「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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一章

27話

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 腕の痛みを堪え、ヴァンは侯爵邸の廊下を進む。
 この邸の使用人も、ウェンディの家族達でさえも、今日行われるパーティーにかかりきりになっており、会場と離れるにつれて、人の気配も少なくなっていた。

 幼い頃から、この邸には幾度となく来た事のあるヴァンは、勝手知ったる邸の中を迷いなく進み、ウェンディの部屋に向かう。

 暫く歩き、ウェンディの部屋の前までやってきたヴァンは、自分の懐にしっかりとしまってある契約書類を服の上から確認し、ふうと一呼吸置いてから、扉をノックした。

「ウェンディ、俺だ」

 ヴァンが声をかけると、すぐに部屋の扉が開く。
 扉を開けてくれたのはメイドのナミアで。
 彼女は、やってくる筈のヴァンを扉のすぐ側で待ってくれていたらしい。

 ナミアはほっと安心したような顔を見せると、笑みを浮かべた。

「ハーツラビュル卿! お待ちしておりました!」
「ああ、待たせた。すまない」

 ナミアと言葉を交わしつつ、室内に足を踏み出したヴァンは、部屋の真ん中ですっと背筋を伸ばし、凛と立つウェンディの姿に、見惚れた。

「──ヴァン」

 ふわり、と嬉しそうに笑うウェンディに、ヴァンは言葉を失ってしまう。
 今までと、姿形は変わっていないはずなのに。
 それなのに、ウェンディが纏う空気が、今までとは何だか違うように感じられた。
 美しく凛と立つ姿には気品が感じられ、微笑むウェンディは幼い顔立ちなのに、どこか大人っぽさを孕んでいる。

「ヴァン? ぼうっとして、どうしたの?」

 ウェンディが不思議そうにヴァンに歩み寄り、惚けているヴァンの顔の前で手のひらを振る。
 はっとしたヴァンは、少し照れくさそうにはにかむと、答えた。

「ごめん、ウェンディが綺麗過ぎて、ちょっと見惚れてた。……準備は、大丈夫そう?」
「ええ、大丈夫。行きましょう。人が少ない区画で、契約を」
「──ああ、行こう」

 ウェンディの言葉にヴァンは力強く頷き、ウェンディの手を取った。




 ヴァンの腕に手を添え、並んで廊下を歩く。
 目的の場所に向かう道すがら、ヴァンは不服そうにウェンディに話しかけた。

「ウェンディ。今日は、フォスター隊長とエルローディア嬢の専属護衛騎士契約の催しがあるんだな。……邸の玄関は、招待客でごった返していたよ」
「そう、なのね。もうそんなに沢山の招待客が?」
「ああ。フォスター隊長も、エルローディア嬢も上機嫌だったよ」
「ヴァンは大丈夫だった? フォスターに嫌な事言われたり、されたりしてない?」

 ウェンディが、自分を心配してくれている。
 それが分かり、じわじわと嬉しさが胸に満ちる。
 ヴァンは頬を緩ませ、笑う。

「ああ、大丈夫。心配してくれてありがとう、ウェンディ」
「ふふ、どういたしまして」

 話しながら歩いていると、目的の場所にあっという間に辿り着いた。

 ウェンディは、今はもう殆ど使用されていない広い応接室の扉に腕を伸ばし、扉を開けた。

「ここよ、ヴァン。ここで契約しましょう」
「──ああ、よろしく頼むよ、ウェンディ」




 ヴァンは、自分の父から渡された専属護衛騎士契約の契約書を、応接室のテーブルに広げる。
 ナミアがすすす、と契約書に歩いて行き、契約書に手をかざして自分の魔力を流し込んだ。

 そして、ヴァンが自分の指を小刀で切ると、赤い血がじわりと滲む。
 契約書に血を落としたヴァンは、次にウェンディにその小刀を渡した。

 心配そうに見つめるヴァンにウェンディは笑みを返し、躊躇いなく自分の小指を小刀で切る。
 ヴァンと同じく契約書に自分の血を垂らすと、契約者が両者の血に反応し、淡く光を放つ。

 そこで間髪入れずに、ナミアが自分の両手を翳した契約者に、魔力を流し込んだ。

「私、ナミアは二人の契約見届け人。ここに、両名の専属護衛騎士契約を見届ける!」
「ウェンディ・ホプリエル。この契約に、異論は無いわ。私は、この先ヴァン・ハーツラビュルを信じ、彼にずっと私の傍に居て欲しい」
「ヴァン・ハーツラビュル。俺は、ウェンディ・ホプリエル嬢を生涯守り、命ある限り彼女の傍に」

 誓いの言葉は、お互い、その時心から紡がれる言葉。
 その言葉に呼応するように、契約書から生じた光がウェンディとヴァンの全身を包み込み、そして強烈な光を放った。

「──っ」

 ウェンディは、思わずその光の強さに目を瞑ってしまう。

 だが、その光は一瞬で自分達の体に染み込むようにして消えてしまった。

「だ、大丈夫、でしょうか……? 契約は、無事成立したのでしょうか?」

 ナミアの不安そうな声が聞こえる。

「ああ……何だか、胸がじわりと温かい。……それに、魔力が俺の体を激しく駆け巡っている。これって、もしかしてちゃんと契約が成立したんじゃあ──」

 そこまで口にしたヴァンは、笑顔でウェンディに顔を向けた。
 が、ヴァンの笑顔が凍り付き、すぐに焦ったような顔に変わる。

「──ウェンディ! 大丈夫か!?」
「……っ、うぐっ」

 ウェンディは、自分の胸元を強く押さえ込み、体を丸める。

「なに、これ……っ、熱い……っ、体が発熱してるみたいに、……熱いっ」
「ウェンディ!!」

 ぐらり、とウェンディの体が傾く。

 ヴァンは、真っ青な顔で倒れ込んできたウェンディの体を抱き留めた。
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