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20 最後の男
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しおりを挟む俺が、彩の子供たちの父親になることに、躊躇していたこと。
それでも、彩が欲しいと思うのは、俺のエゴだ。
だから、触れてはいけない。
どんなに触れたくても、キスしたくても。
映画と現実は違う。
今、キスをして別れて、綺麗な思い出を胸に生きていくなんて、現実には不可能だ。俺が。
キスをしたら、そのまま抱き寄せて離せない。仕事とか子供とかどうでもよくなって、彩を拉致るか、失業者決定。
そしていつか、後悔する。
こんなはずじゃなかった、と。
でも、もし――――。
「彩」
ビーーーッとけたたましい機械音がして、扉が閉まる予告だとわかった。
「俺は――」
「バイバイ」
プシューッと空気が抜けたような音がして、俺と彩は扉で隔たれた。
手を振る彩が視界から消え、俺はその場にしゃがみこんだ。
言わせてもらえなかった。
好きだ、と。
愛している、と。
言わせてもらえなかった。
結局、後悔すんじゃねーか。
もっと早く言っていたら、何か変わっていたのかもしれない。
もっと早く言っていても、何も変わらなかったかもしれない。
それも、もう、わからない――。
女一人の人生を背負うのだって簡単なことじゃないのに、子供二人ともなれば尚更だ。
千堂が羨ましかった。
感情のまま、彩を欲しがった。子供たちも。
そういう千堂だから、彩は抱かれた。
ちくしょう――!
俺は結局、彩の『最後の男』にはなれなかった。
なりたかった。
『途中の男』なんて簡単に思い出にされそうで、嫌だった。
『最後の男』になりたかった。
唯一の男、になりたかった――――。
もう、遅い。
俺は席に着くと、弁当を開けた。
噛みしめてたら、泣けてきた。
隣が空席で良かった、と思った。
窓の外は、晴天だった。
俺の心は、暴風雨。
彩の心は……?
俺のことを想って泣いていても、吹っ切って笑っていても、もう、俺にはわからない。
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