最後の男

深冬 芽以

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【番外編1】千堂隼の恋

苦悩-3

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「冨田課長の歓迎会は来週の金曜日です」

「企画、早いな」

「部長からのお達しです。溝口課長には逃げられましたから」

 溝口さんの異動が公になったのは、異動日の一週間前。驚く二課の面々は、ゆっくり驚く暇も与えられず、引継ぎに追われた。そして、溝口課長は送別会から逃げ切った。

「全員参加でお願いします」

「わかった」

 部長も苦しい立場だろう。せめて、自分の後釜になるであろう冨田部長とは円満な関係を築きたいはずだ。

「俺、女の上司は初めてです」と、大西が言った。

「大西。女じゃなくて女性、だ。他意はなくても、偏見だと思われるぞ」と、谷。

「そうだな。気を付けた方がいいぞ」と、風間。

「はぁい」と、大西が肩を落として言った。

「あ! やべ」

 大西が店の壁に掛かっている時計を見て、慌てて残っていた蕎麦を口に押し込んだ。

「払っとくから、急げ」

 谷がそう言うと、大西は立ち上がってぺこりと頭を下げた。口の中はいっぱいで、多分口を開いたら蕎麦がこぼれるほど。

 大西は俺たちにも頭を下げて、店を出て行った。

「午後一で工場に進捗確認に行くんです」と、谷は大西が慌てた理由を説明した。

「お前らはいいのか?」と、俺は隣を見た。

「やべっ」

 風間と木田も時計を見て、急いで自分の皿を空にした。

「俺が出しとくから」

「すいません。ご馳走様でした」

 二人は俺に礼を言い、店を出た。入れ違いで入って来たスーツを着た男性二人が、すぐに出来るものを注文した。

「千堂課長」

「ん?」

「堀藤さんの事、諦めたんですか?」

 唐突の質問に、俺はすぐには返事が出来なかった。

「……なんだよ、藪から棒に」

「すいません」

「いや、いいけど」

 谷が俺にプライベートなことを聞くのは珍しい。と言うより、初めて。

「堀藤さん、昨日は午前休取ってましたよね」

「ああ」

「溝口課長の見送りですよね」

「だろうな」

「わかってて、行かせたんですか?」

 少し考えた。

 信頼できる部下とはいえ、堀藤さんに振られたことをペラペラ話す気にはなれない。だが、谷が興味本位で聞いているとも思えなかった。

 俺は正直に聞くことにした。

「聞いてどうする?」

「……千堂課長は結構本気で堀藤さんを好きなんだと思ってました。だから、溝口課長がいなくなった今、どうするのかなと」

「好奇心か?」

「いえ。参考に」

「参考?」

 意外な言葉だった。

「粘り強いのと諦めが悪いのって、どこで線引きするモンですかね」

「諦めらんない女がいるのか?」

「……はい」

「そうか」
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