その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

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3章 奇縁がつなぐ間柄

3-2 違和感がついてまわる

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 部屋長に妖精モドキの人外を見せられてから。

「、、、あの、部屋長、昨日、教会から離れるまで、今日は教会に来てから腰にずっと違和感があるんですが」

 俺が午後一に言うと、部屋長が俺の腰辺りをちらりと見て、天を仰ぐ。

「、、、うん、昨日見せた人外の一匹がギノの腰にへばりついている」

 と言うと、部屋長は俺の腰から何かを引き剥がしてポイッと遠くへ投げ捨てた動作をした。
 けれど、その違和感は普通に俺の腰に戻ってくる。

「、、、ギノ、あの一匹に気に入られたらしい」

 腰にピトッと張りついている感じですかね?
 そうしている姿を想像する分は可愛らしいんですけどね。

 重くはないし、作業の邪魔になるわけでもない。

「、、、どうすればいいですか?」

「無視一択」

 簡潔な答えが来た。
 姿も見えない、声も聞こえない以上、こちらから何かできることもないのだが。

「ギノにはその人外の名前を教えてないから大丈夫だろうが、そいつはアジュールやクリムゾンとは違う。たとえ見えても信用するな」

「は、はい」

 とりあえずそう返事したれど、その人外の名前、実は知っています。困ったことに。
 部屋長が呼んでいたのを聞いています。
 何も見えないけど、違和感が残る空間に対して発していた名前。
 つまり、その名前の相手が。

 部屋長の声は普通に聞こえてしまうので、仕方ないことなんですが。
 そのことは絶対にバレないようにしなければならない。
 人外には特に。
 だから、部屋長にも絶対に伝えられない。人外にも聞かれてしまうから。
 この人外は大教会の外に出られなくとも、他の人外はどこかにいるだろうし、悪意はどこにでも転がっている。

「この人外は教会の敷地から出られないから、ギノが外に出てしまえば特に問題はないとは思うけど、どうしても邪魔になるようならどうにかするから言ってくれ」

「あ、はい」

 腰にある違和感は教会にいる間、ずっと続くということだろう。
 今後も。
 この人外が飽きるまで。
 姿も見えず、声も聞こえないのなら、俺に対して何かができるということもないのかもしれない。 

 俺が違和感のある腰のあたりを触っても、自分の服にしか触れない。
 俺では違和感のある正体に触れることもできないのである。

 部屋長は普通につかんでポイッとしていたようなのだが。
 つかめるのは、魔力量の違いなのだろうか?




 数日が過ぎた。
 教会にいる間、ずっと違和感がついて回っているが、特に実害がないので言われた通り放っておく。
 たまに部屋長が俺の近くを通るときに剥がして投げ飛ばしているように見えるが、すぐに違和感は戻ってくる。
 俺にはどうしようもないので放置しておくしかないのだろう。

「あ、そうだ、部屋長、グランツ師匠が俺に読むようにと渡してくれた魔導書、持って来ました」

「お、ありがとう、ギノ」

 部屋長が魔導書を受け取り、ペラペラと頁をめくる。
 珍しい、中身を見るなんて。
 いつもは魔法で内容を記憶に焼きつけているのに。
 
 そこまで興味を引く内容だっただろうか。

「こういう英雄譚の物語を、あのグランツも読むんだな。勧善懲悪ものは息抜きにちょうどいい」

 ん?

 部屋長が顔を上げて俺をじっと見た。その目は温かいが。

「あのグランツも少しは弟子に気を遣うということを覚えたか。ギノ、グランツに魔導書を渡されたからといって、いの一番に持ってこなくても大丈夫だ。グランツに戻す前に見せてくれればいいから」

 あまり身長も変わらないのに、柔らかく微笑まれて、頭にポンと優しく触れられた。

 うむ。

 部屋長はこういうところを惚れられるんだな。
 俺は子ども扱いされたとわかっているけど、世の中すべての人がそう解釈してくれるわけではない。
 現にポシュもファンも羨ましそうにこっちを見ている。セリムさんの目が鋭いのはいつものことだ。殺気が含まれているのもいつものことである。

