166 / 367
【五ノ章】納涼祭
第一一二話 獣たちの献身《前編》
しおりを挟む
「ねえ、ソラ……ケットシーに聞いてくれない? どうして俺を抱えて運んでるのか。なんか揺れてるなぁ、って感じて目を開けたらコレだよ? さすがに怖いよ」
『キュ、キュイ』
「分かんない? そっかぁ……」
ゆらゆらと、しかし傷口が開かないように。
全長三メートルはある二足歩行の灰色毛玉、ケットシーは両腕の肉球を駆使して、絶妙な力加減で俺の身体を掴んで運搬していた。
気絶していた間に、どうやら事件の慰労を目的とした宴会を開いていたようで、見渡す限り大勢の人でグラウンドが賑わっている。
その人混みの中をケットシーは進んでいた。
肩に小型の召喚獣を乗せ、背後には連れ立っている中型・大型の者もおり、傍から見ればブレーメンの音楽隊のような光景が広がっているのだろう。
尚、ソラにケットシーの真意を尋ねてもらっても分からないし、すれ違う周囲からは当然、奇異の視線を向けられている。俺だって分からない事だらけで怖いのに……。
「というかケットシーが救護所に来て、シルフィ先生やオルレスさんが連れ出すのを止めずに容認してるって事は何かしら意図があるからだよね……何するつもりなんだろう?」
『キュイッ』
「知らない? そっかぁ……」
居心地の悪さを召喚したソラと会話して誤魔化していたら、ケットシーが足を止めた。
顔を上げれば、そこは“触れ合い体験広場”。先行した召喚獣が器用に柵を開き、両手の塞がったケットシーでも中に入れるようにしてくれた。
依然として下ろされる気配は無く、かと言って抵抗したところで抜け出せる訳もなく、のっしのっしと広場を進む。
広場内部に散見していた召喚獣も足音を耳にして集まり、大軍団となって行進していく。
そうして中央に到達した辺りで再びケットシーの動きが止まり、労わるようにゆっくりと身体を下ろされた。
うーむ、されるがままに連れて来られたけど、いったい何を……
「「──わあああああああっ!?」」
「──ぬおおおおおおおおおッ!?」
「へ?」
ケットシーに身体を支えられながら、近づいてくる叫び声に振り向く。
固まって群体となった召喚獣の絨毯に乗せられたレインちゃんとミュウちゃん。
二人と比べたら多少雑に引きずられながらも親方まで、俺と同じようにこの場へ連れて来られていた。
「謎の人選だなぁ……」
「お、お兄さん!」
「クロト、これはどういう状況じゃ!? いきなりこやつらが押し寄せてきて、儂らを攫ったんじゃ!」
「いや、俺もついさっきまで寝てたので、さっぱり分かんないんですよ。……えっと、イタズラとかじゃないんだよね? 何かしら理由があって、この四人を集めたってことでしょ?」
『──』
不安そうな三人に恐らく害は無いことを伝えると胸を撫で下ろし、話を聞いていたケットシーは深く頷いた。
支えていた手を放し、にゅっと腕を伸ばしてソラを指で示してから、次いで俺の首から下げていた召喚獣の笛を爪で器用に持ち上げる。
『……キュ』
その仕草を眺めていたソラが耳をピンと立たせて、気まずそうに顔を逸らした。
もしかして、ソラが笛を使って召喚獣に対して良からぬ事を仕出かしたのだろうか。俺が寝ている間にやらかしたのなら、分からないのも無理はない。
でも、怒ってる雰囲気じゃないんだよなぁ……目つきを見るに呆れているというか、なんというか。
「……原因は俺? それともソラ?」
『──』
ケットシーは深く息を吸い、一瞬だけ俺に視線を送り、後にじぃっとソラを見た。なるほど、なるほど。
……事件当時、あまりに危険だし指示が出せるか不安だったので召喚はしていない。なのにさっき召喚陣から出てきた時、ソラの魔力は十分に回復していなかった。
