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番外編*十五年目の煩悩
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パッパーッ! とクラクションが間近に聞こえ、柚葉の言葉をかき消す。
ハッとして妻の手を引いて抱き締めた。
音のする方を見ると、フラフラと車道を走る自転車に向かって発したらしい。
あれでは、驚いた自転車が転んで事故になる可能性がある。
「危ないな」
クラクションを鳴らした車が交差点を抜け、歩行者の信号が青になった。
歩き出そうと柚葉の身体を離したが、離れない。
俺が抱き締めたはずが、彼女の腕が俺の背中に回っている。
「柚葉?」
「格好悪くないよ?」
「え?」
「和輝は格好悪くないよ」
かろうじて聞こえるくらいの声。
だが、確かに聞こえた。
「違うとこ、行こう?」
妻の肩を抱いてそう言うと、こくんと頷いたのがわかった。
「……飲まなきゃ良かった」
つくづく格好がつかない。
「あ」と、柚葉が顔を上げる。
「駐車場、出せるかな」
「大丈夫だろ」
そう言うしかない。
「もうっ! ああいう狭いとこ嫌いなの知ってるでしょ」と言って、妻の身体が離れる。
「お前に運転させる気はなかったんだよ」
とことん、格好悪いな。
挽回もなにもあったもんじゃない。
今度は俺が妻の手を引いて歩き出す。
横断歩道を渡り、大人しく俺の一歩後ろをついてきた柚葉を振り返ると、足元を見ている。
「柚葉?」
「……ん?」
「下向いてると危ないぞ?」
「うん……」
それからも、柚葉は黙ったまま。
余程運転が心配なのか。
確かに、柚葉は必要に迫られた状況じゃなければ運転しない。
一杯だけだし、大丈夫だろ……。
駐車場に着き、運転席側に回ると、手を繋いだまま柚葉も一緒についてくる。
「和輝?」
運転席のドアを開けた俺を不思議がる。
「駐車場から出すだけなら大丈夫だろ」
「え? ダメでしょ」
「出たら交代するから――」
「――今は、駐車場のカメラで飲酒してないかわかることもあるんだってよ?」
「そんなの、過剰――」
「――そうじゃなくても、何かあったらどうすんの!」
「……はい」
お叱りを受けて、俺は助手席に回る。
「大丈夫か?」と、シートベルトをしながら聞く。
「大丈夫でしょ」と、柚葉もシートベルトを引っ張る。
「心配そうにしてたくせに」
「そう?」
「下向いて大人しかったろ?」
「あれは――っ」
言いかけてやめ、エンジンをかける。
「あれは?」と、俺は聞く。
「なんでもない」と言って、柚葉がバッグから財布を取り出す。
「気になるんだけど」と、何となく追求する。
「小銭、あったかな」
明らかにはぐらかされ、なんだかおもしろくない。
そんな微妙な空気のまま、帰る途中に見つけたラブホテルに入る。
柚葉の態度は気になることろだが、折角の二人きりの夜だ。水を差したくない。
ただ、言いかけてやめられると、柚葉がまた何か言いたいことを我慢しているのではないと勘ぐってしまうのも事実。
広田の一件で、夫婦関係に何の問題もないと思っていたのは俺だけだったとわかったのは、少なからずショックだった。
会話が大事だと思い知ったんだ……。
「柚葉」
柚葉は風呂を覗いて「広い!」と声を上げた。
「さっき、なに言いかけた?」
「え?」
「うつむいて歩いてたって言った時」
ハッとして妻の手を引いて抱き締めた。
音のする方を見ると、フラフラと車道を走る自転車に向かって発したらしい。
あれでは、驚いた自転車が転んで事故になる可能性がある。
「危ないな」
クラクションを鳴らした車が交差点を抜け、歩行者の信号が青になった。
歩き出そうと柚葉の身体を離したが、離れない。
俺が抱き締めたはずが、彼女の腕が俺の背中に回っている。
「柚葉?」
「格好悪くないよ?」
「え?」
「和輝は格好悪くないよ」
かろうじて聞こえるくらいの声。
だが、確かに聞こえた。
「違うとこ、行こう?」
妻の肩を抱いてそう言うと、こくんと頷いたのがわかった。
「……飲まなきゃ良かった」
つくづく格好がつかない。
「あ」と、柚葉が顔を上げる。
「駐車場、出せるかな」
「大丈夫だろ」
そう言うしかない。
「もうっ! ああいう狭いとこ嫌いなの知ってるでしょ」と言って、妻の身体が離れる。
「お前に運転させる気はなかったんだよ」
とことん、格好悪いな。
挽回もなにもあったもんじゃない。
今度は俺が妻の手を引いて歩き出す。
横断歩道を渡り、大人しく俺の一歩後ろをついてきた柚葉を振り返ると、足元を見ている。
「柚葉?」
「……ん?」
「下向いてると危ないぞ?」
「うん……」
それからも、柚葉は黙ったまま。
余程運転が心配なのか。
確かに、柚葉は必要に迫られた状況じゃなければ運転しない。
一杯だけだし、大丈夫だろ……。
駐車場に着き、運転席側に回ると、手を繋いだまま柚葉も一緒についてくる。
「和輝?」
運転席のドアを開けた俺を不思議がる。
「駐車場から出すだけなら大丈夫だろ」
「え? ダメでしょ」
「出たら交代するから――」
「――今は、駐車場のカメラで飲酒してないかわかることもあるんだってよ?」
「そんなの、過剰――」
「――そうじゃなくても、何かあったらどうすんの!」
「……はい」
お叱りを受けて、俺は助手席に回る。
「大丈夫か?」と、シートベルトをしながら聞く。
「大丈夫でしょ」と、柚葉もシートベルトを引っ張る。
「心配そうにしてたくせに」
「そう?」
「下向いて大人しかったろ?」
「あれは――っ」
言いかけてやめ、エンジンをかける。
「あれは?」と、俺は聞く。
「なんでもない」と言って、柚葉がバッグから財布を取り出す。
「気になるんだけど」と、何となく追求する。
「小銭、あったかな」
明らかにはぐらかされ、なんだかおもしろくない。
そんな微妙な空気のまま、帰る途中に見つけたラブホテルに入る。
柚葉の態度は気になることろだが、折角の二人きりの夜だ。水を差したくない。
ただ、言いかけてやめられると、柚葉がまた何か言いたいことを我慢しているのではないと勘ぐってしまうのも事実。
広田の一件で、夫婦関係に何の問題もないと思っていたのは俺だけだったとわかったのは、少なからずショックだった。
会話が大事だと思い知ったんだ……。
「柚葉」
柚葉は風呂を覗いて「広い!」と声を上げた。
「さっき、なに言いかけた?」
「え?」
「うつむいて歩いてたって言った時」
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