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第1章
護衛と懸賞金
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宿泊手続きを終え部屋に入ると、ヴィオラはそのままベッドに倒れ込んだ。肉体的にはもちろん精神的にもくたくたで、このまま眠ってしまえればどんなに楽だろう。
(でもその前に色々と整理しないと……)
ベッドに寝ころんだまま少しだけ頭の中を整理してから、鞄の中からぬいぐるみを取り出し抱きしめる。
「ヴィー、勝手に決めちゃってごめんね。レイさんが本当に信用できる人かはまだ分からないけど、私たちだけでルストールを目指すのは難しいと思うの」
『……私は大丈夫だよ。ヴィオを護ってくれる人なら、怖くない』
気丈に振舞っているものの僅かに声が暗いのは無理もない。正確な年齢は知らないが、レイは恐らく30代半ばぐらいの年齢だろう。父親と同年代の男性に対してヴィーは恐怖を感じてしまうのだ。
レイと父親は見た目も雰囲気も全く違うが、それでもヴィーが心を閉ざしてしまう原因となった大人の男性には反射的に拒否反応を示してしまう。
父親と違って、出会ってからずっとレイはヴィオラに優しく、子供の相手にも慣れているようだったし、気遣いも完璧だ。宿泊についても一人だと馬車と同じような対応をされる可能性があるからと、レイは手頃な宿を探し、一緒に手続きをしてくれた。
今日から早速護衛の役割を担ってくれるそうだが、流石に隣だと落ち着かないだろうからと斜め前の部屋を取ってくれるという配慮ぶりには感心してしまったほどだ。
(親切な人を疑うような真似はしたくないけど)
ヴィオラは備え付けのカップに調合した薬と水を入れると、緊急時に鳴らすようにとレイから渡された細い筒状の笛をその中に放り込む。笛とはいえ口に含むものだから毒物などの細工がないか確認するためだ。
五分ほどして取り出しても水や笛に変色はないことに、安堵とともに罪悪感が湧く。
それでもヴィーの身体を危険に晒すわけにはいかない。必要なことなのだと自分に言い聞かせて、ヴィオラは身体を清めると早々にベッドに潜り込んだのだった。
一旦部屋に入り、それからレイは音を立てないようそっと宿を抜け出した。護衛対象を一人にするのは危険だが、後ろ暗い連中は動くのはもっと夜が更けてからだ。
ギルド自体は大きな街にしかなくても、ギルドの情報はどんな街にも届けられ町の掲示板に張り出される。ヴィオの話を聞いてから、ずっと確かめたいことがあった。
先ほどの酒場よりも一回り大きな酒場にレイの求めている情報が掲示されていた。
一つはとある貴族の屋敷で盗みを働いた下働きの少女の身柄を求める懸賞金付きの依頼、もう一つは探し物に見せかけた特定の人物に向けられたメッセージだ。
『エスリャの自然に囲まれたヴェイラ湖に沈む宝玉の行方を求む』
自分に宛てられたものでなかったが、レイにはそこに込められたメッセージを読み解くことができた。半ば予想していたが、いざ的中するとなると複雑な気分だ。
(巡り合わせというのはこういうことを言うのだろうな)
感慨深いような妙に納得した気持ちを覚えつつ、何食わぬ顔をして酒場を後にした。
宿に戻ると、扉越しに少女の安否を確認する。宿の外からも確認していたが異常は見当たらなかったため、そのまま自分の部屋へと引っ込んだ。
「さて、どうしたものか」
急ぎの仕事もなく、久し振りに故郷に戻るつもりだった。多少寄り道しても問題はなく半ば善意で申し出たことだったが、このままヴィオをルストールに送り届けるのが最善とは限らない。
ヴィオはしばらく身を潜めれば大丈夫だと思っているようだが、見込みが甘すぎる。
盗みを働いた娘の特徴はヴィオと一致しており、そこに懸けられた懸賞金は金貨60枚。たった一人の少女を捕まえるにしては高額すぎる懸賞金に、ランクの低い冒険者たちは目の色を変えて少女を探そうとするだろう。
さらに素行の良くない輩が、少女が盗んだ品をも狙う可能性だってある。行方不明者ではなく罪を犯した者に対しては多少の危害を加えても良いと考える者は少なくない。
ヴィオの瞳が平民にしては珍しい鮮やかな若緑色というのもよくなかった。髪色なら誤魔化せるが、瞳の色を変えるのは難しい。
(随分と狡猾な手を使う)
罪人の疑いがあるとなれば冒険者以外に自警団なども動くだろう。ヴィオの話と態度から彼女が無実だと確信しているものの、疑いを晴らす証拠がなければ治安維持のために捕まえるのが彼らの仕事だ。
公的な機関に属する彼らと事を構えるのは得策ではないが、疑いを晴らすために出頭しても安全だとは限らない。あらゆる手段を用いてもヴィオを捕らえようとする相手からは、何かしらの悪意を感じられる。身動きが取れなくなるのは悪手だろう。
取り敢えずは馬車での移動は避けて、明日も早めに出立したほうがよさそうだ。