使い切るまで酷使させた覚えがない以上、俺の見知らぬ所で勝手に出てきて魔力切れするほど行使したのだろう……何の為に? 俺を助ける為だ。
召喚士の危機を察知して、召喚獣が自発的に行動を起こすのはよくあること。ルーザーに撃たれた後、どうにか俺を目覚めさせようと奮闘してくれたんだ。
そこで魔力を使った……治癒か回復か、ケットシーの指摘から考えるに。
「召喚獣にしか聞こえない笛を風魔法で吹かした?」
『ギュッ』
ソラから聞いた事の無い詰まった鳴き声がこぼれた。ははーん、図星か。
確かに、ソラほどの魔力量で全力の魔法を放てばニルヴァーナのどこにいようと耳に届く。
そして召喚獣は聡い上に精神的な部分において感応しやすく、思いや感情を察するのが非常に上手い。
加えて、ユキ達がプレゼントしてくれた笛。製作段階で機能するか試行した際の音を覚えている召喚獣がいたんだ。その笛が、俺に譲渡されている事を知っている者も。
意図せず複雑な経路を辿り、紆余曲折を経て、音色に乗せたソラの想いが体験広場の召喚獣たちに伝播したんだ。
……なのに、助けに行こうにも緊急の避難所である学園から召喚獣だけが出れるはずもなく。
焦らせるような合図を出されて、何も出来ず時間だけが過ぎていき、当の本人が笛の事を忘れてしまったが故に。
痺れを切らしたケットシーが様子見に来たついでに救助対象たる俺を攫った……こんな所か?
「──少々、突飛ではあるが分からんでもない。……だとしたら、なぜ儂らもここに?」
「そこなんですよねぇ……俺やソラはともかく三人は関係ないし、時間差もありますし……どういうつもりで連れてきたの?」
おおよその考えを親方たちに伝えれば、当然の疑問が返ってきた。
正直、考えても分からないのでケットシーに聞いてみると、おもむろにレインちゃんとミュウちゃんへ手を伸ばした。
より正確には、首から下げている虹尾羽のペンダントに。
「えっと、これが欲しいの?」
「だ、ダメだよ。これはお兄さんがくれた大切な物だから……」
『──』
困惑している二人の内、レインちゃんがペンダントを持ち上げ、ケットシーに問いかけるが首を横に振る。
しかし仕草とは裏腹にケットシーの手はそのまま近づいていき──爪先が触れた瞬間、ペンダントから虹色の炎が溢れ出た。
『!?』
突然の出来事に、その光景を見ていた全員の肩が跳ねる。
虹色の炎は意思を持つかのように空間を泳ぎ、人魂のような形に留まってケットシーの手の平に収まった。
炎といっても熱は無いようで、間近にいたレインちゃんたちは目を丸くするだけで火傷はしていないようだが……なにその摩訶不思議な現象? ペンダントにそんな能力を付けた覚えは無いぞ!?
『ブルルッ』
呆然と虹色の炎を見上げていると風が吹き、視界の端から白馬が入り込んできた。
特徴的な赤目に風属性の魔素で変色した蹄、螺旋状の筋が入った金色の角を持つ召喚獣、ユニコーン。
持ち前の荒い気性と過去の経験から極度の人間嫌いであり、保護施設から一歩も出ず、体験広場にも参加していなかったはずだ。
いつの間に、どうやってここに──足先から全身に風を纏ってる?
……ユニコーンが現れたら騒ぎが起こってもおかしくないのに周りは静かだ。人の目に付かない方法で、ピンポイントにこの場へ姿を見せた。足音も気配も無く突然……まさかコイツ、跳んできたのか跳んできたのか?
ソラが風の魔法で普段から飛んでいるし《風陣》の例があるから、魔法が得意な召喚獣が空中移動の技術を確立していても不思議じゃあない。
前に、保護施設の一画を借りて《風陣》の練習をしていた事もある。そこから着想を得た可能性も捨てきれないが……なぜ今になってそれを使い、なおかつここへやってきたのかが一切わからん!
