『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁

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入院13日目

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 この病室は動物園だった。
 夕食前、窓際のウンコジジイは自分で歩いてトイレにも行けるのにわざわざナースコールをして、

 「どうしました?」
 「便が出ましたから片付けて下さい」

 これから食事だというのにだよ、
 しかも「便」、まだウンコの方が含水量が少ない気がするが「便」というとヌチャというのを想像してしまう。しかもジジイのウンチである。
 これではウンチを見ながらカレーを食べているようなものだ。
 いつもなら「食事前だぞクソジジイ!」と怒鳴りつけるところだが、明日爺さんは部屋を変わる予定なので勘弁してやることにした。


 21時、消灯になると今度は隣りのジジイ。酒を飲んで足を骨折して運ばれて来た。

 「ま○こ」

 するとまた、 

 「ま○こ」

 あの普段は絶対に言ってはならない女性器の俗称である。
 それが隣りのベッドから聞こえて来た。
 よく耳を澄ませてみても、確かにそう言っている。
 寝言ではなく呟いている。
 そして3分くらいすると今度は、

 「屋台 ウンコ」
 
 と言い始めた。  
 そしてまた、

 「ま○こ」

 私は今日一番真面目なお局ナースの緑川さんにそれを聞かせて反応を見たくなり、ナースコールを押した。

 「どうしました? 狸小路さん」」
 「なんかペンな声がするんですけど」
 「わかりました、すぐに伺います」」

 ダッシュで緑川さんがやって来た。

 「ま○こ 屋台 ウンコ」

 緑川さんは隣りの爺さんのカーテンを開けて言った。

 「もう消灯しているんですよ、静かにして下さい」
 「ま○こ」

 私は暗闇の中で掛け布団の端を噛んで笑いを必死に堪えていた。
 そしてひとりごとが止んだ。
 私のところに来てお局が言った。

 「ちゃんと言い聞かせましたから」
 「何て言っていたんですかねえ?」

 私はお局に誘導尋問を掛けた。
 すると緑川さんは眉ひとつ動かすことなく言ってのけた。

 「おまんこ」

 流石はナースのお局様である、ちゃんと「お」を付けた。
 おそらくビールは「おビール」、タバコも「おタバコ」と言うに違いない。
 育ちの良さが窺える。
 おそらく帰国子女だろう。


 翌日、お○こ爺さんの奥さんがやって来て話しをしていた。
 まるで夫婦漫才の会話だった。

 「アンタ、もうお酒は辞めてね。晩酌に1合程度ならいいけど毎日1升も飲んじゃうんだもん」
 「アル中になったら大変だからな?」
 「ボケたらすぐに施設に放り込むからね? ボケないでよ」

 私は国会の予算委員会の答弁をするように挙手をしようかどうか迷った。

 「旦那さん、アル中を超えてもうボケていますから! 残念!」

 と残念サムライのマネをしようとしたが止めた。
 笑い事ではないからである。
 いずれ長生きすればそうなる可能性は高い。他人事ではないのである。
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