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3章 奇縁がつなぐ間柄
3-7 言語化の重要性
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「セリム、まだ怒ってない?」
プニプニ。
セリムの頬って柔らかいよな。
コレが若さってヤツか。
無限に触っていられる。
セリムには、もうそこまで若くないと言い返されてしまうのだが、俺からするとものすごい若い。
「感情というのは、複雑で制御できないものだから」
それはそう。
どんなに年を取っても、いや、年を取ったら頑固爺になる危険性の方が高まる。
感情を制御できるかはその人がどんな人生を歩んでいたかによるのであって、ただ年齢を重ねたからと言って感情をうまくコントロールできるわけではない。
俺の場合は、ただ感情を押し殺して生きてきただけだし。
ここは帝城の敷地内にある牢獄である。
セリムに宛がわれた牢。
ほぼ宿泊施設の個室状態にしか思えない牢だが。
端整なお顔のセリムの眉間には皺が寄っている。
ベッドで二人横になりながら、仰向けに寝ているセリムのお顔を俺がプニプニ触っているわけだ。
イチャついているわけだ。
妬いてくれるのは、正直嬉しいのである。
お顔がニヤついてしまうのである。
生前のうちの妻は妬いているところをほとんど見せてくれなかったので。
というか、リンク王国で黒髪の男性に好んで話しかけてくる女性はいなかった。店や職場での必要最小限な事務連絡であったとしても嫌そうな顔だったので、妻が勘違いすることもなかっただろうが。
だから、俺に対してこういう態度を取られると、新鮮。
ちょーカワイイ。
リンク王国では絶対にどこを探しても見られなかった姿だ。
「試しに、その感情を言語化してみるか?」
俺がプニプニしながら提案すると、セリムがようやく視線を合わせた。
「とりあえず怒ってもいる」
「誰に?俺に?」
「うーん、うん、クロウにも多少。怒りとは違うかもしれないけど、クロウには何で予測できるのに、ああいうことしちゃうのかなって感じがあるかな」
「、、、セリムにはナナキさんのあの行動、予測できたんだ?」
セリムがマジマジと俺を見る。
浅はかな行動と見られたのなら、セリムが怒るのも仕方ない。
けど、普通抱き着く場面かな?
ああ、俺の周囲に抱き着く他人がいなかったせいで予測ができなかったというのが正しい表現か。
あの人、皇弟なのに他者に軽々しくスキンシップしていいのかな?
「どうやら認識の違いがあったようだ。リンク王国では黒髪の平民に抱き着こうという奇特な人物は王宮にも街にもいなかったからな。うちの妻子だけは違ったけど」
つまり、今まで俺に抱き着くのは妻子二人しかいなかったってことだよ。
注意しようがないね。
ナナキ氏も攻撃をしようとして近づいてきているわけじゃないから、応戦しようとしてもできない。防御魔法も発動しない。
「クロウ、ここではその認識は通用しないから、隙あらば抱き着こうとする輩が多く存在する国だから気をつけて」
くっ、セリムの目が本気で心配の色に変わってしまった。
「はっ、つまりこの牢屋で酔っ払いの軍人に絡まれないよう行動するのと同じことか」
夜間に牢獄の通路をうろつくのは気をつけましょう。
捕虜は襲われるためにうろついているとしか思われない。
文字通り襲われるのである。
命の危険はないが。
各々の牢に鍵はかかっていないのである。
捕虜でも牢獄内なら自由行動可。
自己責任で。
自由にさせてもらえるかは運次第だが、まあ視界に入ってしまえば無理だろう。
基本的に夜間はうろつかない方が貞操は守れる。
酔った状態であったとしても、筋肉がない俺ならポイッと捨てられれば良いのだが、彼らは見境がなさそうな気がする。
「そうそう。クロウはその認識で問題ない」
ん?
何か引っ掛かる言い方だな。
そうではない、というニオイが恐ろしいほど漂うぜ。
筋肉の壁は厚いのか?
今は深く追及しないことにするが。
「俺に対しては怒りというより呆れが強そうだなー。怒りは俺に対して抱き着いたナナキさんに対してか?」
「、、、うん、それはそう。あの人、気安くクロウに触り過ぎだよな」
触り過ぎって言われるほど俺はナナキ氏に触られているだろうか???
いつ、どこでだ?
多少肩や背中にポンと触ることはあった気がするけど?