そんなことをつらつらと考えていると、不穏な気配が近づいてくる。
「何はともあれ護り抜かないとな」
気丈に振舞っていた少女がせめて今夜だけは静かに眠れるようにと、レイは静かに立ち上がり不審者の排除に向かったのだった。
(でもその前に色々と整理しないと……)
ベッドに寝ころんだまま少しだけ頭の中を整理してから、鞄の中からぬいぐるみを取り出し抱きしめる。
「ヴィー、勝手に決めちゃってごめんね。レイさんが本当に信用できる人かはまだ分からないけど、私たちだけでルストールを目指すのは難しいと思うの」
『……私は大丈夫だよ。ヴィオを護ってくれる人なら、怖くない』
気丈に振舞っているものの僅かに声が暗いのは無理もない。正確な年齢は知らないが、レイは恐らく30代半ばぐらいの年齢だろう。父親と同年代の男性に対してヴィーは恐怖を感じてしまうのだ。
レイと父親は見た目も雰囲気も全く違うが、それでもヴィーが心を閉ざしてしまう原因となった大人の男性には反射的に拒否反応を示してしまう。
父親と違って、出会ってからずっとレイはヴィオラに優しく、子供の相手にも慣れているようだったし、気遣いも完璧だ。宿泊についても一人だと馬車と同じような対応をされる可能性があるからと、レイは手頃な宿を探し、一緒に手続きをしてくれた。
今日から早速護衛の役割を担ってくれるそうだが、流石に隣だと落ち着かないだろうからと斜め前の部屋を取ってくれるという配慮ぶりには感心してしまったほどだ。
(親切な人を疑うような真似はしたくないけど)
ヴィオラは備え付けのカップに調合した薬と水を入れると、緊急時に鳴らすようにとレイから渡された細い筒状の笛をその中に放り込む。笛とはいえ口に含むものだから毒物などの細工がないか確認するためだ。
五分ほどして取り出しても水や笛に変色はないことに、安堵とともに罪悪感が湧く。
それでもヴィーの身体を危険に晒すわけにはいかない。必要なことなのだと自分に言い聞かせて、ヴィオラは身体を清めると早々にベッドに潜り込んだのだった。
一旦部屋に入り、それからレイは音を立てないようそっと宿を抜け出した。護衛対象を一人にするのは危険だが、後ろ暗い連中は動くのはもっと夜が更けてからだ。
ギルド自体は大きな街にしかなくても、ギルドの情報はどんな街にも届けられ町の掲示板に張り出される。ヴィオの話を聞いてから、ずっと確かめたいことがあった。
先ほどの酒場よりも一回り大きな酒場にレイの求めている情報が掲示されていた。
一つはとある貴族の屋敷で盗みを働いた下働きの少女の身柄を求める懸賞金付きの依頼、もう一つは探し物に見せかけた特定の人物に向けられたメッセージだ。
『エスリャの自然に囲まれたヴェイラ湖に沈む宝玉の行方を求む』
自分に宛てられたものでなかったが、レイにはそこに込められたメッセージを読み解くことができた。半ば予想していたが、いざ的中するとなると複雑な気分だ。
(巡り合わせというのはこういうことを言うのだろうな)
感慨深いような妙に納得した気持ちを覚えつつ、何食わぬ顔をして酒場を後にした。
宿に戻ると、扉越しに少女の安否を確認する。宿の外からも確認していたが異常は見当たらなかったため、そのまま自分の部屋へと引っ込んだ。
「さて、どうしたものか」
急ぎの仕事もなく、久し振りに故郷に戻るつもりだった。多少寄り道しても問題はなく半ば善意で申し出たことだったが、このままヴィオをルストールに送り届けるのが最善とは限らない。
ヴィオはしばらく身を潜めれば大丈夫だと思っているようだが、見込みが甘すぎる。
盗みを働いた娘の特徴はヴィオと一致しており、そこに懸けられた懸賞金は金貨60枚。たった一人の少女を捕まえるにしては高額すぎる懸賞金に、ランクの低い冒険者たちは目の色を変えて少女を探そうとするだろう。
さらに素行の良くない輩が、少女が盗んだ品をも狙う可能性だってある。行方不明者ではなく罪を犯した者に対しては多少の危害を加えても良いと考える者は少なくない。
ヴィオの瞳が平民にしては珍しい鮮やかな若緑色というのもよくなかった。髪色なら誤魔化せるが、瞳の色を変えるのは難しい。
(随分と狡猾な手を使う)
罪人の疑いがあるとなれば冒険者以外に自警団なども動くだろう。ヴィオの話と態度から彼女が無実だと確信しているものの、疑いを晴らす証拠がなければ治安維持のために捕まえるのが彼らの仕事だ。
公的な機関に属する彼らと事を構えるのは得策ではないが、疑いを晴らすために出頭しても安全だとは限らない。あらゆる手段を用いてもヴィオを捕らえようとする相手からは、何かしらの悪意を感じられる。身動きが取れなくなるのは悪手だろう。
取り敢えずは馬車での移動は避けて、明日も早めに出立したほうがよさそうだ。
そんなことをつらつらと考えていると、不穏な気配が近づいてくる。
「何はともあれ護り抜かないとな」
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