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第1章
意外な訪問者
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「ヴィオ」
少し幼くて柔らかいヴィーの声。やっぱりいたのだと安堵するとともにこれが最後のお別れなのだと思うと胸が詰まる。
伝えたいことはたくさんあるのに、身体が動かず目を開くことも出来ない。
ヴィーに身体を返してこの世界から消えると決めたから、自由に動かせないのだろうか。
「ヴィオ、ずっと大好きよ。もう少しだから」
ヴィーが微笑んでいる気配がするのに、その言葉はどこか不穏な響きがあった。まるで終わりを感じさせるような儚さに背筋がぞくりとする。
(ヴィー、何がもう少しなの?みんなが貴女を待っているわ)
心の中で必死に伝えたのに、天井に向かって手を伸ばした自分の腕が目に入った。
もう目覚めることはないと思っていたヴィオラの瞳から涙が溢れた。
嫌な予感に朝食を断って部屋に閉じこもる。レイには昨晩食べすぎてしまったからと誤魔化したが、ゆっくり休むようにと言われてしまった。あまり顔色が良くないのだろう。
別れを告げるようなヴィーの言葉に、取り繕えないほどに動揺している自分がいる。
「ヴィー、どうして?私、ヴィーを犠牲にしてまで生きたいなんて思わないわ」
話しかければすぐに返ってきた声がどうして聞こえないのだろう。ずっと側にいたのに、私はヴィーを理解していなかったのだろうか。
コンコンと軽いノックの音にじわりと滲んだ涙を乱暴に拭って扉に近づくと、レイの声が聞こえた。
「ヴィオ、俺だ」
扉を開くと、レイは珍しくどこか困惑したような表情を浮かべている。
「ミラという少女がギルドを訪ねてきたんだ。ヴィオの妹だと名乗っているんだが、心当たりはあるか?」
「……ミラは、私の妹だわ。でも……どうして」
ヴィオラが突然いなくなったとしても、家族が探しにくることなどないと思っていた。それに昨日到着したばかりなのにヴィオラがギルドにいることをどうやって知ったのだろう。
不自然過ぎる訪問だが、本物のミラだったとしたら会わずに追い返すわけにもいかない。
「会うなら俺も同席してもいいか?流石にこのタイミングはちょっとな」
不安はあるが、レイの言葉に頷いてヴィオラはミラが待つ部屋へと向かった。
「お姉ちゃん!」
ぱっと花が咲くような笑顔に、本物の妹だと実感する。会うのは本当に久しぶりだが、快活で物怖じしない態度は相変わらずだ。無邪気で愛らしいミラは村の人気者として誰からも可愛がられている。
だがそんな笑顔もすぐに一転し、ヴィオラと一緒にいるレイに顔を向けると申し訳なさそう表情で頭を下げた。
「あの、姉がご迷惑を掛けてすみません!お姉ちゃんも、もういい加減に子供みたいな真似は止めてよね」
「……どういうこと?そもそもどうしてミラがここにいるの?」
大きな溜息を吐いてヴィオラを見るミラの眼差しには軽蔑の色が混じっている。何も悪いことはしていないのに、居心地が悪い。両親の態度や村の人々の噂話のせいで、関わりを避けているもののミラはヴィオラを意地悪な姉だと思い込んでいる。
ミラが悪いわけではないと思いながらも、責めるような眼差しを見るのは辛くてつい目を逸らしてしまうのが悪かったのだろう。
「私が来たら嘘がバレちゃうもんね。姉には虚言癖があるので信用しないほうがいいですよ」
高らかに告げるミラの言葉に身体が強張った。背後に立つレイがどんな表情をしているのか怖くて振り向けない。
レイにだけは誤解されたくないと思うのに、どうやった上手く伝わるのだろうかと言葉が形にならず崩れていく。
「それに自分よりも大切にされる妹に嫉妬して、赤ちゃんだった私を殺そうとしたことがあるんです。それでも家族だから見捨てることが出来なくて」
「ゃ……違っ」
「もういい、それ以上喋るな」
平坦な声に息が止まりそうになった。被せられるように告げられた言葉は、冷静に考えればミラに向けられた言葉だと分かる。
だがその時のヴィオラの脳裏には嫌悪の表情を浮かべるレイの姿がありありと浮かんでいた。
怖くて苦しくて、ヴィオラは堪らなくなって部屋から逃げ出した。
「ヴィオ、待て!」
制止するレイを振り切って無我夢中で足を動かす。レイから失望の言葉なんて聞きたくなかった。
