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18 悪あがき
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「逆転だ!」
亮君と彩さんがハイタッチをして、彩さんと真君がハイタッチをする。亮君が彩さんの足元を潜り抜けて俺の前に来て、両手を上げた。
パンッと気持ちのいい音を立てて、俺と亮君の掌がぶつかる。
「千堂さん、連れて来てくれてありがとう!」
前歯をむき出しにして笑う亮君を、愛おしいと思った。心の底から。
満塁ホームランの後は点が動かず、あっと言う間に八回の表。
最終回は見逃せないと、真君と彩さんがトイレに立った。
俺は亮君の隣に移動し、買い足したフライドポテトを一緒に食べていた。
亮君は会場入りする前から首にタオルを巻いていた。もちろん、ファ〇ターズの。
「タオル、暑くない?」
会場は熱気で蒸していた。
「うん! 俺、ふわふわの好きだから」
ふわふわ?
「ベッドにぬいぐるみいっぱいで、お母さんと兄ちゃんにいっぱい置きすぎって言われるさ」
なるほど。
売店でB〇のぬいぐるみが売っていたことを思い出した。
「帰りにぬいぐるみ買おうか」
「ううん、いらない!」
予想に反して即答され、驚いた。
「どうして?」
「もう買わないって約束したから」
「誰と?」
「智くん」
智くん……て――。
「この前、水族館でおっきいサメのぬいぐるみを買ってもらったんだ! お母さんはダメって言ったんだけど、智くんが『これで最後だよ』って買ってくれたんだ。だから、もうぬいぐるみは買わないんだ」
まさか――。
試合など、目に入るはずもない。
亮君はグラウンドを見つめ、カンフーバッドを軽く叩いていたが、やめさせて問い詰めたいくらい動揺していた。
「智くんて――?」
「溝口さん!」
「――会ったの……?」
「うん!」
「そ……う」
食事に行った時、彩さんは子供たちは溝口課長と会ったことがないと言っていた。嘘だとは思っていない。
なら、会ったのは食事の後のこと。
彩さんと溝口課長が別れたのは、子供と会った後――?
亮君の様子だと、課長に懐かなかったわけではなさそう。
なら、子供にまで会った後で、どうして別れることになった?
真君が、懐かなかった――?
「水族館、楽しかった?」
「うん!」
「お兄ちゃんも?」
「んーーー……。わかんない」
「どうして?」
子供相手に探るような質問を繰り返すのは情けないし、恥ずかしかったが、亮君に聞くのが一番率直で嘘がない気がした。
「智くんに怒られて泣いてたから」
「怒られた?」
「お母さんに『うるさい』って言って、『謝りなさい』って怒られてた」
「そう……なんだ」
イマイチ状況が掴めないが、真君がカッとなったのを課長が叱ったってことのようだ。
「智くん、キャッチボールしたことないんだって!」
「え?」
「だから、智くんとお母さんが結婚したら、俺が教えてやるんだ!」
「え――――?」
蒸し暑い会場の中にいるのに、背中が冷える。
コーラとポテトが逆流しそうだ。
二人は別れたはずだ。
なら、なぜ結婚なんて話になっている――?
意味がわからない。
わからないけれど、ものすごい敗北感。
彩さんと真君が戻ってきて、俺は席に戻った。
今日の試合は、八対五でファ〇ターズの勝利。
車に戻るまで、真君と亮君が試合の話で盛り上がっていた。けれど、俺は満塁ホームランしか記憶になかった。
亮君と彩さんがハイタッチをして、彩さんと真君がハイタッチをする。亮君が彩さんの足元を潜り抜けて俺の前に来て、両手を上げた。
パンッと気持ちのいい音を立てて、俺と亮君の掌がぶつかる。
「千堂さん、連れて来てくれてありがとう!」
前歯をむき出しにして笑う亮君を、愛おしいと思った。心の底から。
満塁ホームランの後は点が動かず、あっと言う間に八回の表。
最終回は見逃せないと、真君と彩さんがトイレに立った。
俺は亮君の隣に移動し、買い足したフライドポテトを一緒に食べていた。
亮君は会場入りする前から首にタオルを巻いていた。もちろん、ファ〇ターズの。
「タオル、暑くない?」
会場は熱気で蒸していた。
「うん! 俺、ふわふわの好きだから」
ふわふわ?
「ベッドにぬいぐるみいっぱいで、お母さんと兄ちゃんにいっぱい置きすぎって言われるさ」
なるほど。
売店でB〇のぬいぐるみが売っていたことを思い出した。
「帰りにぬいぐるみ買おうか」
「ううん、いらない!」
予想に反して即答され、驚いた。
「どうして?」
「もう買わないって約束したから」
「誰と?」
「智くん」
智くん……て――。
「この前、水族館でおっきいサメのぬいぐるみを買ってもらったんだ! お母さんはダメって言ったんだけど、智くんが『これで最後だよ』って買ってくれたんだ。だから、もうぬいぐるみは買わないんだ」
まさか――。
試合など、目に入るはずもない。
亮君はグラウンドを見つめ、カンフーバッドを軽く叩いていたが、やめさせて問い詰めたいくらい動揺していた。
「智くんて――?」
「溝口さん!」
「――会ったの……?」
「うん!」
「そ……う」
食事に行った時、彩さんは子供たちは溝口課長と会ったことがないと言っていた。嘘だとは思っていない。
なら、会ったのは食事の後のこと。
彩さんと溝口課長が別れたのは、子供と会った後――?
亮君の様子だと、課長に懐かなかったわけではなさそう。
なら、子供にまで会った後で、どうして別れることになった?
真君が、懐かなかった――?
「水族館、楽しかった?」
「うん!」
「お兄ちゃんも?」
「んーーー……。わかんない」
「どうして?」
子供相手に探るような質問を繰り返すのは情けないし、恥ずかしかったが、亮君に聞くのが一番率直で嘘がない気がした。
「智くんに怒られて泣いてたから」
「怒られた?」
「お母さんに『うるさい』って言って、『謝りなさい』って怒られてた」
「そう……なんだ」
イマイチ状況が掴めないが、真君がカッとなったのを課長が叱ったってことのようだ。
「智くん、キャッチボールしたことないんだって!」
「え?」
「だから、智くんとお母さんが結婚したら、俺が教えてやるんだ!」
「え――――?」
蒸し暑い会場の中にいるのに、背中が冷える。
コーラとポテトが逆流しそうだ。
二人は別れたはずだ。
なら、なぜ結婚なんて話になっている――?
意味がわからない。
わからないけれど、ものすごい敗北感。
彩さんと真君が戻ってきて、俺は席に戻った。
今日の試合は、八対五でファ〇ターズの勝利。
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