55 / 86
一章
55話
しおりを挟むスタスタと歩いて行ってしまう男性を追おうと、ウェンディとヴァン、ナミアが足を踏み出したところで。
「まっ、待ってお義姉様! あんな、見るからに怪しい男に着いて行くのですか!?」
「エルローディア様の言う通りです、ウェンディ様! 戻ってください! ヴァン・ハーツラビュル! お前如きがウェンディ様を守れるはずがない! お止めしろ!」
「……私とヴァンが会いに来たのはあの人かもしれないの。それに、着いて来いと行ったのだから私たちに危害を加える気はないと思うわ。危害を加えるなら、とっくにしてるもの」
「俺も、ウェンディと同じ意見だ。ここに残りたければ二人だけで残ればいい」
すげなくウェンディとヴァンに訴えは却下され、しかもそのまま先程の男性を追うように足を進めるウェンディとヴァン。それに、ナミアまでも彼らに着いて行ってしまい、エルローディアとフォスターは顔を見合わせた。
「──~っもう! 知りませんわよ!」
「な、何が起きてもウェンディ様は俺が守らねば……!」
二人は、このままこの場に残されたくはない、とばかりにウェンディ達の後を慌てて追った。
◇
歩いて行く男性に着いて行ったウェンディ達が辿り着いた場所。
そこは、森の中に突然現れたかのような大きな邸だった。
「入れ」
大きな邸に、目の前で唖然と口を開けていたウェンディやヴァンは、男性に素っ気なく声をかけられ、はっとする。
「よ、良いのですか?」
「良いも何も無い。私を訪ねて来たんだろう? 客人はかなり久しぶりだ」
男性は、それだけを言うとウェンディ達を気にせずに邸の中に入ってしまった。
ウェンディとヴァンはお互い顔を見合わせて頷き合う。
「お邪魔させていただきましょう、ヴァン。……ナミアも良い?」
「ああ、そうしようウェンディ」
「分かりました、お嬢様……!」
二人が頷いてくれた事を確認したウェンディは、男性に続いて邸へ入った。
玄関の扉を開けて中に入ったウェンディの目に飛び込んで来たのは、広々とした玄関ホール。
そこには、見た事も無い魔道具のランプが置かれていて、周囲を温かな光で包んでくれていた。
しかも、邸内部は外の寒さを微塵も感じさせず、程よく温かい。
よくよく見てみれば、不思議な魔道具が至る所に設置してあり、その複数の魔道具が室内を快適に保っているのだろう、とウェンディは思った。
ウェンディの隣を歩いていたヴァンは、ぽつりと呟く。
「馬車に戻ったら、そこが森の中だったり……突然森の中にこんな大きな邸が現れたり……不思議な事ばかりだ。この邸って、隠されていたかのように急に現れたな」
ヴァンの言葉に、ウェンディもこくりと頷く。
「ええ、そうね……。とても不思議な感覚を感じるもの……」
ウェンディとヴァンが話しつつ歩いていると、辿り着いた先は玄関ホールを進んだ所にある大きなサロンだった。
開放的なサロンで、玄関ホールの大階段の下を進むとこのサロンに到着した。
サロンに先に到着していた先程の男性は、ランプに火を灯しながらウェンディ達を待っていた。
そしてちらり、とウェンディに視線を向けると楽しげに笑った。
「感覚が鋭いな。この邸を覆う軽微な魔力を感じ取ったのか」
「──っ! ならば、あのっ、ここはやっぱり……っ!」
ウェンディがぐっと身を乗り出すと、男性はサロンにあるソファに腰掛け、ゆったりとした動作で頷いた。
「ああ。意図的にこの邸を隠している。……人間と関わりたくないからな」
「──っ」
ならば、何故自分達を招いてくれたのか。
それを聞きたくなってしまったヴァンだが、男性が視線を向けているのはウェンディ。
ここで自分が口を挟むと、あの男性の機嫌が悪くなる──。何故だかそう感じてしまって。ヴァンはぐっと言葉を飲み込んだ。
だが、ウェンディとヴァンの後から着いて来ていた予定外の二人は、空気を読めなかったのだろう。
その男性に向かって、不遜な態度で問いかけた。
「ならば、お前がこの邸を隠したと言うのか? はっ、そんな事は無理だろう! これほど大きな邸を魔法で隠すなんて……! そもそも、そんな魔法などない事だしな!」
「ええ、そうね……。きっとそうだわ! 偉そうにしちゃって。きっと希少な魔道具があるんだわ」
フォスターとエルローディアの無礼な態度に、ウェンディもヴァンも言葉を失ってしまう。
ナミアなんて、最後方で顔を真っ青にしてしまっていた。
男性が強大な力を持っているだろう事はひしひしと伝わってくるのに。
男性の「魔力」が、自分達を圧倒していると言うのにこんな口を開くなんて──。
失礼な事を言うのをやめさせようとウェンディが動いたが、それよりも早く男性が動く方が早かった。
「うるさい二人だな」
ぽつりと呟いた男性が、ひょい、と指先を軽く動かす。
すると、フォスターとエルローディアの口元に植物の蔦がしゅるしゅるとまとわりつく。
「ふごっ!ふごーっ!!」
「ふごっ!」
男性は、更にもう一度ひょいっと手を動かすと、フォスターとエルローディアの体が音もなく突然浮遊し、サロンにあるソファにそのままぽいっと投げられた。
「──っ!?」
「詠唱もなく、魔法を……!?」
ウェンディも、ヴァンも、ぎょっと目を見開く。
魔法の発動には、詠唱が必要なのだ。
自分の想像した魔法を、言葉を通じて具現化させる。
そうしなければ、魔法は具現化しないのに。
目の前の男性は、事も無げにそんな大層な事をあっさりと成し遂げたのだ。
1,744
あなたにおすすめの小説
妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
双子として生まれたエレナとエレン。
かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。
だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。
エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。
両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。
そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。
療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。
エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。
だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。
自分がニセモノだと知っている。
だから、この1年限りの恋をしよう。
そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。
※※※※※※※※※※※※※
異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。
現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦)
ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!
佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。
「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」
冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。
さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。
優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。
君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました
水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。
求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。
そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。
しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。
ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが……
◆なろうにも掲載しています
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる