昨日 あなたと夢を見た

菊池昭仁

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第1話

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 人で溢れている晴れたお昼の横浜中華街。
 セイロを蒸して立ち上る湯気、甘栗を焼く香ばしい香りが漂っている。
 中国語訛りの日本語で客引きをしている中国人たち。
 瑠衣と晃司は店を探している。 


 「早く冷たいビールが飲みたい」
 「昼間から飲むビールは背徳感があって堪らないからな? みんながあくせく働いている時にキンキンに冷えた生ビールと中華は最高の贅沢だよ」
 「もう歩き疲れたからここでいいんじゃない?」

 大きな老舗のチャイナレストラン。


 「店構えもいいしここにするか?」
 「海老チリと春巻はマストだからね」
 「あと黒酢酢豚もな?」

 腕を組んで店に入る二人。



 大きなグラスで乾杯して微 笑みあう瑠衣と晃司。
 ゴクリゴクリと美味そうにビールを飲む。 


 「ここでの食事が最後なのね?」
 「よく頑張ったよな、俺」
 「俺じゃなくて私たちでしょう?」

 瑠衣を見つめて微笑む晃司。

 店内のざわめき。


 「悪いけど成田までは送らないわよ」
 「ここでお別れだな?」
 「上手くいかないのが男と女」
 「それは男がロマンティストで女があまりに現実過ぎるからかもな?」
 「ニューヨークは寒いから気をつけてね。それと女にも」
 「今までありがとう、瑠衣も今度こそしあわせになれよ、蓼科瑠衣教授」
 「ありがと、私もあなたと恋をしてしあわせだったわ。
 お互い別々の道に進むことになったけど、あなたのことは忘れないわ」
 「3年後、またこの店で食事をしないか? 12月26日の13時に。
 俺の名前で帰りに予約しておくよ」
 「3年後の話を今する?」
 「もし君にパートナーが出来ていたら来なくてもいい」
 「もし晃司に彼女が出来たら?」
 「それはない」  
 「どうして?」
 「彼女は作らないからだ」
 「あはははは バッカみたい」
 
 うれしさを隠そうと、春巻を食べてビールを飲む瑠衣。



 夜、山下公園を歩く二人。
 外国船の霧笛が聞こえる。
 抱き合い、最後の口付けを交わすふたり。


 「それじゃ3年後にあの店で待っている」
 「さようなら、晃司」


 二人はお互い反対方向に歩き始めた。
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