22 / 56
招待状
しおりを挟む
手紙に目を通すフィルの表情が険しい。
(私にも関係があるらしいけど、ちょっと不安かも……)
落ち着かない気分でジョナスとフィルに視線を彷徨わせていると、ようやくフィルが顔を上げた。
「国王陛下ならびに王妃殿下からお茶会の招待状をお預かりしております。以前からトーカ様とのご面談を希望されておりましたので、お茶会はただの名目でしょう。お断りすることも可能ですが、いかがいたしますか?」
正直なところ身分の高い人に会うのは緊張するし、失態を晒してしまわないか不安だし、積極的に会いたいとは思わない。だが透花は御子としてお世話になっている立場なのだ。
フィルは断ることもできると言ってくれたが、それは流石に失礼だろう。
「お茶会はいつですか?」
「……明日の午後です」
一瞬聞き間違いだろうかと思ったが、フィルの苦々しい表情を見る限りそうではないようだ。そんなに急な話だとは思わず動揺してしまう透花を見て、フィルはジョナスに声を掛けた。
「日を改めると伝えてくれ。まだ心身の傷が癒えていないのに性急すぎるだろう」
「その場合は御子様に断りの手紙を書いていただかなくてはなりません。それから陛下からフィル様の判断ではなく、御子様のご意向を伺うようにと仰せつかっております」
そう言うと、ジョナスは問いかけるように透花に視線を送ってくる。挨拶の仕方や適切な作法、言葉遣いなど不安で頭がいっぱいになったが、断るのは失礼だと考えたばかりではないか。
「ご、ご招待をお受けします」
承諾の言葉に、ジョナスが少しだけ目元を緩めて頷いた。よくよく考えれば、ジョナスも国王とフィルの間で板挟み状態で辛かったのかもしれない。
「父上も母上も悪い人ではないのだけど、為政者の立場でもあるんだ。トーカにとって不愉快なことを言われるかもしれない」
申し訳なさそうに言われて、透花は首を横に振った。以前メリルからも言われたことだが、御子としての役目を果たしていない以上、快く思われてなくても仕方がない。
「フィー、それよりもちゃんとしたマナーが分からないから心配で……。付け焼き刃かもしれないけど、正しい挨拶やマナーを教えて欲しいの」
「トーカはこの国の王と同じ身分だからそんなに気にしなくて良いのだけど、トーカの不安が紛れるなら喜んで」
そうして透花はフィルとミレーからマナーを教わり、必死で頭と体に叩き込んだ。だがたった一日で大きな変化は期待できない。不格好だろうが恥ずかしがって何もしないほうが失礼に当たる。
緊張のあまり昼食は喉を通らなかったが、それを見越してかミレーが口当たりの良いスープや小さく切った果物などを準備してくれた。
王族とのお茶会とあっていつも以上に着飾るために、ミレーがリラという侍女を連れてきた。透花は大人しくしているだけだったが、終わった頃には二人とも疲弊しているものの、その顔には達成感のようなものが浮かんでいる。
「あの、綺麗にしてくれてありがとう」
メイクが濃いわけでもなくマナー程度だと聞いていたのに、鏡の中の自分はまるで別人のようだ。リラが丁寧にマッサージや細かいケアを施してくれたおかげで顔色もいつより明るく見える。
「っ、お褒めに預かり光栄に存じます」
リラがびくっと身体を震わせたので間違った言葉を掛けてしまったのかと思ったが、頬を染めながら瞳を輝かせている。ミレーを見るとそっと首を横に振られたので大丈夫なようだ。
ノックの音に透花が振り返ると、フィルの姿が見えてすぐにドアが閉まった。
「え……あれ、今フィル様がいらっしゃった気が……?」
戸惑う透花にミレーが小さく溜息を吐き、リラもどこか呆れたような表情で扉の方を見つめている。
もう一度ドアが開き、気まずそうな表情でフィルが入ってきた。
まだ着替え中だと勘違いしたのだろうか。
「トーカ様、とても……お綺麗です」
「ミレーとリラが頑張ってくれたのですが……似合っていませんか?」
綺麗だと褒めてくれるのに、いつもより口調が固く目を合わせようとしない。これなら恥ずかしくない格好だと安心していただけに、不安が一気に高まっていく。
「っ、まさか!いつも以上に可愛らしくて、言葉を失ってしまいました。本当に……誰にも見せたくないな」
ぽつりと漏らした言葉は辛うじて聞き取れたが、可愛いのに見せたくないという心理がよく分からない。
ふわりとした白いドレスには花や植物の意匠が縫い込まれており、ところどころにあしらったフリルやリボンが軽やかに揺れている。紫を帯びたタンザナイトのネックレスはフィルが準備してくれたもので、鮮やかで深みのある青がドレスを一層可憐に見せていた。
「あの、別のドレスに着替えたほうがいいですか?」
「いえ、そのままで!ただ絶対に私の側から離れてはいけませんよ。……危ないですからね」