『──』
『ブルゥ』
『キュ、キュキュ。キュイ!』
『……ブルルッ!』
『キュイー……!』
目が覚めてから怒涛の展開が続き過ぎて右往左往してる間に、意思疎通が出来る召喚獣同士で何やら会話を交わしていた。
ケットシーやユニコーンのジトッとした眼差しを向けられ、焦りながらもソラは必死に説明しているらしく。
渋々納得したのか、大げさに身体を揺らしたユニコーンを見てほっと胸を撫で下ろす。身振り手振りを交えたそれは小芝居を観賞している気分になった。
「なんのお話をしてるんだろう?」
「わかんない。けど、クロトお兄さんがエリックさん達によく向けられてる目と同じ感じがするから……」
「ああ、ソラに呆れておるんじゃな」
「割と言われる機会が多いんですけど、俺っていつもそんな印象を持たれてるんですか?」
ほんわかとした穏やかな心持ちで眺めていたら、いきなり言葉のナイフで刺された。
しかし妙だな……体験広場の召喚獣やケットシーならいざ知らず、ユニコーンは丸っきり無関係だ。
多少は笛の音に感化されたのかもしれないが、だとしても自ら行動する程のものか? 人間嫌いなのに?
状況に流されつつも整理の為、思考の海に入ろうとした時。
ケットシーが持っていた虹色の炎が大きく揺らぎ、風に乗ってユニコーンの角に収束していく。
押し付けるでもなく、まるでそれが当然かのように。
焔を纏った角は煌々と光を放ち、壮麗なユニコーンの容姿を照らし出す。
「おおー、綺麗だねぇ……」
「呑気じゃのう、お主。未だにこやつらが何をしたいのか分からんというのに」
「でも召喚獣の考えてる事ですから、悪さをしようとかそういう訳ではないと……ん?」
幻想的な光景に見惚れていたら、ケットシーが俺の身体をがっしりと掴んだ。
身動ぎできないほどの強さで固定され、疑問を投げかけるよりも早く、ユニコーンがこちらを見据えている事に気づく。
同時に、虹を纏う金色の角の穂先が向けられている事にも。
……全身の肌がざわつく。猛烈に、嫌な予感がする。
「ちょっと待って? ユニコーン、落ち着こう? やろうとしてる事はなんとなく理解できるよ。でも言葉で意思の疎通が出来ないから明確に何が起きるか、結果がどうなるか分からないんだよ」
『ブルッ!』
「えっ、何? 覚悟を決めろって? いやいやいや、そんな常在戦場の心得なんて無いから。痛いのも苦しいのも怖いのも嫌だから帰らせてお願い帰してこの手を放せケットシーッ!」
逃げようにも肉球の拘束は解かれない。助けを求めてレインちゃん達に目線を送るが、ユニコーンに睨まれ委縮してしまった。
子ども二人はともかく親方ぁ! 普段の剛毅な性格はどこに置いてきたんですか! 弟子の命が危ういんですよ! 顎に手を当てて見てる場合じゃないでしょ!
ならば後はソラに頼るしか……アイツ、尻尾で顔を隠してやがる……ご主人の危機だぞ! 助けてぇ!
『ブルルッ!』
「なんで距離を取ったの? 助走つけて貫く気満々だよね? ケットシーごと一刺しで葬り去ろうとしてない?」
『──』
「なんで拘束の力を強めたのケットシー? もしかして召喚獣にしか伝わらない友情コンボでトドメ刺そうとしてる?」
賢明な抵抗は空しく、静止の声も届かず。
残像を残すほど力強く踏み込んだユニコーンが、角を深々と脇腹に突き刺した!
