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4.逞しさってなに?
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しおりを挟む「だとしても! この段ボールは柚の子供じゃないし、俺がいる時にそんな逞しさを発揮する必要はないってこと」
小声で、けれどハッキリと言われる。
「はいはい」
「つーか、柚ねぇが言うほど逞しくなんかねぇだろ」
私が一度退職する前、哉太くんは私を『柚ねぇ』と呼んでいた。
私も彼を、弟のように可愛がった。
「友達と喧嘩したって泣いてた哉太くんが立派な男の人になってくれて、お姉ちゃんは嬉しいよ」
「茶化すなよ。柚がいなかったら店、回んねぇんだから無理すんな」
「ありがとう。哉太くんだけだよ、そんな嬉しいこと言ってくれるの」
夫は私を、自分より逞しいと言った。
そして、そこが嫌いだとも。
逞しいってなんだろう……。
子供たちが小さい頃は、二人を脇に抱えて走ることもあった。
子供が乗っているベビーカーごと抱えて階段を上ったことも。
高熱でうなされる子供を前に、どんなに心配して動揺していてもそうとは見せずに、一晩中「大丈夫だよ」と言い続けたこともある。
お義母さんの嫌味を笑顔で聞き流すことも出来るようになった。
どれが、和輝の嫌いな逞しさだろう……?
あ、全部か。
自分の問いに自分で突っ込みを入れ、虚しくなる。
今更、か弱くも可愛らしくもなれるはずないじゃない……。
段ボールからノートを取り出し、バーコードを読み取る。価格を確認して、ラベラーの数字を合わせ、自分の手の甲に試し打ちする。
「あの――」
カチャンとラベラーが私の手に値札を一枚貼り付けると同時に、聞こえるはずのない声が聞こえた。
ハッとして顔を上げる。
「――いらっしゃいませ。なにかお探しですか?」と、店長が元気に反応した。
「なんで?」
レジ前に和輝が立っていた。
手に商品はない。
和輝は私の問いには答えず、店長を見た。
「妻がお世話になっています」
「えっ!? あ! 柚の旦那!?」
驚いた店長が和輝と私を交互に見る。
「こちらこそ、奥さんにはお世話になっています」と、店長が頭を下げる。
「仕事は?」
私はラベラーを片手に夫に聞いた。
彼は朝家を出た格好のまま。
「午後、有休取った」
「どうして?」
「……溜まってた……し」
和輝が有休を使うのは、冠婚葬祭と学校行事だけで、毎年何日も無駄に期限切れになる。
だから、有休が溜まっているのは事実なのだけれど、突然休みを取る理由にはならない。
もっと言えば、突然私の職場に現れる理由にも。
妻の職場も知らなかったことを、気にしてるんだろうけど……。
「柚、上がっていいぞ?」と、店長が私の手からラベラーを抜き取った。
私の勤務は基本、十時から十六時まで。
なにせ個人経営の緩い職場だから、その日その日で適当なのが本当で、私の後に入る大学生の都合で早く上がったりもする。
今日は十五時に交代の予定だが、今はまだ十四時五分。
「この前、三十分残らせちゃったろ? その分」
ラベラーを握っていた手を下ろし、夫を見た。
バツが悪そうに、鼻の頭を指で搔いている。
「じゃあ、お先に失礼します」
バックヤードの脇のドアの向こうがスタッフルームになっていて、ロッカーやハンガーラック、小さなテーブルと二脚のパイプ椅子がある。タイムカードも。
私はタイムカードをレコーダーに差し込んでから、エプロンを外して畳んでロッカーに入れ、代わりにバッグを取り出した。コートを着て、バッグを肩に掛け、店に戻る。
「あれ」
和輝の姿がない。
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