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18 悪あがき
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しおりを挟む「溝口課長、千堂課長!」
慌てた様子の宮野さんに呼ばれ、俺と溝口課長は顔をあげた。半ば、引きずられるように小会議室に連れて行かれる。
「なんだよ」
訳の分からない溝口課長は、不機嫌そうに言った。
「今日、社内システムのコンペですよね?」
「ああ」
「今、参加者を会議室に案内したんですけど、名前が――」
「名前?」
宮野さんが名刺を差し出し、俺と溝口課長が覗き込む。
「TSS、堀藤貴文……」
「堀……藤……?」
俺たち三人は顔を見合わせた。
同じことを考えていることはわかっている。
「いや……。珍しい名前じゃないだろ」と、溝口課長が言った。
「そうかもしれないですけどっ!」と、宮野さんが不安そうに言う。
「あ、いや。堀藤って旧姓じゃないんですか? それなら――」
「旧姓じゃない」と、溝口課長が言った。
「子供たちのために、離婚の時に名字は変えなかったって言ってた」
知らなかった。
聞きもしなかったから、当たり前だけれど。
溝口課長が組んでいた腕を解き、会議室の電話の受話器を上げた。
「――堀藤はいるか?」
堀藤さんのデスクに内線電話をかけたらしい。
「――どこにいるか知ってる奴、いないか?」
俺と宮野さんは、息を殺して待つ。
「はっ!?」と、課長が大きな声を出した。
宮野さんの肩がビクッと跳ねた。
「――あ、いや、悪い。わかった」
良くない知らせなのは確か。
受話器を置いて振り返った課長は、更に厳しい表情。
「部長から、会議室に飲み物を運ぶように言われてたらしい」
そう言うと、溝口課長は会議室を飛び出して行った。
咄嗟に、俺と宮野さんも続く。
勘違いかもしれない。
堀藤なんて名字、さほど珍しくない。
けど、もし、堀藤さんの別れたご主人だったら――。
その答えは、会議室から出て来た堀藤さんの顔でわかった。
無表情で俯き、立ち竦んでいる。
一緒に飲み物を運んでいた広瀬さんが堀藤さんの異変に気づくか気づかないかのところで、俺は彼女に声をかけた。
「広瀬さん。堀藤さんに急ぎの仕事を頼みたいから、先に戻ってくれるかな」
「え? はい」
溝口課長が、堀藤さんの手からお盆を抜き取り、広瀬さんに渡す。
「何かあったら、携帯鳴らして」
「わかりました」
「宮野、小会議室を取ってくれ。一時間でいい」
「わかりました」
宮野さんが総務に向かい、広瀬さんが給湯室に戻り、俺と溝口課長、堀藤さんは小会議室に移動した。
堀藤さんは、何も言わなかった。何も聞かなかった。
「堀藤さん」
力なく椅子に座った彼女に、聞いた。
「もしかして、会議室に別れたご主人がいませんでしたか?」
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