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第二十二話
しおりを挟むクライヴの邸宅に迎え入れてもらってから数日。
ティアーリアは公爵夫人に必要なマナー・教養等を連日教師を招き教わっていた。
貴族令嬢としてしっかりと勉強はしてきていたが、高位貴族の夫人に求められるのは今まで学んできた物の比ではない。
めまぐるしく過ぎる日々に、ティアーリアは毎日へとへとになりながら過ごしていた。
クライヴの邸宅に到着し、現アウサンドラ公爵と公爵夫人に挨拶をした。
クライヴの両親は高位貴族に抱きやすいイメージの二人ではなく、おっとりとした優しげな二人で、クライヴの無茶な要求に対して謝罪までしてくれた。
まさか格上の貴族から謝罪をされるなんて思ってもいなかったティアーリアは盛大に混乱して淑女らしい受け答えが出来なかったのである。
それでも優しく微笑んでくれたクライヴの両親には頭が上がらない。
自分も将来は公爵夫人のように、当主となったクライヴを支えていかねばならない。
公爵夫人として完璧なクライヴの母親の姿を見てティアーリアは不安になったがその気配を敏感に察知したクライヴにそれはもうやり過ぎだ、と言うほど甘く励まされた。
公爵家の使用人や私兵の人達も皆優しく微笑みながらティアーリアを迎え入れてくれて、ティアーリアはこんなに素晴らしい公爵家に嫁げるという事にとても感謝した。
夜、ティアーリアは自分に与えてもらった自室兼寝室で今日のマナーレッスンのおさらいを行っていた。
婚姻前である為、勿論クライヴの私室兼寝室は離れており同じ階にあるが夜も更けた頃に婚約直前とはいえ、未婚の男女が会うのはあまり外聞が宜しくないのにも関わらず、ティアーリアがこの邸に来てからと言うもののクライヴは毎夜ティアーリアの元へと通っていた。
勿論男女の仲になるような行為がご法度であることはお互い心得ているので眠る前の僅かな時間に二人で軽くお茶を飲み、昼間の事やお互いの事等を話をする程度に留めている。
クライヴ自身も時期公爵として日々政務に追われ、ティアーリアも公爵夫人としての準備に追われあまりお互い共に過ごす時間が無い。
その為、この夜の時間は二人にとって大切な交流の時間になった。
そして今日もいつもの時間になるとティアーリアの自室の扉がノックされる。
ティアーリアに扉を開けてもらうと、クライヴが開いた扉の隙間からすりると体を滑り込ませて嬉しそうに微笑みながらティアーリアの額に一つ口付けを贈る。
初めはこの行為に頬を染めて固まってしまっていたティアーリアも、連日続けば慣れてしまい、今ではクライヴの頬に口付けをお返し出来るようになった。
クライヴはソファに座ると、お茶の準備が終わりテーブルにお茶を準備したティアーリアがクライヴの隣に腰を下ろす。
クライヴはティアーリアの腰に腕を回すとそっと自分へと引き寄せる。
ぴったりとお互いくっ付き合いながら取り留めもない事を話し、微笑み合う。
「そう言えばもう狩猟祭も明後日ですね」
クライヴの言葉にティアーリアもこくりと頷くと言葉を返す。
「まだまだ先だと思っていたのですが、あっという間ですね」
「ええ⋯⋯今年の狩猟祭は私も今までよりいい成績を残さなければ、と思っているんですよ」
いたずらっぽく笑いながらそう話すクライヴにティアーリアも頬をほころばせる。
「まあ、それでしたら私もクライヴ様を精一杯応援させて頂きますね」
「ありがとうございます、ティアーリアから応援して頂いたら優勝も目ではないですね」
お互いに幸せそうに笑い合いながら話しを続ける。
狩猟祭は国の行事である為、王族も多く参加する。その為狩猟祭の優勝者には陛下からの褒美も与えられる為皆やる気に満ち溢れている。
普段から狩りを趣味にしている者や、騎士等の体を鍛えている者に有利ではあるが優勝の基準はただ単に一番大きい獲物を狩ったり、数多く狩った者が優勝出来るわけではない。
毎年陛下が独自の判断基準で優勝者を決めている為誰にでも優勝出来る機会がある。
クライヴは今まで参加するにはしていたが、狩猟祭は適当に流していた。
だが、今年は愛するティアーリアの為に優勝を目指している。きっと優勝して、ティアーリアの嬉しそうに花開くような笑顔が見たい。
クライヴとティアーリアは明後日の狩猟祭にわくわくと心躍らせて過ごした。
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