その言葉の意味をよく理解できなかったものの、着替えなくても大丈夫なようだ。二人が苦労して準備してくれたものが無駄にならずに済んだ安堵から、透花は大人しく頷いておいた。
(私にも関係があるらしいけど、ちょっと不安かも……)
落ち着かない気分でジョナスとフィルに視線を彷徨わせていると、ようやくフィルが顔を上げた。
「国王陛下ならびに王妃殿下からお茶会の招待状をお預かりしております。以前からトーカ様とのご面談を希望されておりましたので、お茶会はただの名目でしょう。お断りすることも可能ですが、いかがいたしますか?」
正直なところ身分の高い人に会うのは緊張するし、失態を晒してしまわないか不安だし、積極的に会いたいとは思わない。だが透花は御子としてお世話になっている立場なのだ。
フィルは断ることもできると言ってくれたが、それは流石に失礼だろう。
「お茶会はいつですか?」
「……明日の午後です」
一瞬聞き間違いだろうかと思ったが、フィルの苦々しい表情を見る限りそうではないようだ。そんなに急な話だとは思わず動揺してしまう透花を見て、フィルはジョナスに声を掛けた。
「日を改めると伝えてくれ。まだ心身の傷が癒えていないのに性急すぎるだろう」
「その場合は御子様に断りの手紙を書いていただかなくてはなりません。それから陛下からフィル様の判断ではなく、御子様のご意向を伺うようにと仰せつかっております」
そう言うと、ジョナスは問いかけるように透花に視線を送ってくる。挨拶の仕方や適切な作法、言葉遣いなど不安で頭がいっぱいになったが、断るのは失礼だと考えたばかりではないか。
「ご、ご招待をお受けします」
承諾の言葉に、ジョナスが少しだけ目元を緩めて頷いた。よくよく考えれば、ジョナスも国王とフィルの間で板挟み状態で辛かったのかもしれない。
「父上も母上も悪い人ではないのだけど、為政者の立場でもあるんだ。トーカにとって不愉快なことを言われるかもしれない」
申し訳なさそうに言われて、透花は首を横に振った。以前メリルからも言われたことだが、御子としての役目を果たしていない以上、快く思われてなくても仕方がない。
「フィー、それよりもちゃんとしたマナーが分からないから心配で……。付け焼き刃かもしれないけど、正しい挨拶やマナーを教えて欲しいの」
「トーカはこの国の王と同じ身分だからそんなに気にしなくて良いのだけど、トーカの不安が紛れるなら喜んで」
そうして透花はフィルとミレーからマナーを教わり、必死で頭と体に叩き込んだ。だがたった一日で大きな変化は期待できない。不格好だろうが恥ずかしがって何もしないほうが失礼に当たる。
緊張のあまり昼食は喉を通らなかったが、それを見越してかミレーが口当たりの良いスープや小さく切った果物などを準備してくれた。
王族とのお茶会とあっていつも以上に着飾るために、ミレーがリラという侍女を連れてきた。透花は大人しくしているだけだったが、終わった頃には二人とも疲弊しているものの、その顔には達成感のようなものが浮かんでいる。
「あの、綺麗にしてくれてありがとう」
メイクが濃いわけでもなくマナー程度だと聞いていたのに、鏡の中の自分はまるで別人のようだ。リラが丁寧にマッサージや細かいケアを施してくれたおかげで顔色もいつより明るく見える。
「っ、お褒めに預かり光栄に存じます」
リラがびくっと身体を震わせたので間違った言葉を掛けてしまったのかと思ったが、頬を染めながら瞳を輝かせている。ミレーを見るとそっと首を横に振られたので大丈夫なようだ。
ノックの音に透花が振り返ると、フィルの姿が見えてすぐにドアが閉まった。
「え……あれ、今フィル様がいらっしゃった気が……?」
戸惑う透花にミレーが小さく溜息を吐き、リラもどこか呆れたような表情で扉の方を見つめている。
もう一度ドアが開き、気まずそうな表情でフィルが入ってきた。
まだ着替え中だと勘違いしたのだろうか。
「トーカ様、とても……お綺麗です」
「ミレーとリラが頑張ってくれたのですが……似合っていませんか?」
綺麗だと褒めてくれるのに、いつもより口調が固く目を合わせようとしない。これなら恥ずかしくない格好だと安心していただけに、不安が一気に高まっていく。
「っ、まさか!いつも以上に可愛らしくて、言葉を失ってしまいました。本当に……誰にも見せたくないな」
ぽつりと漏らした言葉は辛うじて聞き取れたが、可愛いのに見せたくないという心理がよく分からない。
ふわりとした白いドレスには花や植物の意匠が縫い込まれており、ところどころにあしらったフリルやリボンが軽やかに揺れている。紫を帯びたタンザナイトのネックレスはフィルが準備してくれたもので、鮮やかで深みのある青がドレスを一層可憐に見せていた。
「あの、別のドレスに着替えたほうがいいですか?」
「いえ、そのままで!ただ絶対に私の側から離れてはいけませんよ。……危ないですからね」