俺から触ることはなかったはずだが。
セリムはガシガシと頭を掻いた後、ガバッと上半身を起こした。
「、、、あー、そうじゃなくて」
「うん」
「あー、うん。自分に対しての怒りが大半だ」
「俺から見るとセリムの行動に怒りを覚えるところはなさそうだけど、どういう点が?」
「クロウをすべてのものから守りたいのに力不足過ぎるところ」
答えるときには両腕で顔を覆っていた。
俺はズリズリとベッドを動き、セリムの腰に抱き着く。
ぎゅむっ。
「そっかー。大教会前で魔槍使っていたら過剰戦力過ぎるけどなあ。銀ワンコでも同じ」
セリムは腕をほんの少しズラして、俺を見た。
覗いた肌や耳は真っ赤である。
俺のためにそんな表情を見せてくれるなんて可愛すぎる。
愛おし過ぎる。
「クロウが強すぎるから」
「強さも何を基準とするかによってだ。ものによっては俺は誰よりも弱いという自信もある」
セリムのバリケードが解かれ、優しい目が向けられるのを見る。
手が俺の髪に触れる。
「権力とか?」
「それはリンク王国でもオルド帝国でも最弱だという自信がある」
「オルド帝国の権力者である皇帝や皇弟がクロウのご機嫌をとるのに必死じゃないか」
「利用価値のある者に対して、どんな手段をとるのかを選択するのは権力者の自由だから。恐怖で縛るのも、家族の命を握るのも、一つの手だからな」
「そんな奴に忠誠は誓わない。誓ったところで形だけだ」
リンク王国騎士団に所属する騎士たちは国王に忠誠を誓っていたはずなのだが。
セリムの緩んだ目を見たら、別にどうでもいいことなので問うこともしない。
リンク王国での忠誠の誓いというのは、決して魔法での契約ではない。
忠誠を魔法で縛るという鬼畜仕様は、オルド帝国がやっていたことだが。
実は、こういう点においてリンク王国もオルド帝国も五十歩百歩な感じでもある。
ただし、実力を認めてもらえるオルド帝国と身分偏重主義のリンク王国では、底辺にいる黒髪の平民にとっては雲泥の差なのだが。
「魔導士という基準なら、この大陸には俺よりも強い魔法を放つ者がまだまだいる。人外を含めてしまうのならば、さらに多種多様な大技が披露されるだろう。それでも、セリムとともにいるためなら、二人で逃げ切る心積もりはある。セリムは俺とどこまでも一緒にいてくれるか?」
「もちろん、どこまでも」
黒髪を優しく撫でるセリムの目はひたすら甘く細められる。
腕の力を弱めると、俺の横に戻ってくれる。
「ありがとう、セリム」
セリムは俺の髪を優しく愛で続ける。
「本当なら、誰にも邪魔されずクロウと二人きりでいたいけど」
「それを言うなら、俺もセリムを独り占めしたいよ」
けれど、先立つものが必要である。
宮廷魔導士団に勤めていたとしても、俺の稼ぎは平民にとってほどほどの生活ができる程度であって、貴族なセリムを満足に養うには完全に足りない。俺はセリムに我慢してもらいたいわけではないのである。
「俺がセリムを贅沢に甘やかすことができるほど稼ぎがあれば良かったのに」
二人でいることを最優先させてしまっている。
妻子のときのように激務で一緒にいる時間が無くなってしまっては本末転倒な人生だ。
これからも二人で一緒に過ごせるよう暮らしていきたい。
「俺も貯めていた給金を懐に入れてくれば良かった。そうすれば、少しは足しになっただろうに」
、、、セリムの場合は見つかった時点で帝国に没収されていたと思うが。制服も得物も一回没収されているのだから。
さすがに、セリムだって特攻前は貴重品を荷物として雑用係の俺に預けなかっただろうし。
、、、大部分の隊員から荷物を預かっているが、大金を預けたヤツはいないよな。今、返しても帝国に没収されるだけだから確認もしていなかったが。
まさかね。
「俺は庶民生活長いからどんな生活でも耐えられるけど、セリムには我慢してほしくないんだ」
「、、、クロウは貴族がすべて贅沢な暮らしをしているように思っている気がするけど、家によって様々だし、騎士団だと遠征や訓練で自炊もするから、クロウが想像している以上に俺は庶民寄りだと思うよ」
「そうかなあ」
「貴族学校でも三男以下は寮の部屋のランクを落としたり、従者をつけなかったりする。学業や訓練、課題以外にも自分でやらなければならないことも多かった。跡継ぎや予備以外の子供には貴族社会は厳しい世界だった。けれど、親がある程度、学校のお金を出してくれている時点で、クロウからは恵まれていると思われていることは感じている」
