最後の男

深冬 芽以

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【番外編2】甘いひと時

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 真夜中。

 肩が寒くて目が覚めた。

 腕に抱いていたはずの彩が、いない。

 首を回すと、彩の後頭部が見えた。

 いつも、こうだ。

 眠りにつくときは腕の中にいるのに、朝には必ずそっぽを向かれている。

 別に、どうってことではない。

 男に抱き締められて眠るなんて、慣れていないだけだろう。

 俺だって、そうだ。

 恋人がいた時も、朝まで一緒に眠ることはなかった。あったとしても、記憶にないほど過去の話。

 一晩中身動きが取れないのは身体が辛いし、朝には肩も痛いはず。

 それに、彩だって無意識に寝返りをしているだけかもしれない。

 だから、寂しいなんて思うほどの事じゃ、ない。

 俺はベッドを出て、湯呑にポットの水を注いだ。一口飲む。冷たい。

 そして、空のベッドに腰かける。

 この部屋はツイン。

 ダブルでよかったのだが、露天風呂付きの部屋はここしか空いていなかった。結果オーライだが。

 散々抱き合って、布団は乱れまくりで、二人の汗でシーツも湿ってしまった。

 で、乱れていないベッドに二人で眠ることにした。

 俺は首まで羽毛布団に包まる彩の後頭部を眺めていた。



 朝、もう一回一緒に風呂に入れるかな。



 ふわふわしていた頭の中が、急に冴えた。



 ん?

 俺、彩を抱いて寝たか?



 そっぽを向かれて寂しいとか以前に、酒に酔って早々に眠ってしまった。



 彩を抱き締めて眠っていたのは、夢の中の事か?



 仕事に忙殺され、疲れてはいた。

 彩を抱いて、気持ちは満たされたが、身体は疲れたかもしれない。

 そこに、温泉に浸かって肩の力が抜けた。

 とどめは、日本酒。



 彩を放置で爆睡とか、有り得ねー……。



 自己嫌悪のあまり、深いため息をついた。静かに。

 目を凝らしてベッドの横の時計を見ると、とうに日付が変わっていた。



 せっかくの、彩の誕生日なのに……。



 で、思い出した。



 ケーキ!



 ホテルを予約した時、ケーキを注文しておいた。食事の後で持って来てもらうことになっていたはずだ。

 俺は、それをすっかり忘れて眠ってしまった。

 テーブルの上はすっかり片付けられていたが、端に皿とフォークとコーヒーカップが重ねられている。

 まさか、と思って冷蔵庫を開けた。

 ラップがかけられた小さなケーキが納まっている。三分の一ほど、欠けていた。



 誕生日ケーキを一人で食わすとか、サイテーじゃね?



 俺は自分に呆れて、またベッドに腰かけた。

 俺は、恋愛もセックスも淡泊な方だと思っていた。

 ベタベタするのも、されるのは好きじゃない。

 恋人がいても、自分の時間は欲しいし、邪魔されたくない。

 俺に依存されるのも、嫌だ。束縛も。

 毎日電話するとか、メッセージを送るとか面倒臭い。返事が遅いとか怒られるなんて、耐えられない。

 今更、心配になった。



 俺、こんなんで遠距離とかできんのか――?


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