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「タイミング悪かった?」
「ううん。なんか、食べる気しなくて」
「パンも買って来たよ?」
「あ、食べたい。柚葉は? お昼」
「食べてない、から買って来たの」
千恵といると、気分は中学生だ。
だが、ベッド脇のパイプ椅子に座って改めて幼馴染の顔を見て、時間の流れを感じた。
「太ったね、柚葉」
「いきなり失礼ね」
「事実じゃん」
「千恵は白髪、あるね」
「苦労し過ぎてさ」
千恵がハハハッと笑う。
彼女はかなりハツラツとした性格だ。
小学生の頃からバスケをやっていて、確か高校まで続けていた。
昔っから髪はサラサラのショートで、中学入学時には身長が百六十五センチあって、手足も長く、羨ましかった。
胸は私の方が大きかったから、その点だけは羨ましがられたけれど。
今も変わらないサラサラのショートヘアに、白髪が何本か、ハッキリと見える。
目尻には皺もあるし、私と同じように年を重ねたのだとわかる。
「クリームドーナツ、ある?」
「ある。今も好きなんだ?」
「うん」
私はビニール袋からクリームドーナツを探して、千恵に渡した。
ケーキの箱は、ギリギリ冷蔵庫に入った。
私はゴボウサラダのパンを選んだ。
一緒に買って来たカップのカフェオレにストローを刺す。
ドーナツを一口かじって、千恵が笑った。
「久し振りに食べた。おいし……」
それから、涙をこぼした。
私は見ない振りをして、パンをかじった。
「なした?」
「離婚した……」
旦那さんに浮気癖があることは、聞いていた。
「子供は?」
「……パパがいい……って」
「は――?」
旦那さんとの関係が上手くいっていないせいもあって、千恵は子供たちを溺愛していた。同時に、かなり教育熱心でもあった。
二人の子供は小学校受験をして私立に通っているはずだ。
「転校したくないし、パパと一緒の方がお金にも困らないからって」
「え、上の子、小六? だよね?」
まだ、母親を必要とする年齢ではないのだろうか。
「学校、エスカレーターだし」
「けど――」
「――去年だったかな。親の離婚で転校した子がいたんだけど、生活がガラッと変わってたって話を、人づてに聞いてたから」
「だからって……」
千恵がぐすっと鼻をすすった。
私はベッド脇の棚の上に畳まれている、フェイスタオルを千恵に差し出す。
彼女はそれで顔を拭き、カフェオレを飲んだ。
「最近の子は現実知ってるからね」と言うと、ドーナツを食む。
涙は止まっていない。
「一人でいたくなくて、飲みに出たの。でも、一人で飲んでもつまんなくて帰ろうとして、店の階段から落ちた」
「なに……やってんの」
千恵が半分になったドーナツをぎゅっと握り、肩を震わせた。
「子供……の声が……聞こえたの」
「え?」
「お母さん、って……あの子の声に……似て……て……」
「ううん。なんか、食べる気しなくて」
「パンも買って来たよ?」
「あ、食べたい。柚葉は? お昼」
「食べてない、から買って来たの」
千恵といると、気分は中学生だ。
だが、ベッド脇のパイプ椅子に座って改めて幼馴染の顔を見て、時間の流れを感じた。
「太ったね、柚葉」
「いきなり失礼ね」
「事実じゃん」
「千恵は白髪、あるね」
「苦労し過ぎてさ」
千恵がハハハッと笑う。
彼女はかなりハツラツとした性格だ。
小学生の頃からバスケをやっていて、確か高校まで続けていた。
昔っから髪はサラサラのショートで、中学入学時には身長が百六十五センチあって、手足も長く、羨ましかった。
胸は私の方が大きかったから、その点だけは羨ましがられたけれど。
今も変わらないサラサラのショートヘアに、白髪が何本か、ハッキリと見える。
目尻には皺もあるし、私と同じように年を重ねたのだとわかる。
「クリームドーナツ、ある?」
「ある。今も好きなんだ?」
「うん」
私はビニール袋からクリームドーナツを探して、千恵に渡した。
ケーキの箱は、ギリギリ冷蔵庫に入った。
私はゴボウサラダのパンを選んだ。
一緒に買って来たカップのカフェオレにストローを刺す。
ドーナツを一口かじって、千恵が笑った。
「久し振りに食べた。おいし……」
それから、涙をこぼした。
私は見ない振りをして、パンをかじった。
「なした?」
「離婚した……」
旦那さんに浮気癖があることは、聞いていた。
「子供は?」
「……パパがいい……って」
「は――?」
旦那さんとの関係が上手くいっていないせいもあって、千恵は子供たちを溺愛していた。同時に、かなり教育熱心でもあった。
二人の子供は小学校受験をして私立に通っているはずだ。
「転校したくないし、パパと一緒の方がお金にも困らないからって」
「え、上の子、小六? だよね?」
まだ、母親を必要とする年齢ではないのだろうか。
「学校、エスカレーターだし」
「けど――」
「――去年だったかな。親の離婚で転校した子がいたんだけど、生活がガラッと変わってたって話を、人づてに聞いてたから」
「だからって……」
千恵がぐすっと鼻をすすった。
私はベッド脇の棚の上に畳まれている、フェイスタオルを千恵に差し出す。
彼女はそれで顔を拭き、カフェオレを飲んだ。
「最近の子は現実知ってるからね」と言うと、ドーナツを食む。
涙は止まっていない。
「一人でいたくなくて、飲みに出たの。でも、一人で飲んでもつまんなくて帰ろうとして、店の階段から落ちた」
「なに……やってんの」
千恵が半分になったドーナツをぎゅっと握り、肩を震わせた。
「子供……の声が……聞こえたの」
「え?」
「お母さん、って……あの子の声に……似て……て……」
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