ただ遠くに行かなければということしか考えられず、命を狙われていることすらヴィオラの頭から抜け落ちていた。
少し幼くて柔らかいヴィーの声。やっぱりいたのだと安堵するとともにこれが最後のお別れなのだと思うと胸が詰まる。
伝えたいことはたくさんあるのに、身体が動かず目を開くことも出来ない。
ヴィーに身体を返してこの世界から消えると決めたから、自由に動かせないのだろうか。
「ヴィオ、ずっと大好きよ。もう少しだから」
ヴィーが微笑んでいる気配がするのに、その言葉はどこか不穏な響きがあった。まるで終わりを感じさせるような儚さに背筋がぞくりとする。
(ヴィー、何がもう少しなの?みんなが貴女を待っているわ)
心の中で必死に伝えたのに、天井に向かって手を伸ばした自分の腕が目に入った。
もう目覚めることはないと思っていたヴィオラの瞳から涙が溢れた。
嫌な予感に朝食を断って部屋に閉じこもる。レイには昨晩食べすぎてしまったからと誤魔化したが、ゆっくり休むようにと言われてしまった。あまり顔色が良くないのだろう。
別れを告げるようなヴィーの言葉に、取り繕えないほどに動揺している自分がいる。
「ヴィー、どうして?私、ヴィーを犠牲にしてまで生きたいなんて思わないわ」
話しかければすぐに返ってきた声がどうして聞こえないのだろう。ずっと側にいたのに、私はヴィーを理解していなかったのだろうか。
コンコンと軽いノックの音にじわりと滲んだ涙を乱暴に拭って扉に近づくと、レイの声が聞こえた。
「ヴィオ、俺だ」
扉を開くと、レイは珍しくどこか困惑したような表情を浮かべている。
「ミラという少女がギルドを訪ねてきたんだ。ヴィオの妹だと名乗っているんだが、心当たりはあるか?」
「……ミラは、私の妹だわ。でも……どうして」
ヴィオラが突然いなくなったとしても、家族が探しにくることなどないと思っていた。それに昨日到着したばかりなのにヴィオラがギルドにいることをどうやって知ったのだろう。
不自然過ぎる訪問だが、本物のミラだったとしたら会わずに追い返すわけにもいかない。
「会うなら俺も同席してもいいか?流石にこのタイミングはちょっとな」
不安はあるが、レイの言葉に頷いてヴィオラはミラが待つ部屋へと向かった。
「お姉ちゃん!」
ぱっと花が咲くような笑顔に、本物の妹だと実感する。会うのは本当に久しぶりだが、快活で物怖じしない態度は相変わらずだ。無邪気で愛らしいミラは村の人気者として誰からも可愛がられている。
だがそんな笑顔もすぐに一転し、ヴィオラと一緒にいるレイに顔を向けると申し訳なさそう表情で頭を下げた。
「あの、姉がご迷惑を掛けてすみません!お姉ちゃんも、もういい加減に子供みたいな真似は止めてよね」
「……どういうこと?そもそもどうしてミラがここにいるの?」
大きな溜息を吐いてヴィオラを見るミラの眼差しには軽蔑の色が混じっている。何も悪いことはしていないのに、居心地が悪い。両親の態度や村の人々の噂話のせいで、関わりを避けているもののミラはヴィオラを意地悪な姉だと思い込んでいる。
ミラが悪いわけではないと思いながらも、責めるような眼差しを見るのは辛くてつい目を逸らしてしまうのが悪かったのだろう。
「私が来たら嘘がバレちゃうもんね。姉には虚言癖があるので信用しないほうがいいですよ」
高らかに告げるミラの言葉に身体が強張った。背後に立つレイがどんな表情をしているのか怖くて振り向けない。
レイにだけは誤解されたくないと思うのに、どうやった上手く伝わるのだろうかと言葉が形にならず崩れていく。
「それに自分よりも大切にされる妹に嫉妬して、赤ちゃんだった私を殺そうとしたことがあるんです。それでも家族だから見捨てることが出来なくて」
「ゃ……違っ」
「もういい、それ以上喋るな」
平坦な声に息が止まりそうになった。被せられるように告げられた言葉は、冷静に考えればミラに向けられた言葉だと分かる。
だがその時のヴィオラの脳裏には嫌悪の表情を浮かべるレイの姿がありありと浮かんでいた。
怖くて苦しくて、ヴィオラは堪らなくなって部屋から逃げ出した。
「ヴィオ、待て!」
制止するレイを振り切って無我夢中で足を動かす。レイから失望の言葉なんて聞きたくなかった。
ただ遠くに行かなければということしか考えられず、命を狙われていることすらヴィオラの頭から抜け落ちていた。
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