「、、、うん、これからお互い我慢できないところや、譲歩できるところとか、きちんと話し合っていこう。価値観は育った環境でかなり異なるのだから。外的要因でどうにもできないことであったとしても、セリムに不平不満を募らせてほしくない。セリムが嫌だと思っていることを、俺が全然気づかないことも多そうだから」
「それはクロウにも言えることだよ」
甘く優しい目がそこで見つめていた。
プニプニ。
セリムの頬って柔らかいよな。
コレが若さってヤツか。
無限に触っていられる。
セリムには、もうそこまで若くないと言い返されてしまうのだが、俺からするとものすごい若い。
「感情というのは、複雑で制御できないものだから」
それはそう。
どんなに年を取っても、いや、年を取ったら頑固爺になる危険性の方が高まる。
感情を制御できるかはその人がどんな人生を歩んでいたかによるのであって、ただ年齢を重ねたからと言って感情をうまくコントロールできるわけではない。
俺の場合は、ただ感情を押し殺して生きてきただけだし。
ここは帝城の敷地内にある牢獄である。
セリムに宛がわれた牢。
ほぼ宿泊施設の個室状態にしか思えない牢だが。
端整なお顔のセリムの眉間には皺が寄っている。
ベッドで二人横になりながら、仰向けに寝ているセリムのお顔を俺がプニプニ触っているわけだ。
イチャついているわけだ。
妬いてくれるのは、正直嬉しいのである。
お顔がニヤついてしまうのである。
生前のうちの妻は妬いているところをほとんど見せてくれなかったので。
というか、リンク王国で黒髪の男性に好んで話しかけてくる女性はいなかった。店や職場での必要最小限な事務連絡であったとしても嫌そうな顔だったので、妻が勘違いすることもなかっただろうが。
だから、俺に対してこういう態度を取られると、新鮮。
ちょーカワイイ。
リンク王国では絶対にどこを探しても見られなかった姿だ。
「試しに、その感情を言語化してみるか?」
俺がプニプニしながら提案すると、セリムがようやく視線を合わせた。
「とりあえず怒ってもいる」
「誰に?俺に?」
「うーん、うん、クロウにも多少。怒りとは違うかもしれないけど、クロウには何で予測できるのに、ああいうことしちゃうのかなって感じがあるかな」
「、、、セリムにはナナキさんのあの行動、予測できたんだ?」
セリムがマジマジと俺を見る。
浅はかな行動と見られたのなら、セリムが怒るのも仕方ない。
けど、普通抱き着く場面かな?
ああ、俺の周囲に抱き着く他人がいなかったせいで予測ができなかったというのが正しい表現か。
あの人、皇弟なのに他者に軽々しくスキンシップしていいのかな?
「どうやら認識の違いがあったようだ。リンク王国では黒髪の平民に抱き着こうという奇特な人物は王宮にも街にもいなかったからな。うちの妻子だけは違ったけど」
つまり、今まで俺に抱き着くのは妻子二人しかいなかったってことだよ。
注意しようがないね。
ナナキ氏も攻撃をしようとして近づいてきているわけじゃないから、応戦しようとしてもできない。防御魔法も発動しない。
「クロウ、ここではその認識は通用しないから、隙あらば抱き着こうとする輩が多く存在する国だから気をつけて」
くっ、セリムの目が本気で心配の色に変わってしまった。
「はっ、つまりこの牢屋で酔っ払いの軍人に絡まれないよう行動するのと同じことか」
夜間に牢獄の通路をうろつくのは気をつけましょう。
捕虜は襲われるためにうろついているとしか思われない。
文字通り襲われるのである。
命の危険はないが。
各々の牢に鍵はかかっていないのである。
捕虜でも牢獄内なら自由行動可。
自己責任で。
自由にさせてもらえるかは運次第だが、まあ視界に入ってしまえば無理だろう。
基本的に夜間はうろつかない方が貞操は守れる。
酔った状態であったとしても、筋肉がない俺ならポイッと捨てられれば良いのだが、彼らは見境がなさそうな気がする。
「そうそう。クロウはその認識で問題ない」
ん?
何か引っ掛かる言い方だな。
そうではない、というニオイが恐ろしいほど漂うぜ。
筋肉の壁は厚いのか?
今は深く追及しないことにするが。
「俺に対しては怒りというより呆れが強そうだなー。怒りは俺に対して抱き着いたナナキさんに対してか?」
「、、、うん、それはそう。あの人、気安くクロウに触り過ぎだよな」
触り過ぎって言われるほど俺はナナキ氏に触られているだろうか???
いつ、どこでだ?
多少肩や背中にポンと触ることはあった気がするけど?
