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【番外編1】千堂隼の恋
一夜の過ち-5
しおりを挟む風呂は、声がよく響く。
自分が思っているよりも、声が興奮していて驚いた。まだ、酒が残っているのかもしれない。
けれど、言葉は本心だった。
冨田課長の驚いた表情に、我に返って恥ずかしくなった。
「すいません……」
子供が出来るかもしれない状況を作っておきながら、偉そうなことを言ってしまった。しかも、子供が出来ているとは限らない。
「誠実、なのね」と、課長が呟いた。
それから、フフッと笑う。
「酔って不本意なセックスしちゃうんだから、誠実じゃあないか」
返す言葉もない。
「しかも、四回も」
やっぱり、四回シたのか……。
「誠実じゃないのも、酔ったはずみなのも確かですけど、責任を取りたいと思っているのも確かです。なので――」
なんて言う?
子供が出来たら、結婚してください?
子供が出来たら、認知します?
子供が出来たら――。
「大丈夫よ」
課長が言った。
「ちゃんと、避妊したから」
「え? けど――」
「千堂くん、ゴム持ってたじゃない」
確かに持っていた。二つ。
彩さんとのことがあってから、持ち歩いていた。別に、隙あらば彩さんを会議室に連れ込もうとか考えての事じゃない。
あくまでも、念の為、だ。
「四つは……持ってなかった……はず」
「残り二つは私が持ってたの」
「え――?」
「四十過ぎた女が持ち歩いてちゃ、おかしい?」
「いえ、そうじゃないですけど――」
「念のため、よ。役に立ったでしょ?」
本当に、言葉がない。
湯に沈んでしまいたい気分。
けれど、とりあえず、妊娠の可能性を回避できて、良かった。本当に。
「ねぇ」
「……はい」
「『彩さん』とは、寝たの?」
「え?」
「堀藤さんの事よね?」
「はい。あっ――! いえ――」
パニくった。
どうして、彩さんの名前が出たのか。
「千堂くんて、年上好きなの?」
「え、いえ、そういう……わけじゃ……」
「ふぅん」
もう、何を言っても墓穴を掘るだけ。
俺は、唇ぎりぎりまで湯に浸かった。
「ちょっと、意外」
そう言うと、課長がザバッと立ち上がった。
不本意にも、彼女の裸を見上げる格好になり、目を伏せた。
ここまで、恥ずかしがらずに堂々としている女性は、初めてだ。
「先、上がるわ」
今度は俺が足を伸ばした。
なんてこと、したんだ――。
これから毎日顔を合わせるのに、なかったことになんかできる気がしない。
しかも、めちゃくちゃ良かったし……。
感触を思い出すだけで、身体が火照る。
いや、俺が好きなのは彩さんだろ!
もう、自分の気持ちと行動に自信が持てない。
仮に、酔ってセックスした相手が彩さんだとしても、大問題だ。
なに、やってんだろ……。
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