応答〉をタップしていた。
「あ、もしもし?」
俺は彼女のカップを置き、窓の外に目を向けた。
「どうしたの? ……うん? ……もうすぐ帰るよ」
相手は真君か亮君のようだ。お母さんの帰りを待っているのだろう。
俺は、トントンと彼女の肩を叩き、シートベルトをするように身振りで伝えた。
「……うん。……大丈夫。買ってあるから。帰ったら出しておくから」
俺は彼女の柔らかい声を聞きながら、車を発進させた。
「亮? ちゃんと歯磨きした? ……そう。……え?」
ふっと横目で彼女を見ると、目が合った。
「うん。いるよ。……え? 今ね、運転中だから――」
どうやら俺の話らしい。
亮君が俺に何か言いたいことがあるようだ。
あ――!
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