引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景

文字の大きさ
13 / 56

新しい教師

しおりを挟む
一晩経って透花は改めて自分の失敗を実感していた。

(フィル様が行くような場所に私なんかが一緒に行けるわけないじゃない)

御子だともてはやされているが、王族であるフィルと自分はそもそも身分が違うのだ。気を遣っているようで、なんて図々しいことを言ってしまったのだろう。

フィルと顔を合わせるのが憂鬱で仕方がない。きっといつもと同じように接してくれるはずだが、内心どう思われているのかと考えるだけで逃げ出したくなる。

(でも何処にも居場所なんてないし、せめてこれ以上失望されないようにしないと)

ノックの音に、透花は諦観を抱きながら身体を起こした。

「トーカ様、午前中は厨房を空けておりますから、自由にお使いくださいと料理長が申しておりました」

着替えを手伝ってもらったミレーに言われて、透花はすっかり失念していたことに気づいた。

「……ごめんなさい。やっぱりフィル様にお渡しするのは止めておきます。料理長さんにもご迷惑おかけしたのに申し訳ないです」
「お気になさらなくて大丈夫ですよ。ではその旨私から伝えておきます。もしまた気が変わられたら仰ってくださいね。トーカ様が作られたお菓子なら、フィル殿下はさぞお喜びになられると思いますから」

一番お世話になっているフィルにも何か贈り物をしたかったが、安価な物では失礼だろうし何よりフィルに買ってもらったものを渡すというのも違う気がした。
ならば手作りのお菓子でもと思い、ミレーに相談して料理長から厨房の使用許可を取ってもらったのだ。

フィルには内緒にしていたのがせめてもの幸いだった。
フィルはきっと受け取ってくれるだろうが、それは御子に対する気遣いゆえだ。素人の作った物を渡しても困らせただけだろう。

「あの……いつもお世話になっているから、良かったら使ってください」

話を逸らすように透花は昨日買ったハンカチをミレーに手渡した。

「まあ、まあ!トーカ様から贈り物を頂けるなんて光栄です。私どもに本来そのようなお気遣いは不要なのですが、トーカ様のお気持ちとして有難く頂戴いたしますね」

嬉しそうなミレーの笑顔に透花はほっと胸を撫で下ろす。

「あら、私の好きな色に可愛らしいタンポポの刺繍まで入っているんですね。トーカ様、素敵な贈り物をありがとうございます」

心から喜んでくれることが伝わってくる言葉に心が温かくなる。透花は少しでも同じように返したくて、口を開いた。

「……明るくて元気なタンポポが、ミレーさんみたいだと思って。いつもありがとうございます」
「トーカ様……」

呟くような小さな声だが、ミレーにはちゃんと届いたらしい。顔を上げると感極まったように目じりに涙をためている。

「一生大切にしますから」
「えっと……消耗品なので使ってください」

そんなやり取りをしていたため、お菓子作りのことはすっかり話題からなくなっていた。


「明日から新しい教師に来てもらうようになりました」

そんなフィルの言葉に、透花はつい不安そうな顔をしてしまったのだろう。大丈夫だと言うように笑顔を浮かべて、フィルは続けた。

「ネイワース侯爵夫人は魔力操作に長けたミレーと同年代の女性です。トーカ様と同じ年頃の令嬢もいますので、御子教育以外のこともご相談しやすいかと思います」

フィルの説明に納得しながらも、どこか不安がぬぐえない。触れられそうになった時に透花が怯えてしまったので、同性の教師を手配してくれたのだろう。フィルやジョナスに言いにくいことも女性同士ならと思ったことも理解できる。

だけど、フィルの側近であるジョナスの手をこれ以上煩わせないためだと考えてしまうのは間違っているのだろうか。

「……お気遣いありがとうございます」

いずれにしてもフィルが決めたことなのだから異論などない。自分はただ勉強を頑張って御子として役に立てばいいのだ。


「メリル・ネイワースと申します。御子様にお目に掛かれて光栄ですわ」

美しい容姿と気品のある雰囲気のメリルに透花は緊張が高まっていくのを感じた。

「……透花と申します。ご指導のほどよろしくお願いします」

小さく頭を下げるとメリルは一瞬困ったように眉を下げ、微笑んだ。

「御子様は謙虚でいらっしゃいますのね。あまり緊張なさらないでくださいまし。今日はただの顔合わせでございますから、お茶を飲みながらお話が出来ればと思いますわ」
「は、はい」

こんな上流階級の人と何を話せば良いのだろうか。思わず隣に立つフィルに顔を向けてしまう。

「ネイワース侯爵夫人、トーカ様はこちらの世界にお越しになってまだ日が浅い。令嬢たちが好むものや流行り物などは私も把握しているとはいいがたいので、そのようなことを話してもらって良いだろうか」
「承知いたしましたわ、フィル殿下」

そのような話題であれば透花は聞き役に徹していればいい。ほっとした透花だが、後に続いたメリルの言葉にぎくりと身体を強張らせた。

「そのようなことであれば殿方の前でお話することではありませんわ。フィル殿下も公務がおありでしょうし、御子様とお二人でお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
「……トーカ様、いかがいたしますか?」

フィルがいなければ困った時に頼ることができない。だが初対面の人と二人きりになりたくないというのは透花の我儘で、メリルにも失礼だろう。

「はい、お願いします」

そう答える以外、透花に選択肢はなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした

ひとみん
恋愛
夫に殺されたはずなのに、目覚めれば五才に戻っていた。同じ運命は嫌だと、足掻きはじめるクロエ。 なんとか前に死んだ年齢を超えられたけど、実は何やら祖母が裏で色々動いていたらしい。 ザル設定のご都合主義です。 最初はほぼ状況説明的文章です・・・

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

薬師の能力を買われた嫁ぎ先は闇の仕事を請け負う一族でした

あねもね
恋愛
薬師として働くエリーゼ・バリエンホルムは貴族の娘。 しかし両親が亡くなって以降、叔父に家を追い出されていた。エリーゼは自分の生活と弟の学費を稼ぐために頑張っていたが、店の立ち退きを迫られる事態となる。同時期に、好意を寄せていたシメオン・ラウル・アランブール伯爵からプロポーズを申し込まれていたものの、その申し出を受けず、娼館に足を踏み入れることにした。 エリーゼが娼館にいることを知ったシメオンは、エリーゼを大金で身請けして屋敷に連れ帰る。けれどそこは闇の仕事を請け負う一族で、シメオンはエリーゼに毒薬作りを命じた。 薬師としての矜持を踏みにじられ、一度は泣き崩れたエリーゼだったが……。 ――私は私の信念で戦う。決して誰にも屈しない。

悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい

はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。  義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。  それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。  こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…  セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。  短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

処理中です...