 そして、俺に返された本は、魔導書ではなかった。
 グランツ師匠から渡される本はすべて魔導書だと思い込んでいた俺。反省。
 タイトルは見ていたはずなんだけどなあ。『英雄が愛した魔法』、うん、魔導書と思っても無理はない。

 そっかあ、息抜きかあ。

「部屋長、次からは確認して」

「そういう物語は面白いが、たいていは脚色されている。まあ、英雄譚にならずとも、意外と世界は人知れず、局地的に勝手に滅亡の危機から救われていることが多い」

 勝手に?
 それって自分自身のことを言っていたりしませんか?

「脚色ということは、この物語の元となる事実は一応存在したということですか?」

「ここは帝国だからなあ。何代目の皇帝かは知らないが、世界を救ったという誇大広告にして帝国の宣伝をしているわけだ。国内的にも対外的にも」

 オルド帝国の皇帝はこんなにすごいということを物語で表しているのか。
 実は実在した人物だったと種明かしされながら世界に伝わる。
 
「なるほど」

「世直ししながら正義を貫く、という感じの物語だが、あくまでも主観的な正義だ。まあ、正義を貫くにも力が必要だということが、こういう物語でも読み取れる」

「力が、」

 おそらく純粋な力だけじゃないのだろう。昔の皇帝の話なら権力も含まれているに違いない。

「どんなに力が必要だとしても、己の力量を超える力を望むと厄介ごとに巻き込まれる」

 己の力量がとんでもないレベルに達している部屋長が言っても説得力がないのだが。
 部屋長の厄介ごとは、帝国で捕虜生活をせざる得ない部屋長の状況とも言える。だが、部屋長が帝国に来てもらっていなかったら、この状況もないのだが。

「ギノ、何かあったら、グランツでも俺でも誰でもいいからとりあえず相談しろ」

「え、あ、はい」

 俺の返事を聞くと、部屋長は仕事に戻った。
 気にかけてもらえているというのは、少なからず嬉しいものだ。






 暗がりで。
 何も存在しないはずの空間に、声をかけている部屋長。

「何であの一匹だけギノについているんだ?」

 その返答を俺は聞くことはできない。
 部屋長のため息が聞こえる。

 それは呆れるような返答だったのか。
 彼らは姿が見えないし触れることもできないが、俺に影響を与えることは可能なのだろうか。

 己の力量を超える力を望むと厄介ごとに巻き込まれる、というのは、人外の力を求めるなという忠告に違いない。

 自分の魔力量が増えてきたのは感じる。
 力がなければ、諦めることは可能だった。容易に。
 たとえ、魔導士としては最低限の魔法しか使えなかったとしても。

 けれど、魔力量の増加は、ほんの少しだけ自分に期待してしまう。
 魔法を覚えることが、魔法を使えることが楽しくなってしまった。
 部屋長がたまにこういうのも使えるんじゃないかなー、と教えてくれる魔法も、グランツ師匠が渡してくれた魔導書の魔法も、試してみたいと純粋に思えるようになった。
 使うための努力をするようになった。


 もし、どんな魔法でも使えるようになれるとしたら。
 憧れが生まれなければ、期待しなければ、望むことさえしなかったのに。

 魔導士として。
 強い憧れを抱くのは。


「クロウっ、」

 慌てた様子でリーウセンさんが薬部屋に駆け込んできた。
 部屋長は通常の仕事に戻っている。

「表に三人ほど、魔力量が高い者がいるっ」

「何でそんなに慌てているんだ?」

 ポシュが不思議そうにリーウセンに尋ねた。
 魔力量が高い者なら、帝都には少なくないだろう。
 帝城にも魔導士は多いのだから。

「この大教会前で異国の者で武器をかまえていたら、敵じゃない方がおかしいだろっ」

 リーウセンさんが叫び終わる前に、爆音が響いた。
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