「げぼぁーッ!?」
「「お、お兄さーん!?」」
『キュ、キュイ』
「分かんない? そっかぁ……」
ゆらゆらと、しかし傷口が開かないように。
全長三メートルはある二足歩行の灰色毛玉、ケットシーは両腕の肉球を駆使して、絶妙な力加減で俺の身体を掴んで運搬していた。
気絶していた間に、どうやら事件の慰労を目的とした宴会を開いていたようで、見渡す限り大勢の人でグラウンドが賑わっている。
その人混みの中をケットシーは進んでいた。
肩に小型の召喚獣を乗せ、背後には連れ立っている中型・大型の者もおり、傍から見ればブレーメンの音楽隊のような光景が広がっているのだろう。
尚、ソラにケットシーの真意を尋ねてもらっても分からないし、すれ違う周囲からは当然、奇異の視線を向けられている。俺だって分からない事だらけで怖いのに……。
「というかケットシーが救護所に来て、シルフィ先生やオルレスさんが連れ出すのを止めずに容認してるって事は何かしら意図があるからだよね……何するつもりなんだろう?」
『キュイッ』
「知らない? そっかぁ……」
居心地の悪さを召喚したソラと会話して誤魔化していたら、ケットシーが足を止めた。
顔を上げれば、そこは“触れ合い体験広場”。先行した召喚獣が器用に柵を開き、両手の塞がったケットシーでも中に入れるようにしてくれた。
依然として下ろされる気配は無く、かと言って抵抗したところで抜け出せる訳もなく、のっしのっしと広場を進む。
広場内部に散見していた召喚獣も足音を耳にして集まり、大軍団となって行進していく。
そうして中央に到達した辺りで再びケットシーの動きが止まり、労わるようにゆっくりと身体を下ろされた。
うーむ、されるがままに連れて来られたけど、いったい何を……
「「──わあああああああっ!?」」
「──ぬおおおおおおおおおッ!?」
「へ?」
ケットシーに身体を支えられながら、近づいてくる叫び声に振り向く。
固まって群体となった召喚獣の絨毯に乗せられたレインちゃんとミュウちゃん。
二人と比べたら多少雑に引きずられながらも親方まで、俺と同じようにこの場へ連れて来られていた。
「謎の人選だなぁ……」
「お、お兄さん!」
「クロト、これはどういう状況じゃ!? いきなりこやつらが押し寄せてきて、儂らを攫ったんじゃ!」
「いや、俺もついさっきまで寝てたので、さっぱり分かんないんですよ。……えっと、イタズラとかじゃないんだよね? 何かしら理由があって、この四人を集めたってことでしょ?」
『──』
不安そうな三人に恐らく害は無いことを伝えると胸を撫で下ろし、話を聞いていたケットシーは深く頷いた。
支えていた手を放し、にゅっと腕を伸ばしてソラを指で示してから、次いで俺の首から下げていた召喚獣の笛を爪で器用に持ち上げる。
『……キュ』
その仕草を眺めていたソラが耳をピンと立たせて、気まずそうに顔を逸らした。
もしかして、ソラが笛を使って召喚獣に対して良からぬ事を仕出かしたのだろうか。俺が寝ている間にやらかしたのなら、分からないのも無理はない。
でも、怒ってる雰囲気じゃないんだよなぁ……目つきを見るに呆れているというか、なんというか。
「……原因は俺? それともソラ?」
『──』
ケットシーは深く息を吸い、一瞬だけ俺に視線を送り、後にじぃっとソラを見た。なるほど、なるほど。
……事件当時、あまりに危険だし指示が出せるか不安だったので召喚はしていない。なのにさっき召喚陣から出てきた時、ソラの魔力は十分に回復していなかった。
使い切るまで酷使させた覚えがない以上、俺の見知らぬ所で勝手に出てきて魔力切れするほど行使したのだろう……何の為に? 俺を助ける為だ。
召喚士の危機を察知して、召喚獣が自発的に行動を起こすのはよくあること。ルーザーに撃たれた後、どうにか俺を目覚めさせようと奮闘してくれたんだ。
そこで魔力を使った……治癒か回復か、ケットシーの指摘から考えるに。
「召喚獣にしか聞こえない笛を風魔法で吹かした?」
『ギュッ』
ソラから聞いた事の無い詰まった鳴き声がこぼれた。ははーん、図星か。
確かに、ソラほどの魔力量で全力の魔法を放てばニルヴァーナのどこにいようと耳に届く。
そして召喚獣は聡い上に精神的な部分において感応しやすく、思いや感情を察するのが非常に上手い。
加えて、ユキ達がプレゼントしてくれた笛。製作段階で機能するか試行した際の音を覚えている召喚獣がいたんだ。その笛が、俺に譲渡されている事を知っている者も。
意図せず複雑な経路を辿り、紆余曲折を経て、音色に乗せたソラの想いが体験広場の召喚獣たちに伝播したんだ。
……なのに、助けに行こうにも緊急の避難所である学園から召喚獣だけが出れるはずもなく。
焦らせるような合図を出されて、何も出来ず時間だけが過ぎていき、当の本人が笛の事を忘れてしまったが故に。
痺れを切らしたケットシーが様子見に来たついでに救助対象たる俺を攫った……こんな所か?