俺から触ることはなかったはずだが。
セリムはガシガシと頭を掻いた後、ガバッと上半身を起こした。
「、、、あー、そうじゃなくて」
「うん」
「あー、うん。自分に対しての怒りが大半だ」
「俺から見るとセリムの行動に怒りを覚えるところはなさそうだけど、どういう点が?」
「クロウをすべてのものから守りたいのに力不足過ぎるところ」
答えるときには両腕で顔を覆っていた。
俺はズリズリとベッドを動き、セリムの腰に抱き着く。
ぎゅむっ。
「そっかー。大教会前で魔槍使っていたら過剰戦力過ぎるけどなあ。銀ワンコでも同じ」
セリムは腕をほんの少しズラして、俺を見た。
覗いた肌や耳は真っ赤である。
俺のためにそんな表情を見せてくれるなんて可愛すぎる。
愛おし過ぎる。
「クロウが強すぎるから」
「強さも何を基準とするかによってだ。ものによっては俺は誰よりも弱いという自信もある」
セリムのバリケードが解かれ、優しい目が向けられるのを見る。
手が俺の髪に触れる。
「権力とか?」
「それはリンク王国でもオルド帝国でも最弱だという自信がある」
「オルド帝国の権力者である皇帝や皇弟がクロウのご機嫌をとるのに必死じゃないか」
「利用価値のある者に対して、どんな手段をとるのかを選択するのは権力者の自由だから。恐怖で縛るのも、家族の命を握るのも、一つの手だからな」
「そんな奴に忠誠は誓わない。誓ったところで形だけだ」
リンク王国騎士団に所属する騎士たちは国王に忠誠を誓っていたはずなのだが。
セリムの緩んだ目を見たら、別にどうでもいいことなので問うこともしない。
リンク王国での忠誠の誓いというのは、決して魔法での契約ではない。
忠誠を魔法で縛るという鬼畜仕様は、オルド帝国がやっていたことだが。
実は、こういう点においてリンク王国もオルド帝国も五十歩百歩な感じでもある。
ただし、実力を認めてもらえるオルド帝国と身分偏重主義のリンク王国では、底辺にいる黒髪の平民にとっては雲泥の差なのだが。
「魔導士という基準なら、この大陸には俺よりも強い魔法を放つ者がまだまだいる。人外を含めてしまうのならば、さらに多種多様な大技が披露されるだろう。それでも、セリムとともにいるためなら、二人で逃げ切る心積もりはある。セリムは俺とどこまでも一緒にいてくれるか?」
「もちろん、どこまでも」
黒髪を優しく撫でるセリムの目はひたすら甘く細められる。
腕の力を弱めると、俺の横に戻ってくれる。
「ありがとう、セリム」
セリムは俺の髪を優しく愛で続ける。
「本当なら、誰にも邪魔されずクロウと二人きりでいたいけど」
「それを言うなら、俺もセリムを独り占めしたいよ」
けれど、先立つものが必要である。
宮廷魔導士団に勤めていたとしても、俺の稼ぎは平民にとってほどほどの生活ができる程度であって、貴族なセリムを満足に養うには完全に足りない。俺はセリムに我慢してもらいたいわけではないのである。
「俺がセリムを贅沢に甘やかすことができるほど稼ぎがあれば良かったのに」
二人でいることを最優先させてしまっている。
妻子のときのように激務で一緒にいる時間が無くなってしまっては本末転倒な人生だ。
これからも二人で一緒に過ごせるよう暮らしていきたい。
「俺も貯めていた給金を懐に入れてくれば良かった。そうすれば、少しは足しになっただろうに」
、、、セリムの場合は見つかった時点で帝国に没収されていたと思うが。制服も得物も一回没収されているのだから。
さすがに、セリムだって特攻前は貴重品を荷物として雑用係の俺に預けなかっただろうし。
、、、大部分の隊員から荷物を預かっているが、大金を預けたヤツはいないよな。今、返しても帝国に没収されるだけだから確認もしていなかったが。
まさかね。
「俺は庶民生活長いからどんな生活でも耐えられるけど、セリムには我慢してほしくないんだ」
「、、、クロウは貴族がすべて贅沢な暮らしをしているように思っている気がするけど、家によって様々だし、騎士団だと遠征や訓練で自炊もするから、クロウが想像している以上に俺は庶民寄りだと思うよ」
「そうかなあ」
「貴族学校でも三男以下は寮の部屋のランクを落としたり、従者をつけなかったりする。学業や訓練、課題以外にも自分でやらなければならないことも多かった。跡継ぎや予備以外の子供には貴族社会は厳しい世界だった。けれど、親がある程度、学校のお金を出してくれている時点で、クロウからは恵まれていると思われていることは感じている」
「、、、うん、これからお互い我慢できないところや、譲歩できるところとか、きちんと話し合っていこう。価値観は育った環境でかなり異なるのだから。外的要因でどうにもできないことであったとしても、セリムに不平不満を募らせてほしくない。セリムが嫌だと思っていることを、俺が全然気づかないことも多そうだから」
「それはクロウにも言えることだよ」
甘く優しい目がそこで見つめていた。
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