【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船

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マナー違反の訪問

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ふわりと窓から爽やかな風が入り込み、アメジストの髪の毛を攫い長い髪の毛が風にたなびく。

先日レオンから貰った髪飾りと、ブローチをじっとその瞳で眺める。
先日、帰り際にぽつりと零したレオンの言葉がずっとぐるぐると頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消え、と繰り返していた。
あの日、侍女のラーラに髪飾りとブローチの花は何に見えるか聞いてみた。
自分が思い浮かんだその花の名前を否定したくて、どぎまぎとしながらラーラに聞いた。
そうしたら、呆気なくラーラもリナリアではないか、とその花の名前を答えた。

「やっぱり、そうよね…」

リアリアの花言葉を頭の中に思い浮かべると、ミュラーは困った表情ながらも自分の頬が染まるのを自覚する。
リアリアの花言葉は「この恋に気づいて」だ。
先人たちは秘めた恋心をこっそりと告げたい相手に想いを込めてリナリアの花を贈り合っていた。

もう、この恋は諦めようと思った矢先にレオンから贈り物を貰った。
しかも、つい零れ落ちてしまったと言うようなその唇から紡がれた言葉にミュラーは混乱していた。

「どうしよう…」

嬉しい、あの日レオンから紡がれた言葉が本音なのであればとても嬉しい気持ちがある。
だけど、何故今になってレオンは気持ちを紡ぐ事にしたのだろうか?
それに…あの日、あのお茶会の日にミュラーを責めたキャロン・ホフマン子爵令嬢の言葉達も同時に蘇ってくる。
キャロンの言っていたことは整合性に欠けており全ての言葉を手放しで信じる事が出来ない。
レオンが、キャロンと婚約していたなんてそんな話は聞いた事がないし、成人後結婚するなんて事、こんなに傍にいたミュラーが気付かないはずはないし、それに結婚が本当の事なのであればレオンは必ず告げてくるはずだ。
ミュラーの気持ちを宙ぶらりんにしたまま弄ぶような、そんな事をするような人物ではない。
では、あの日夜会で見たレオンと口付けを交わしていたパトリシア・フィプソン伯爵令嬢は?

確かにあの男性はレオンだった。
あんなに恋焦がれている男性を見間違える訳がない。
儚くなってしまった、とキャロンは言っていた。
その言葉を使うという事は既に令嬢はこの世にいないのだろう。

「何だか変だわ…」

先日のレオンの態度、キャロンの言葉、そしてこの世からいなくなってしまったというパトリシア。
何かがレオンの周りで起きている?とそこまでミュラーは考えて、そこで部屋の外から焦ったラーラの声に思考を中断した。

「ミュラーお嬢様、申し訳ございません。今宜しいですか?」
「?ええ、どうぞ」

ミュラーのその言葉に、ラーラが控えめに自室のドアを開けて顔を覗かせる。
そのラーラの表情は、困ったように眉根が下がっており、どうしたらいいのか判断に困っているようなそんな表情をしていた。
何か判断出来ないような、そんな事が起きたのだろうか?とミュラーはラーラに何があったのか、促す。

「ミュラーお嬢様にお客様が来ておりまして…前触れの連絡のない訪問にはお断りするよう決まっているので、お断りしているのですが中々ご納得頂けなくって…」

どうしてもミュラー本人と話したい、と言って帰らない客人がいるらしい。
今は家令が代表してその客人の対応をしているそうだが、相手も伯爵家の跡取り。
いくら家令と言えども、貴族相手に強く出る事も出来ず対応に難航しているらしい。

「まぁ…お父様が不在の時に限って…」
「ええ…そうなのです。旦那様がいらっしゃればここまで大事にはならないのですが…」

ミュラーを呼ぶのに家令は難色を示したようだが、埒が明かないので取り敢えずミュラーへ話しを通し対応の仕方を、指示を仰いで来てくれと家令に言われたラーラは、ミュラーの元へと来たらしい。

「お断りしても帰って下さらないのよね?それならば私からはっきりとお父様を通して訪問するようお伝えした方がいいと思うの。その方の所へ案内して」

父が帰るまでその男性に居座られても困ってしまう。
使用人達にも仕事があるのだ。
貴重な時間をその男性のせいで台無しにしたくはない。

ミュラーのその言葉に、ラーラは不安そうに、だがほとほと困っていた状態であった為ほっとするように表情を緩めると、「こちらです…」と客人が通された部屋に向かって歩き始めた。

「突然訪問された方は伯爵家のニック様という男性だそうです。確か…フレッチャー伯爵家の者だ、と仰っておりました」
「え…それは本当?」

聞き覚えのあるラーラから話された男性の名前に、ミュラーは顔を顰める。
先日のお茶会の時に最低限のマナーもなく観劇に誘ってきたその男性の名前だった。
自信家で、断りもなく触れてくるその男性に嫌悪感を抱いた人物だ。

家の皆がいるとは言え、あの男性と会うのは少し気が引けてしまう。
またぞっとするあの視線で見つめられたくない。


「仕方ないわね…、お父様がご不在の今お断り出来るのは私だけだわ」

ミュラーはそうラーラに言うと、その男性─ニックがいると言う部屋へと向かっていった。
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