「──少々、突飛ではあるが分からんでもない。……だとしたら、なぜ儂らもここに?」
「そこなんですよねぇ……俺やソラはともかく三人は関係ないし、時間差もありますし……どういうつもりで連れてきたの?」
おおよその考えを親方たちに伝えれば、当然の疑問が返ってきた。
正直、考えても分からないのでケットシーに聞いてみると、おもむろにレインちゃんとミュウちゃんへ手を伸ばした。
より正確には、首から下げている虹尾羽のペンダントに。
「えっと、これが欲しいの?」
「だ、ダメだよ。これはお兄さんがくれた大切な物だから……」
『──』
困惑している二人の内、レインちゃんがペンダントを持ち上げ、ケットシーに問いかけるが首を横に振る。
しかし仕草とは裏腹にケットシーの手はそのまま近づいていき──爪先が触れた瞬間、ペンダントから虹色の炎が溢れ出た。
『!?』
突然の出来事に、その光景を見ていた全員の肩が跳ねる。
虹色の炎は意思を持つかのように空間を泳ぎ、人魂のような形に留まってケットシーの手の平に収まった。
炎といっても熱は無いようで、間近にいたレインちゃんたちは目を丸くするだけで火傷はしていないようだが……なにその摩訶不思議な現象? ペンダントにそんな能力を付けた覚えは無いぞ!?
『ブルルッ』
呆然と虹色の炎を見上げていると風が吹き、視界の端から白馬が入り込んできた。
特徴的な赤目に風属性の魔素で変色した蹄、螺旋状の筋が入った金色の角を持つ召喚獣、ユニコーン。
持ち前の荒い気性と過去の経験から極度の人間嫌いであり、保護施設から一歩も出ず、体験広場にも参加していなかったはずだ。
いつの間に、どうやってここに──足先から全身に風を纏ってる?
……ユニコーンが現れたら騒ぎが起こってもおかしくないのに周りは静かだ。人の目に付かない方法で、ピンポイントにこの場へ姿を見せた。足音も気配も無く突然……まさかコイツ、跳んできたのか跳んできたのか?
ソラが風の魔法で普段から飛んでいるし《風陣》の例があるから、魔法が得意な召喚獣が空中移動の技術を確立していても不思議じゃあない。
前に、保護施設の一画を借りて《風陣》の練習をしていた事もある。そこから着想を得た可能性も捨てきれないが……なぜ今になってそれを使い、なおかつここへやってきたのかが一切わからん!
『──』
『ブルゥ』
『キュ、キュキュ。キュイ!』
『……ブルルッ!』
『キュイー……!』
目が覚めてから怒涛の展開が続き過ぎて右往左往してる間に、意思疎通が出来る召喚獣同士で何やら会話を交わしていた。
ケットシーやユニコーンのジトッとした眼差しを向けられ、焦りながらもソラは必死に説明しているらしく。
渋々納得したのか、大げさに身体を揺らしたユニコーンを見てほっと胸を撫で下ろす。身振り手振りを交えたそれは小芝居を観賞している気分になった。
「なんのお話をしてるんだろう?」
「わかんない。けど、クロトお兄さんがエリックさん達によく向けられてる目と同じ感じがするから……」
「ああ、ソラに呆れておるんじゃな」
「割と言われる機会が多いんですけど、俺っていつもそんな印象を持たれてるんですか?」
ほんわかとした穏やかな心持ちで眺めていたら、いきなり言葉のナイフで刺された。
しかし妙だな……体験広場の召喚獣やケットシーならいざ知らず、ユニコーンは丸っきり無関係だ。
多少は笛の音に感化されたのかもしれないが、だとしても自ら行動する程のものか? 人間嫌いなのに?
