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一章
63話
しおりを挟む「なるほど……力を取り戻して調子に乗ってしまったのだな……」
「ええ、あなた。これはしっかりと躾直さなければなりません」
「ウェンディの顔だけは傷を付けるなよ。あれの価値が下がる」
「当然ですわ! ウェンディには沢山の縁談の申し込みがございますもの。傷物になって価値を下げては勿体ない!」
侯爵と侯爵夫人。二人の会話が静かな鍛錬場に響き、ウェンディは二人を注意深く見やる。
二人は、魔法の能力は中々だ。
どうしてこんな人達が、魔法の能力が高いのか分からないが、血筋も関係しているかもしれない。
両親の魔法能力が高いため、ウェンディ自身も能力が高い可能性がある。
二人の行動を注意深く観察して、魔法攻撃に備えていたウェンディの隣に、誰ががすっと並び立った。
「ウェンディ。大丈夫だ、ウェンディも、ウェンディが大切だと言ってくれた人達も。俺が絶対に守るから」
「──ヴァン!」
ウェンディの隣には、怒りを浮かべたヴァンが並び立つ。
ウェンディは先程まで一人で大丈夫か、皆を守れるだろうか、と不安だった心が一瞬でふわり、と軽くなった。
ヴァンが隣に居てくれるだけで、こんなにも頼もしい。
ウェンディがヴァンに声をかけようとしたが、その前に侯爵が口汚くヴァンの事を罵った。
「──このっ、うちの娘を攫った暴漢め……! お前がウェンディを連れ出したせいで、ウェンディが私たちに逆らうようになってしまった!」
「本当だわ! このような暴漢を、可愛い娘の傍には置いておけない! 専属護衛騎士契約を破棄させてやる!」
侯爵と侯爵夫人は高らかに叫ぶと、ウェンディとヴァンに向かって攻撃魔法を放つ。
可愛い娘、と言っておきつつ、放たれた魔法は強力な魔法。
まともに食らってしまえば、大怪我をしてしまうだろうと言うくらいの威力を持った魔法だ。
実の娘に対して、情け容赦ない攻撃を繰り出したウェンディの両親に対して、ヴァンは悔しくて奥歯を噛み締めた。
だが、ヴァンは落ち着いて二人の攻撃魔法を防ぐために魔法を発動する。
「──氷の壁よ!」
ヴァンがそう叫ぶなり、ウェンディとヴァン、二人の目の前に巨大な氷の壁が出現し、侯爵と侯爵夫妻の魔法をあっさりと防ぐ。
あっさり自分達の魔法を防がれた二人は、驚愕に目を見開いたがその間にヴァンが壁から飛び出し、一直線に侯爵へ向かって駆ける。
ヴァンは自分の長剣に魔法を付加し、ウェンディは侯爵夫人、自分の母親に向かって拘束魔法を発動する。
「──蔦よ、縛れ!!」
「侯爵! 大人しく倒れてください!」
ウェンディとヴァン、二人の声が鍛錬場に響き、ウェンディの魔法は侯爵夫人に向かって物凄い速度で進む。
そして、雷魔法を付加したヴァンの長剣が侯爵の腕を斬り裂く。
「──ふぐうぅっ!」
「──ぐぁっ!」
ウェンディの蔦の魔法は、侯爵夫人をあっという間に捉え、体の自由を奪い、声を出せないよう、鼻を残して顔まで蔦が覆う。
そして、ヴァンに腕を斬り付けられた侯爵は、雷魔法に感電し、全身を痙攣させながら床に倒れ伏す。
あまりにも、鮮やかに。
そして圧倒的に一瞬で勝負が着いてしまった事に、侯爵も侯爵夫人も信じられない様子で硬直した。
ビリビリと体中を走る雷の刺激に奥歯を噛んで耐えつつ、侯爵は唖然と離れた場所に立っているウェンディを見上げる。
どうして、ここまで力の差が──。
侯爵は信じられないと言うようにウェンディを凝視した。
すると、ウェンディの背後からゆったりとした足取りで鍛錬場に入ってくる見慣れない男の姿を見た。
その男が、ウェンディに何かを呟き、ウェンディもヴァンもその男に礼を告げているのが見える──。
そして、その男の背後には、無様な姿で拘束されたフォスターとエルローディアの姿が見えた。
長い距離を引き摺られて来たのだろう。
フォスターも、エルローディアも、みるからにぼろぼろでみすぼらしい姿に変貌してしまっていた。
そして、その男が何か魔法を発動した──。
そこまでは分かったが、侯爵はとうとう体の痛みに耐え切る事が出来ず、そこで意識を手放した。
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