「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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一章

54話

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「待って……何が起きているの……」
「何故、突然森の中に……? 俺たちの馬車は確かに道に……」

 舗装もされていない道ではあったが、確かにそこは人が使用している形跡のある道だった。
 こんな、森の中のような場所では無かったのにどうして急に馬車が森の中に、とウェンディもヴァンも混乱してしまう。

「ウェンディ、俺から離れないでくれ。この森、何だか変だ」

 ヴァンがウェンディを守るように傍に寄る。
 彼はいつでも襲撃されても対応出来るように周囲を警戒し、魔法を発動出来るように備える。

 不気味な森の中は、得体の知れない鳥の声や葉が擦れ合う音が静かな空間に響き、無意識の内にウェンディの体がぶるり、と震えた。

「──っ!?」

 だが、突然気配を感じたウェンディは、そちらの方向に勢い良く顔を向ける。

「ヴァン、何か……人が、来るわ……」
「人だって……? こんな所に……? まだここはアヌジュの森じゃないはずなんだが……」

 ウェンディとヴァンの会話に、フォスターとエルローディアは明らかに狼狽え始める。
 彼ら二人は、ウェンディとヴァンを盾にするように背後に隠れ、近づいて来る、と言う人の気配にごくりと喉を鳴らした。

 近付いてくるのは、明らかに人の気配だ。
 だけどウェンディにはその気配がとても強大で、とてつもない力を持っているように感じる。

 自然と足が後ずさり、隣にいるヴァンの肩にウェンディがぶつかってしまう。
 ヴァンも、額に薄っすらと汗をかきながら、ウェンディ同様じっと前方を見据えている。
 ヴァンも、ひしひしと感じていた。
 ウェンディ程、その気配をはっきりとは感じ取れてはいないが、近付いてくるものがとてつもない力を持っているように思えて。

「──ウェン、ディ……」
「ええ、何だか……怖いわ」

 二人の少し後ろに控えているナミアも、二人の尋常ではない様子に、じっとりと背筋に汗をかいた。

 何も分からず狼狽えているのはフォスターとエルローディア二人のみ。

 ウェンディが見据える先から、薄暗い木々の間からぬっと痩身の男性が姿を現した。

「こんな所に客人とは。随分と珍しい事があるものだ──」

 笑みを浮かべてはいるが、友好的な雰囲気ではない。
 ずっしりとプレッシャーのような、圧を感じていたウェンディは、やってきた人物の姿を見て驚きに目を見開いた。

 長く尖った耳に、人外の美しさを放つ容姿。
 こんな暗闇の中でも輝いて見える、キラキラと波打つ金髪。
 瞳はルビーのように赤く、まるで宝石のように輝きを放っていた。

 人とは思えぬ程の美しさに、ウェンディもヴァンも息を呑む。
 恐らく、やってきた人は男性──。
 男性なのだが、これほど「美しい」と言う言葉が似合う人を、ウェンディは今まで見た事が無い。

 まるで、童話や御伽噺の中に出てくるエルフのような容姿の男性。
 その男性は、ウェンディとヴァンを興味深そうに見やったあと、嫌悪感を隠しもせずにフォスターとエルローディアを見た。

「……いらぬ塵が混ざってしまったな。まあ、良い。私に用事があってここまで来たのだろう。着いて来い」
「──えっ」

 その男性は、ウェンディの戸惑う声には何も返さず、そのまま森の中に戻ってしまう。

 その男性の後ろ姿を唖然と見つめていたウェンディだったが、はっと意識を切り替えると、未だ呆然としているヴァンの手を取った。

「ヴァン! あの人が行ってしまうわ、追いましょう! きっと、あの人がアヌジュの森に住んでいると言う、契約魔法に詳しい人だわ!」
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