その言葉の意味をよく理解できなかったものの、着替えなくても大丈夫なようだ。二人が苦労して準備してくれたものが無駄にならずに済んだ安堵から、透花は大人しく頷いておいた。
44
あなたにおすすめの小説
差し出された毒杯
しろねこ。
恋愛
深い森の中。
一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。
「あなたのその表情が見たかった」
毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。
王妃は少女の美しさが妬ましかった。
そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。
スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。
お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。
か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。
ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。
同名キャラで複数の作品を書いています。
立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。
ところどころリンクもしています。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした
ひとみん
恋愛
夫に殺されたはずなのに、目覚めれば五才に戻っていた。同じ運命は嫌だと、足掻きはじめるクロエ。
なんとか前に死んだ年齢を超えられたけど、実は何やら祖母が裏で色々動いていたらしい。
ザル設定のご都合主義です。
最初はほぼ状況説明的文章です・・・
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。
ラディ
恋愛
一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。
家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。
劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。
一人の男が現れる。
彼女の人生は彼の登場により一変する。
この機を逃さぬよう、彼女は。
幸せになることに、決めた。
■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です!
■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました!
■感想や御要望などお気軽にどうぞ!
■エールやいいねも励みになります!
■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。
※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。
バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~
スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。
何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。
◇◆◇
作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。
DO NOT REPOST.
薬師の能力を買われた嫁ぎ先は闇の仕事を請け負う一族でした
あねもね
恋愛
薬師として働くエリーゼ・バリエンホルムは貴族の娘。
しかし両親が亡くなって以降、叔父に家を追い出されていた。エリーゼは自分の生活と弟の学費を稼ぐために頑張っていたが、店の立ち退きを迫られる事態となる。同時期に、好意を寄せていたシメオン・ラウル・アランブール伯爵からプロポーズを申し込まれていたものの、その申し出を受けず、娼館に足を踏み入れることにした。
エリーゼが娼館にいることを知ったシメオンは、エリーゼを大金で身請けして屋敷に連れ帰る。けれどそこは闇の仕事を請け負う一族で、シメオンはエリーゼに毒薬作りを命じた。
薬師としての矜持を踏みにじられ、一度は泣き崩れたエリーゼだったが……。
――私は私の信念で戦う。決して誰にも屈しない。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる