15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以

文字の大きさ
60 / 89
8.今も愛していると言えますか?

しおりを挟む


*****



 カットとカラーを終えて車に戻ると、和輝はエンジンを止めて積んであった大判のブランケットをかけて眠っていた。

 ドアを開ける前に窓に映った自分を見て、少し心配になる。

 だが、今更だ。

 ドアを開けると、和輝が目を覚まし、首を捻って私を見た。

 それから、笑った。

「うん。似合う」

 私も笑った。

「良かった」

 美容師さんに短くて手のかからない髪型にして欲しいとお願いすると、前下がりのマッシュボブにしてくれた。後ろから見るとショートだが、横から見るとボブ。

 以前のパーマが残っていない位置でカットしたから、ブラシを通しながら内巻きにブローするだけだと言われた。

 こんなに短くするのは初めてで、首が寒い。

「さて」と、夫がシートを起こす。

「他に行きたいとことかない?」

 午後三時。

 雪がちらちら降ってきて、空は薄暗い。

 和輝がワイパーを動かした。

「積もり出す前にホテル、行くか」

「どこに泊まる? 家の近くに帰って――」

「――任せてくれる?」と言った彼の表情から察するに、もう決めてあるのだろう。

「いいけど、あんまり高いところは――」

「――うん。あんまり高くないところ。ちょっと買い物して行くか。飲み物とか」

「うん」

 すぐ近くのスーパーで何本かの飲み物と、小腹が空いた時用のお菓子を買った。

 どこのホテルに泊まるのか聞いたが、和輝は教えてくれない。

 家の方面には向かわず、海沿いを走る。十五分ほど。

 海を背に大きく湾曲したダークブラウンの建物が見え、まさかと思って隣の夫を見た。

 視線に気づきながらも夫は何も言わず、昼間なのにピンクのライトで照らされた料金の看板を横目に、駐車場を目指す。建物の一階部分が駐車場。

「和輝? ここって――」

「――来てみたかったんだよな」

「ラブホテルに!?」

「そ。柚葉と来たことなかったろ?」

 確かに、来たことはない。

 私は和輝が初めての彼氏だし、和輝はひとり暮らしをしていたから、ホテルを利用する必要もなかった。

 が、気になったのはそこではない。

 私は窓の外に目を向けた。

 建物正面に噴水が見えるが、さすがに冬の間は止まっている。

「歴代の彼女とは来たけど、私とはないから来てみたかった……と」

「えっ!? 違う! そういう意味じゃないから」

 土曜日とはいえまだ昼間なのに、随分と混んでいるようだ。

 空いているスペースに車を止めると、和輝はシートベルトを外した。そして、私のベルトも外す。

「ねぇ、普通の――」

「――安いぞ? ここ」

「え?」

「旅館よりゼロが一つ少ない」

 それはそうだろう。

「ジャグジーとかサウナもあるって」

「ジャクジー……」

「マッサージチェアがある部屋もあるって」

「マッサージ……」

「飯も美味いらしい」

 私ははぁ、とため息をつく。

「何事も人生経験だと思う」

 確かに、この機会を逃せば私は一生、ラブホテルに泊まることはないだろう。

 こういったホテルに泊まる理由は一つだろうが、それはどのホテルにも言えること。

 最近のラブホテルは女子会で使われることもあると聞くし、何よりも安いのは魅力だ。



 お母さんには絶対、言えないな。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話

紫さゆり
恋愛
オムニバス形式です。 理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。 大人の女性のストーリーです。

雨降る夜道……

Masa&G
恋愛
雨の夜、同じバス停で白いレインコートの女性が毎晩、誰かを待っている。 帰ってこないと分かっていても、 それでも待つ理由がある―― 想いが叶うとき―― 奇跡が起きる――

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

あなたが遺した花の名は

きまま
恋愛
——どうか、お幸せに。 ※拙い文章です。読みにくい箇所があるかもしれません。 ※作者都合の解釈や設定などがあります。ご容赦ください。

処理中です...