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15 女の顔、母親の顔
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しおりを挟む「これ以上は聞かない方がいい?」と、彩が聞いた。
彼女の、こういう気遣いが出来るところは、好きだ。
「……噂になってるなら、箝口令の意味もないよな」と、俺は呟いた。
「箝口令が布かれているの?」
「暗黙に、な」
「なるほど」
『情報の取り扱いは慎重に』と、部長に言われている。公に箝口令を布けるほど、確かな情報が掴めていない。
「京本さんたちはどうしてるの?」
「自宅謹慎させてる」
「不思議なんだけど、近藤さんてそんな大胆なことをするタイプ?」
「違うだろうな」
「聞き取りしてないの?」
「……何も言わないんだよ」と、俺はため息交じりに言った。
「個別に聞き取りしたけど、豊沢と近藤は泣くばかりで話にならないし、京本は会社には関係ないって言うばかりでさ」
「なに、それ」
「事実の確認も出来ていないのに、相手からは謝罪と三人の処分を迫られてるし」
昨日も呼び出され、正式な謝罪と処分の決定はいつかと迫られた。部長と俺で、もう少し待ってほしいと頭を下げてきたが、社長を連れて来いと怒鳴られて、追い返された。
「そう言えば、相手って?」
「ホームルーム」
「……ごめん、知らないや」
「輸入雑貨のネット販売をしてる会社」
札幌を拠点に、主に北欧を中心とした海外の雑貨を輸入し、ネットで販売している。
「ネット販売の会社とも取引があるの?」
「実店舗をオープンさせることになったんだよ。その第一号が札幌で、オープニングのメモリアルグッズを受注したんだ。ネットではかなり人気らしくて、実店舗も注目されてる。今回のことが公になったら、FSPはかなりのイメージダウンだ」
俺は前髪を掴んだ。少し痛いくらいに。
京本らへの怒りをぶつけることもできず、対応を非難し急かす上層部への苛立ちを吐き出すこともできず、俺のストレスも限界に近づいていた。
「京本さんたちへの聞き取りは、誰がしたの?」
「俺と部長と、総務部長」
「それは……」と、彩の声のトーンが下がった。
「なに?」
「萎縮しちゃって話どころじゃないかも」
「そんなこと言ってる場合かよ。自分たちのしでかしたことを考えたら――」
「そうやって彼女たちが悪いって決めつけたの?」
「は?」と、俺は思わず威圧的なイントネーションで言ってしまった。
彩は一瞬、ビクッと身構えたが、すぐに肩から力が抜けたのがわかった。
「例え誘ったのが彼女たちでも、応じたのは男たちでしょ? 京本さんの妊娠にしても、彼女一人の責任なわけないでしょ。奥さんがいる身で中出しした責任は問われないわけ?」
なかだ――。
「……露骨な言い方するなよ」
なぜか俺の方が気恥ずかしくなった。
「どういう言い方をしても、ヤッたことは同じでしょ」
「そりゃ、そうだけど……」
彩は時々、こっちが気圧されるほど男前になる。カマトト振られても嫌悪しかないが、ここまでハッキリしていると、頼もしいくらいだ。
その彩が、なぜ元夫の侮辱に立ち向かえなかったのか、不思議でならない。
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