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【番外編2】甘いひと時
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「だから、よ。うどん、唐揚げ、ポテト、納豆巻き、カルビ巻き? とか、お寿司屋さんじゃなくても食べられるものばっかり食べるから。真は真で、すごい食べるし」
なんか、笑えた。
回転寿司屋の人気メニューを当てる番組なんかで、唐揚げが上位に入っているのが不思議だったが、家族連れなら当たり前のことなのかもしれない。
「笑い事じゃないから! 智也もあの子たちと一緒に――」
言いかけて、やめた。
無意識なのか、俺と子供たちを親しくさせることに抵抗があるのかは、わからない。
俺は、彩にも子供たちにも、値段なんて気にせずに、腹いっぱい好きなものを食べさせてやりたいなと思った。
「やっぱ、連れて来いよ」
「え?」
「子供たち」
「う……ん」
「俺が札幌帰った時でもいいし」
「……そういえば、札幌のマンションてどうしたの?」
話を逸らされたことには気づいたが、そこは突っ込まなかった。
「そのまま。いずれは帰るし」
「そうなんだ……」
彩が、二つ目のサーモンを頬張る。
「鍵渡すから、たまに行って風通しておいてくれよ」
「……うん」
彩が、やけに嬉しそうに頷いた。
雑用を頼んだのに、意外な反応。
「なに、ニヤケてんだよ」
「ううん?」
「なんだよ。気持ち悪いだろ」
「気持ち悪いとか、言う?」
「じゃ、言え」
「ただ――」
彩がフイッと視線を逸らした。
「また、あの鍵を貰えるんだな……って思っただけよ」
「何言ってんだよ。自分で返してきたくせに」
「そう……なんだけど!」と言って、彩が箸の先を銜える。
「返した時、ちょっと寂しかったから」
なんだよ。
随分可愛いことを言うじゃねーか。
「俺のが、よっぽど寂しかったけどな」
「……」
気まずい沈黙。
彩を苛めたいわけではないけれど、あの日のことは俺にとってかなりつらい記憶。
鍵と封筒と一緒に取り残され、しばらく呆然としていた。
あの後の仕事に影響しなかったのを、俺自身褒めてやりたいくらい。
「早く食おうぜ」
「ん……」
改めて、思う。
もう、絶対に離さない――。
いい感じで、酔った。
飯の後で、露天風呂で月見酒とか考えていたけれど、自殺行為だと彩に一喝された。
俺はベッドに大の字で身を投げ出すと、瞼を持ち上げる力もなくなってしまった。
くそっ!
こんなはずじゃ……。
「おやすみ」
彩の柔らかい声に、俺は深い眠りへと誘われた。
なんか、笑えた。
回転寿司屋の人気メニューを当てる番組なんかで、唐揚げが上位に入っているのが不思議だったが、家族連れなら当たり前のことなのかもしれない。
「笑い事じゃないから! 智也もあの子たちと一緒に――」
言いかけて、やめた。
無意識なのか、俺と子供たちを親しくさせることに抵抗があるのかは、わからない。
俺は、彩にも子供たちにも、値段なんて気にせずに、腹いっぱい好きなものを食べさせてやりたいなと思った。
「やっぱ、連れて来いよ」
「え?」
「子供たち」
「う……ん」
「俺が札幌帰った時でもいいし」
「……そういえば、札幌のマンションてどうしたの?」
話を逸らされたことには気づいたが、そこは突っ込まなかった。
「そのまま。いずれは帰るし」
「そうなんだ……」
彩が、二つ目のサーモンを頬張る。
「鍵渡すから、たまに行って風通しておいてくれよ」
「……うん」
彩が、やけに嬉しそうに頷いた。
雑用を頼んだのに、意外な反応。
「なに、ニヤケてんだよ」
「ううん?」
「なんだよ。気持ち悪いだろ」
「気持ち悪いとか、言う?」
「じゃ、言え」
「ただ――」
彩がフイッと視線を逸らした。
「また、あの鍵を貰えるんだな……って思っただけよ」
「何言ってんだよ。自分で返してきたくせに」
「そう……なんだけど!」と言って、彩が箸の先を銜える。
「返した時、ちょっと寂しかったから」
なんだよ。
随分可愛いことを言うじゃねーか。
「俺のが、よっぽど寂しかったけどな」
「……」
気まずい沈黙。
彩を苛めたいわけではないけれど、あの日のことは俺にとってかなりつらい記憶。
鍵と封筒と一緒に取り残され、しばらく呆然としていた。
あの後の仕事に影響しなかったのを、俺自身褒めてやりたいくらい。
「早く食おうぜ」
「ん……」
改めて、思う。
もう、絶対に離さない――。
いい感じで、酔った。
飯の後で、露天風呂で月見酒とか考えていたけれど、自殺行為だと彩に一喝された。
俺はベッドに大の字で身を投げ出すと、瞼を持ち上げる力もなくなってしまった。
くそっ!
こんなはずじゃ……。
「おやすみ」
彩の柔らかい声に、俺は深い眠りへと誘われた。
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