状況に流されつつも整理の為、思考の海に入ろうとした時。
ケットシーが持っていた虹色の炎が大きく揺らぎ、風に乗ってユニコーンの角に収束していく。
押し付けるでもなく、まるでそれが当然かのように。
焔を纏った角は煌々と光を放ち、壮麗なユニコーンの容姿を照らし出す。
「おおー、綺麗だねぇ……」
「呑気じゃのう、お主。未だにこやつらが何をしたいのか分からんというのに」
「でも召喚獣の考えてる事ですから、悪さをしようとかそういう訳ではないと……ん?」
幻想的な光景に見惚れていたら、ケットシーが俺の身体をがっしりと掴んだ。
身動ぎできないほどの強さで固定され、疑問を投げかけるよりも早く、ユニコーンがこちらを見据えている事に気づく。
同時に、虹を纏う金色の角の穂先が向けられている事にも。
……全身の肌がざわつく。猛烈に、嫌な予感がする。
「ちょっと待って? ユニコーン、落ち着こう? やろうとしてる事はなんとなく理解できるよ。でも言葉で意思の疎通が出来ないから明確に何が起きるか、結果がどうなるか分からないんだよ」
『ブルッ!』
「えっ、何? 覚悟を決めろって? いやいやいや、そんな常在戦場の心得なんて無いから。痛いのも苦しいのも怖いのも嫌だから帰らせてお願い帰してこの手を放せケットシーッ!」
逃げようにも肉球の拘束は解かれない。助けを求めてレインちゃん達に目線を送るが、ユニコーンに睨まれ委縮してしまった。
子ども二人はともかく親方ぁ! 普段の剛毅な性格はどこに置いてきたんですか! 弟子の命が危ういんですよ! 顎に手を当てて見てる場合じゃないでしょ!
ならば後はソラに頼るしか……アイツ、尻尾で顔を隠してやがる……ご主人の危機だぞ! 助けてぇ!
『ブルルッ!』
「なんで距離を取ったの? 助走つけて貫く気満々だよね? ケットシーごと一刺しで葬り去ろうとしてない?」
『──』
「なんで拘束の力を強めたのケットシー? もしかして召喚獣にしか伝わらない友情コンボでトドメ刺そうとしてる?」
賢明な抵抗は空しく、静止の声も届かず。
残像を残すほど力強く踏み込んだユニコーンが、角を深々と脇腹に突き刺した!
「げぼぁーッ!?」
「「お、お兄さーん!?」」
10
あなたにおすすめの小説
ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。
選んだ職業は“料理人”。
だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。
地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。
勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。
熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。
絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す!
そこから始まる、料理人の大逆転。
ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。
リアルでは無職、ゲームでは負け組。
そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。
ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
クラスの陰キャボッチは現代最強の陰陽師!?~長らく継承者のいなかった神器を継承出来た僕はお姉ちゃんを治すために陰陽師界の頂点を目指していたら
リヒト
ファンタジー
現代日本。人々が平和な日常を享受するその世界の裏側では、常に陰陽師と人類の敵である妖魔による激しい戦いが繰り広げられていた。
そんな世界において、クラスで友達のいない冴えない陰キャの少年である有馬優斗は、その陰陽師としての絶大な才能を持っていた。陰陽師としてのセンスはもちろん。特別な神具を振るう適性まであり、彼は現代最強の陰陽師に成れるだけの才能を有していた。
その少年が願うのはただ一つ。病気で寝たきりのお姉ちゃんを回復させること。
お姉ちゃんを病気から救うのに必要なのは陰陽師の中でも本当にトップにならなくては扱えない特別な道具を使うこと。
ならば、有馬優斗は望む。己が最強になることを。
お姉ちゃんの為に最強を目指す有馬優斗の周りには気づけば、何故か各名門の陰陽師家のご令嬢の姿があって……っ!?
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる